「入学式の時に、私たちボランティア部は、一回集まってデイケア組の名簿を渡されるのよ。それであらかじめ顔と名前を覚えて、初対面の時に、こっちから話しかけやすいように、いろいろと下準備するわけ。
 そこへあなたのお兄さんが来て、顧問の先生を通して、先に自己紹介してもらったの。
 多分、お兄さんは最初から先生に話をつけていて、あなたの知らないところで動いていたんだと思うな。どうして隠していたのかは知らないけど」
 
「翠は、一般クラスに移るために必死だったよ。俺たちと同じように勉強して、運動して、同じ目線に立ちたいって真剣に話していた。その熱意は買ってやってもいいんじゃないか? 隠し事していたのは悪いかもしれないけどさ」

 夕莉はじっと二人の話に聞き入っていた。気の弱そうな丸い目は、強い光を伴って、しっかりと開いているのだろうとわかった。

 夕莉はうつむいて、手の指をいじり始めた。彼女は悩むと指をいじる癖がある。
 佳純は夕莉が何をしたいのかを察した。
 
「じゃあ、翠君のクラスの出し物に寄ってみませんか?」