モノレール線に乗って停車駅で降りたところで、自分たちと同じ制服を着た子どもたちを見た。しかしその子たちは健全的な雰囲気を身にまとっていて、『普通学級』の子たちなのだと、すぐに察しがついた。入学式の時に一度行ったきりなので、この辺の土地感覚が今ひとつわからずに、二人はとりあえず、その生徒たちのあとをついていった。

 駅を出ると、最近発展したと思われる、賑やかだがどこか素朴な店が立ち並ぶアーケード街を、どんどん進んだ。そこを抜けると、アスファルトの照り返しがきつい傾斜の道があり、その道に入ったとたん、嘘のように、先ほどまでの人ごみがなくなった。

 静かな空気が流れるアスファルトの小高い道を、二人と同じ制服の子が歩いていく。夕莉と翠も懸命に足を動かし、坂を上っていく。

 いつの間にか同じ制服の子どもたちが、ほかにも大勢歩いていた。皆は楽しそうにおしゃべりを交わしながら、坂道をぐんぐん進んでいく。夕莉たちは何人もの生徒に追い抜かされて、ようやく学校へ着く時には、軽く息が切れていた。

「新学期早々、死ぬっての」

 翠がぼやいた。その投げやりな感じが何とも彼らしくて、夕莉は苦笑した。

 二人の下駄箱は、一般の生徒たちから離れた隅のほうにあった。上履きに履き替え、入学式の時に指示された教室へ向かう。
 そこは坂の傾斜の関係上、渡り廊下を通った地下へと続く場所だった。下り坂のところに構えている教室で、そのため、地下といっても太陽の光は届く。窓の外からは、見渡す限りの東京の街並みと、その向こうの小さな山々が見える。

 地下一階。一年生の教室へ入る。クラスの名は『デイケア組』。
 夕莉はだいぶ緊張して足が一瞬すくんだが、翠のほうは、大胆にずかずかと足を運ぶ。あわてて兄のあとをついて、自分と同じ赤みがかった茶髪を目で追う。一番前の席に座り、夕莉と翠は、時が経つのを待った。

「兄妹?」

 ふと声がかかった。二人は条件反射で、同時に振り返った。
 艶のある長い黒髪をハーフアップに結い上げた、優しげな雰囲気の女子生徒がいた。
 夕莉と翠は目を見合わせた。「他人」に声をかけられた時の対処法を、翠が瞬時に見つけ出した。

「うん。そう」

 翠が突き放したように言った。夕莉は黙って、目の前のそばかすの浮いた少女を見つめている。若干、怯えるように。

「えっと、お兄さんで、妹さんかな?」

 女子生徒はふんわりと問いかけ、微笑んだ。この「他人」は果たして敵か、そうではないのか。夕莉にはまだわかりかねていた。

「ああ。双子」

 翠が言う。少女は「ああ、そうなんだ。そんな気がしてた」と笑った。

「私は伊織佳純(いおり かすみ)です。青花(あおはな)、さん?」

 佳純と名乗ったその少女は、入学式の時に配られたプリントを広げた。

「そう。俺が青花翠で、こっちが妹の青花夕莉」

 翠が自分の名を言ったので、夕莉はビクリとした。「他人」にここまで話していいのかと、心配そうに兄のほうを見る。翠は、多分こいつは大丈夫、と目で言った。

「よろしくお願いします」

 佳純はうっすらと浮かんだそばかすで、にっこりと爽やかに笑った。夕莉も決心して、ぎこちない笑みで返した。

「……よろしく」

 自分とは程遠い、艶やかな黒髪が、記憶に残りそうなほど綺麗だった。

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