佳純はあわてて「まあ、私にはこの家があるからいいか」と声のトーンを上げた。聡子たちが目配せして、さっと優しい人間の顔をする。「私たちは、もう新しい家族だよ。お前の過去も、病気のことも、全部委ねていいんだよ。安心しなさい」と稔が言って、聡子がうなずいた。
 佳純は「ありがとう」と礼を述べた。
 白いご飯がだいぶ冷めていた。

   ○

 この家に来た時のことは、よく覚えている。毎晩、悪夢を見続けたからだ。

 家族と完全に離別して、家にいることが難しくなった子どもを一時的に保護する施設に預けられ、聡子たちと出会った日、恐ろしい夢を見るようになった。
 
 窓から突き落とされる夢。
 
 それはマンションの屋上だったり、高層ビルの最上階からだったりと形を変えたが、いずれも地に落ちる時の胃がふわりと浮きあがるような感覚がやけにリアルで、うなされて叫んだ。寝汗をびっしょりとかき、七畳の部屋で一人泣いた。すると聡子たちが必ずやって来て佳純の身体を抱きしめてくれるのだった。
 
 毎晩そうやって慰められるうちに、次第に佳純は心を開き始め、聡子たちのことを親だと思うことを決めた。