聡子から訊かれて、佳純は夕莉の気の弱そうな丸い目の奥の弱弱しい瞳を思い浮かべた。あの子はまだ自分の足で立てていないきらいがあるが、前に進もうという決意はある。それとなく言葉を濁して「だいぶ元気になったかな」と曖昧に笑った。

 本当は、兄の翠は夕莉の家から出て行って、学校の寮に入ってしまった。夕莉と翠は今ではもう何の接点もない。彼は何の説明もなく、誰にも相談することなく、家族から離れてしまったのだった。

 聡子と稔には「双子の友達が大きな喧嘩をしてしまった」ということしか話していない。何となくあの二人のことを詳しく説明するのは気が進まなかった。

「双子って、すごく仲が良いのと、反対に仲が悪いのとで分かれるよね」

 佳純が何気なくそうつぶやくと、稔がテレビを見つめながらぼんやりと言った。

「あまりに近すぎるから、客観的に見られないのだろう」

 佳純はふいに家族のことを思い出した。

「うちのお兄ちゃんたちも、お父さんも、客観的に見ることができなかったってことなのかなあ」

 聡子と稔が気まずい表情になり、その場に糸がピンと張ったような緊張が走った。