小さい頃の記憶は、あまりよく覚えていない。ずっと頭が痛くて、どこでも泣き喚いていたという思い出しかない。五歳の時に大きな病院へ行かされ、そこで慢性的な片頭痛だと知らされた。それ以来、定期的に病院へ行き、頭痛薬をもらう日々を繰り返している。

 頭痛は、いつどこで起こるかわからない。学校の授業中でも頭が痛くなったし、家でも突然襲ってきた。痛み止めの薬を常備していて、それがないと気が気でいられなかった。
 一番困ったのは夜寝ている時だ。頭が痛くて目が覚める。そういう時はたいてい涙が出ている。

 ある日の夜、母が寝室から夕莉を連れて、リビングルームから街の夜景を見せてくれた。その時、不思議と頭痛が和らいだ。心も落ち着いた。母は夕莉を抱きしめて、背中をさすってくれていた。外は綺麗だね。そう言いながら、一緒に夜を過ごしてくれた。
 そして、隣には、いつも翠がいた。
 夕莉と同じように喘息で苦しみ、同じように母に寄り添って、窓の外の風景を眺めていた、双子の兄。
 あの頃、唯一心が安らいだのは、母と兄の三人で夜を眺めている静かな時間帯の、リビングルームだけだった。

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