夕莉のか弱い声が聞こえた。それでもその声はあの時の消えそうな声ではなく、いくらか芯の通ったものだった。

「きっと楽しいよ。生徒が主役のお祭りだって言っていたから」
「佳純は、小学校の文化祭には出たことあるの?」

 夕莉の問いに、佳純は「うん」と答えた。

「でも、小学校のやつって本格的な遊びじゃないから、盛り上がりは段違いだよ」
「そんなにすごいのか……」

 夕莉は少し興味を持ったように顔を上げた。

「夏央先輩たちと周れるようにしたいね」
「でも、二人とも人気者だからなあ」

 佳純の言葉に夕莉はまだ不安げな声を出す。それでも彼女が少しずつ前を向き始めていることに、佳純はほっとしていた。

 この儚い少女を守るのは、自分の使命だ。
 佳純は戒めにも似た誓いを、胸に秘めていた。

   ○

 バス停のところで夕莉と別れて、七つ目の停車場所で降りる。新築マンションや立派な一軒家が立ち並ぶ住宅街の、小さな坂になっているその道を歩いた先に、佳純の家はある。正確には佳純が新しく住み始めた家がある。

「ただいまー」