夏休み明けからしばらく経った、九月の終わり。残暑がようやく和らいできた季節。翠がデイケア組から一般クラスへ編入したことを除けば、いつもと変わりない平穏な毎日だった。

 帰り支度をして夕莉と一緒に教室を出ると、冬華から声をかけられた。

「お二人さん、文化祭って出る?」

 佳純は夕莉と目を合わせ、考え込んだ。身長が低い二人はすらりと背の高い冬華の切れ味鋭い美貌を見上げ、声を合わせた。

「夏央先輩と冬華先輩が一緒に回ってくれるなら」

 すると冬華の切れ長の目に、困ったような表情が浮かんだ。都合でも悪いのだろうか、と佳純は思った。

「実はそれ、ほかの子にも言われているのよねえ」
 
 冬華は苦笑いを浮かべながら頭を抱えた。「うーん……」と唸ってブツブツと何事かつぶやいている。
 
 十月に行われる文化祭の下準備期間へ入った時期である。デイケア組は参加自由という形式を取っており、実際にはほとんどの人が自宅休みを取っている。冬華たちは何とかしてデイケア組の生徒を文化祭に参加させたいようだった。

「一度も文化祭を知らずに学校卒業するなんて、寂しすぎるでしょ?」