戦うしか道はないって。死を夢見ることは絶望なんだって。
 俺はまだ絶望しちゃいけない。生きるしかない。この身体で。そう決めた。
 でも、あいつはまだ夢を見ていた」
「……それから、妹さんを憎むように?」

 舞衣の声が、寂しげに聞こえたのは気のせいではないと思った。

「あいつが邪魔だと思うようになった。俺は、あいつの、首を絞める夢さえ見たんだ」

 何も疑わない妹。死の約束のことをいまだに信じている妹。翠の目に暗い光が宿った。

「あいつをあんな風にしたのは俺だ。でも何もしてやれない。あいつを救うのは俺じゃない。俺はこのままだとあいつに喰われる。もう離れなければいけないんだ」

 翠はうずくまった。こんなことを誰かに話すのは、今までになかったことだった。

「一体いつになったら楽になれるんだろう。俺はどこへ行けばいい」

 最低な人間だということはわかっている。
 自分だけ成長して、妹を置いていった。
 
 今だってこんなにも震えている。周囲の冷たい態度に、普通の世界へ足を踏み入れたことに後悔している。