「妹さんは、友達ができないまま、あなたに寄りかかり始めたのね?」

 舞衣が言葉を選びながら慎重に訊くと、翠の苦笑はさらに歪み始めた。美しい顔立ちが、忌まわしい過去のせいで険しい色になっていた。

「俺もまたあいつに依存していた。嫌ならさっさと友達を作って、距離を取ればいいのに、それができなかった。俺たちは家でも学校でもくっついていた」

 あの年は厳しい寒さだった。三学期の学校で、真冬の冷たい風を受けながら、妹と久しぶりに出た体育の授業。

 持久走だった。四年生になって初めて受けるもので、二人はとりあえず参加してみた。

 スタートラインに立ち、走り始めて数分も経たないうちに、妹の息が荒くなった。それに合わせるように自分も息が苦しくなった。結局二人は完走できずに、途中で倒れて保健室送りになった。
 
 先生が二人を捜し出してくれて見つかった時、すでに時刻は終了ベルが鳴ったあとだった。クラスの皆は待たされていて、露骨に嫌な顔をしていた。

 保健室に運ばれる時、クラスメイトの声が聞こえた。はっきりと。

「足引っ張るくらいなら死ね」

 翠はその言葉を聞いて、確信したのだった。