「いつから気づいた」

 声がかすれていることに自分でもわかった。目の前の少女が、得体のしれない女に見えた。
 舞衣が答える。

「文化祭の時。保健室送りになったあんたを迎えに来た、あの子を見た時の表情で。派手に暴れていたわね。目つきイッちゃってたわよ」

 翠は目を伏せた。一呼吸おいて、ぽつぽつと話し始めた。

「あいの存在は、俺には重すぎた」

 しんと静まり返った空気の流れる中、翠の声が死の翳りのように陰鬱な色を伴って、舞衣の耳に届いた。

「小学生の頃、俺たちは周りの子どもについていけなくて、しょっちゅう身体を壊しては、一緒の部屋で寝かされていた。
 あいつはそれが嬉しかったらしい。俺のそばにいる時は、いつも饒舌になっていた。
 四年の時だった。あいつが訊いてきた。
 私のことを好き? 
 急に白けた気分になった」
「あなたたちに友達はできなかったの?」

 舞衣の素朴な質問に、翠は苦笑した。

「世の中、他人を助けてくれる人間なんて、そういるものじゃないんだよ。俺たちは特に、人間関係を築くのが下手だったから」