百三十円を渡すと、二人は冷たい風を頬に受け止めながら、飲み物をごくごく飲み込んだ。

「温かいほうがよかったんじゃね?」
「いやあ、だって走ったら暑くなったんだもん。あんたもでしょ?」

 そう会話しているうち、あの教室にいた時の、震えるような怒りは、いつの間にか治まっていた。今の自分は、驚くほど落ち着いていた。
 
「俺、家出したんだ」
「うん」

 二人は同時にジュースを飲み終えた。

「どこにも居場所がなくて。家が嫌で、学校が嫌で」
「うん」
「どうしてだろう。あんなにあいつのことが嫌いだったのに、あいつのいるあの家が息苦しかったのに、あいつと同じようにウジウジいじけている。自棄になっている。やっぱり血の繋がりは無視できないのかな」
「嫌いってレベルじゃなかったでしょ」

 舞衣は翠を見つめた。
 翠もまた舞衣を見つめる。
 どくどくと心臓が静かな鼓動を立てている。
 彼女は言うつもりだろうか。翠のうちで眠っていた真実を。

「妹さんを殺したいと思ったこと、あるんじゃないの?」

 舞衣の挑むような瞳が、翠を捉えた。

「いつからだ」

 翠は問い返した。