息切れが治まると、今度はひどい咳が出た。喘ぎ声だけが、喉から情けない音を出して空気に触れた。
 
 背中を丸めて、身体が落ち着くのを待つ。こうしていれば、何とかその場をしのげたものだった。
 
 じっとしていると、咳は止んだが、震えるほどの寒気が襲ってきた。身体の芯から冷えて、このまま消滅してしまいそうな気持ちに陥った。学生鞄を抱きしめて凍えるように身を縮めた。
 
 誰か助けてほしいと、切実に身体が欲していた。
 
 やがて少しずつ動けるようになり、抱えていた鞄のチャックを開けて、アイフォンを取り出した。
 
 舞衣、お前に会いたい。俺を見つけて。

 震える指でアイフォンをタップし、メールを送信すると、翠はようやく身体を起こすことができた。喘息発作のような息切れと、そしてもっとひどい症状は、一応止まった。最悪な事態を招いたにもかかわらず、心はなぜかすっきりとしていた。

 ぼうっと空を見上げていた。真っ白な砂漠のような、あるいはあの世の海で泳ぐ舟のような、長く伸びた雲が、どこまでも白く空を覆っていた。