翠は言葉にならない叫びを口に出し、吠えるように何事かを怒鳴って、教室内を走りだして外へ出た。
 
 広い世界へ出たかった。こんな狭くて、誰かが誰かを格付けして噂するばかりの部屋に、愛着なんか一ミリもなかった。
 
 翠は走った。力の限り走った。反射的に手にした学生鞄と成績表だけを持って、どこへ行くのかもわからず、衝動のまま走り続けた。

   ○

 通学路を走り抜けて、駅を通り、だいぶ離れた場所にある広い公園にたどり着いた。

 こんなところまで行くのは初めてだった。公園があったことなど知らなかった。
 
 走り疲れ、息が途切れ始めて、何度経験したかわからない例の喘息発作が起こった。
 
 なだれ込むように木陰のベンチに倒れ込んで、胸を抑えた。
 
 呼吸が苦しかった。あまりに息ができないので涙が出てきた。これは悔しさからではない、発作の反動で出たやつだ。必死に自分に言い聞かせる。
 
 近くにいる主婦らしき人たちの視線を感じた。好奇の目。異物を見る目。どこへ逃げても、翠を追いかける無遠慮な視線はなくならず、広がる一方だった。