糸が一度切れると、あとはなだれ込むように、むき出しの感情が露わになった。

「そうやって上品な顔して、綺麗な言葉だけ並べて、俺がいなくなったらくだらない話で盛り上がるんだろ?」

 教室の空気は、翠の掌の上にあった。

 翠が動き出せば、皆は注目する。この異物を、絶対に受け入れないという固い意志が、今ここにいる生徒全員の目に映っていた。
 
「くだらねえ。本当にくだらねえな。俺がそんなに面白い生き物かよ。あちこち固まりを作って、動物の群れみたいに集団行動するお前らのほうが、よっぽどおかしいわ」

 翠のすぐ後ろの席の男子生徒が、身体を乗り出して翠の顔を殴りつけた。
 
 翠も傾いた身体を起こして相手を殴り返す。

「始めからこうすればよかったんじゃねえかよ!」

 翠の叫びは誰にも聞こえず、生徒たちは怒りの表情を露わにして、野次を飛ばした。
 
 担任教師があわてて男子生徒の身体を掴んで、翠から離す。
 
 保健係の彼は、ああ、やっぱりね、というように、心から見下したような視線を投げていた。