ボランティア部の生徒たちは、明るく話し上手で、常にこちらをリードしてくれた。夕莉たちも少しずつ口を割るようになり、まだどことなく緊張感があったが、大きなトラブルもなく、その日の午後のふれあいトークは終了した。
「お兄ちゃん、冬華さんと何話してたの?」
帰り道、夕莉は翠に尋ねた。二人はいつものように、モノレール線までのアーケード街を、寄り添って歩いていた。
「ん、別に」
翠の返事はそっけない。昔から無愛想なところはあったが、最近は特にそうだ。感じたこともなかった不安がこの日、種となって、夕莉の心に植えつけられた。
「あのね、夏央先輩と冬華先輩は両方とも丈夫でね、あまり風邪をひかないんだって」
「うん、聞いた」
翠の声はどこか上の空だった。夕莉は懸命に口を動かした。
「夏央先輩は、世話好きな親分肌って感じがした。冬華先輩はどうだった?」
「同じ。姉御肌な女。同性から慕われている感じだった」
翠は温度のない声で言う。彼はいつも面倒くさそうに夕莉に接していたが、目はきちんと妹の視線を捉えて、真っ直ぐだった。綺麗な二重のラインがスッと横に伸びて、その芸術的なほど美しい目の形が、夕莉は好きだった。
しかし今は、ぼんやりと膜の覆ったような虚ろな瞳で、少しも妹の話に耳を貸していない。
夕莉は不安を抱えたまま、それきり黙って、兄の横を歩いていた。心地よかったはずの二人の沈黙が、重苦しくて暗いものになった気がした。
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その日の夜、翠は両親に「話がある」と言って、夕飯後のダイニングテーブルに居座り、夕莉を部屋から追い出して、親と長い相談を始めた。
自室に戻った夕莉は寝るまでの時間、ひたすらベッドに座り込んで、膝を抱えていた。
何かが動く気配がした。自分ではどうすることもできないほどの、大きな運命のようなものが。
唯一わかるのは、兄が、大きな秘密を抱えているということだった。助け合って生きていくことを理念としていたのは、自分だけだったのだろうか。
真夜中のことだった。また頭痛に襲われた。
それは今までとは何かが違う、粘っこくてしつこい痛みだった。自分の無力さを嘲笑しているかのような、激しい痛みが襲った。
リビングルームに行って水を飲みながら、窓の外の夜景を見た。
兄が来るのを待った。しかし翠は一向に来なかった。いくら待っても頭痛は治まらず、嫌な予感がした。兄と自分の波長がずれている。どのように修正したらいいのか、夕莉にはわからなかった。
ソファーに横になりながら、空を見る。濃い黄色の三日月が光っていた。夜空は晴れているらしい。星を一つ見つけた。一人で見る夜の街は、頼りなく儚かった。それでもまだきれいだと思える自分に安心して、夕莉はリビングのソファーで朝まで眠った。
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