翠は顔を上げた。舞衣がこちらを見つめていた。舞衣の茶色い髪が、太陽の光を浴びて、ふと透けたような色になった。

「変わるよ」

 舞衣の声は力強かった。

「一学年上がれば、きっと皆、大人になる。一つ年を重ねるだけで、こんなに違うんだから。だからこんなことで悲しまないで」
「悲しくなんかない」

 翠は懸命に否定した。こんな些細な悪口でショックを受けている自分が許せなかった。

 舞衣は眉尻を下げて笑った。しょうがないなあ、と翠に近づき、手を取った。

「昼休み終わっちゃうから。今日はここまで。明日また会おうね」
「……うん」

 舞衣は翠の手を強く握った。そして合図をするようにニコッと笑うと、手を離し、中庭からホールに入る中扉を開け、校舎へ戻った。

 五時限目の予鈴が鳴るまで、翠はしばらくそこに佇んでいた。

   ○

 学生寮の食堂で、翠は隅のテーブル席に座って、一人きりの夕飯を過ごしていた。

 野菜がたっぷりと入ったビーフシチューを口に含みながら、家族からの手紙を読んだ。