あわてて声を落として、作家のプロフィール欄のページをめくる。
 
 翠も舞衣も、壮大な物語を紡いだ作者の著作歴を見るのが好きだった。
 どこで生まれたのか、どんな学歴だったのか、どのようにして作家デビューしたのか、それこそ一人の人生の物語を見るみたいで、わくわくした。
 
 最初にそのことを舞衣に告げた時も、
 
「こんな趣味持ってるの、私しかいないと思ってた」と彼女はパッと花が咲いたように笑った。

 気がつけば、二人は一緒に図書室へ行く仲になっていた。
 
「この作家、遅咲きだったんだね。四十代でデビューだって」

 舞衣がこっそりとささやいた。生まれ年とデビューした年を計算していたらしい。

「この人のほうは三十代デビューだな」

 翠も手にした作家のデビュー年を数えた。

 楽しいと思った。
 彼女といる時間が、いつしか癒しになっていた。
 自分一人きりで図書室に通って本を物色していたあの時が、まるで遠い過去のように思えた。
 無理にしっかりしなくてもいいというのは、飾らないでいいということは、翠にとって大きなことだった。

 あら、かわいい子ね。