しばらく本棚を眺め、適当なものを物色し、受付カウンターで図書カードに貸出しのデータを入れてもらうと、空いているテーブルでそれぞれの持ち出した本を見比べた。
 
「アガサ・クリスティーか。王道だね」
「まだ読み始めて間もないから。もう少ししたらマイナーなのも読んでみるつもり」
「ミステリーって、本格派とそうじゃないやつって区別されているけど、あんたはどっち?」
「どっちもいいところがあると思うから、両方だな」
「そうなんだ。私はこれにしたー」

 舞衣の差し出した本は、外国でベストセラーになったシリーズものだった。

「それ、どっちかっていうとSFじゃね?」
「え、マジ? ハイファンタジーかと思ったんだけど」
「俺、SFとハイファンタジーって、あまり区別がつかないんだけど」
「私もー。読書家から見たら、私たちって本のミーハーかもね」

 舞衣がおかしそうにクスクス笑う。その横顔を見て、鼻筋のラインがきれいだな、と思った。

 別のテーブルで勉強している生徒たちがいるので、ひそひそささやくような声で言葉を交わしていたが、知らず盛り上がっていたようで、ちらりと視線を向けられた。