『What a wonderful world』
英語と音楽の授業で習った、ルイ・アームストロングの名曲だ。一度は誰だって聞いたことがあると思う。別に詳しいことは知らないけれど、なんとなく頭の片隅に残るメロディと歌詞は、こんな私でも「いいな」と人並みな感想くらい持ったのを覚えている。
タイトルの和訳は『この素晴らしき世界』。カンタンな英語だ。カンタンな、日本語だ。
わかりやすくて、迷いのない、まっすぐな和訳。でも私は、世界がスバラシイって、その発想に驚いた。
———例えば、本当にこの世界が素晴らしかったなら。
もっと、息を吐くことは楽だったと思う。笑うことは楽しい事だったと思う。ひとの優しさがきちんと感じれたと思う。
朝起きたとき窓から差し込む光が眩しく思えたかもしれないし、通学路で見るパンジーがかわいく見えたかもしれない。落ちていく夕日を綺麗だと感じて、光る星に微笑んで、今日もいい日だったと幸せな気持ちで眠りにつく夜が増えたかもしれない。
世界は決して私に優しくない。それはもう、ずっと前から変わらないことだ。
成績表に記された『1』の文字以外で、私を救ってくれるものなんてない。勉強机に向かうこと以外で、落ち着く空間はない。背筋を伸ばして、笑顔を作って、『優等生』でいること。『1位』をとること。
それが私の存在価値。私の生きる、くすんだ世界だ。