分かり合えるかもしれない。
彼の過去を知り、そんな予感がしていた。
だけど……
「残念だよ。リンテンス・エメロード」
「それはこっちのセリフだ。聖域者のあんたが、悪魔なんかと手を組むなんてな」
まさかこんな形で聖域者と戦うことになるとは思わなかった。
心から残念だ。
色源雷術――
「赤雷」
俺は右腕を前に突き出し、赤雷を放った。
アリストは足元の黒い影を操り、影の壁を作って防御する。
自身から伸びる影を魔力で強化し自在に操る。
あれが影属性の魔術か。
「できればもっと別の形で見たかった」
これも残念だ。
俺は蒼雷で強化し、藍雷の二刀を生成して前に出る。
対するアリストも腰の剣を抜き、突っ込む俺に刃を向けた。
「来い」
漆黒の刃。
剣にも影を纏わせているらしい。
威力強化が目的か。
いや――
鍔迫り合いになり、互いの刃が近づく。
受け止めていた彼の剣を覆う影が形を変え、棘のように伸び俺を襲う。
俺は首を横に傾け回避する。
そのまま剣を弾き、距離をとるため後退する。
「いいのか? 足元を見ないで」
アリストの言葉に誘導されるように、俺は視線を下げる。
俺の足元の影が濃くなっている。
のではなく、アリストの足元から彼の影が伸びて、ここまで届いていた。
影の刃が迫る。
「影縫い」
「っ――」
影の刃が当たる直前に、蒼雷の光が走る。
俺は不意打ちに備え、蒼雷の反を発動した状態で戦っていた。
おかげで影の刃を相殺できたけど、かなりギリギリだったな。
黒影操術。
彼を中心に濃く広がる影は自然に出来たものではなく、彼の魔力で生成された漆黒の影だ。
影の範囲や形も自由自在。
さっきみたいに伸ばして、相手の足元から攻撃することも出来る。
自身の周囲を守る影の結界としても使えるし、かなり汎用性の高い術式だ。
加えてここは――
俺は空を見上げる。
星々が輝く夜空。
ここは一年を通して夜だと彼は言っていた。
彼が持つ加護は、夜と月の女神ヘカテーの加護。
夜空の下にいるとき、彼は無限に等しい魔力と術式強度を得る。
持久戦に持ち込まれると勝機は薄い。
今の彼がその気になれば、この一帯を影で覆うことだって出来るはずだ。
そうなる前に手を打つ。
「緑雷――砂場」
「足元を砂鉄で覆ったか」
「これでさっきみたいな不意打ちは出来ないだろ?」
「確かにそうだが、その程度で強がられても困るな」
アリストは周囲の影から無数の刃を生成。
影縫い。
糸のついた針で縫うように、太く鋭い影の刃で攻撃する。
「砂刃」
俺は緑雷で操った砂鉄を同様の形状に変化させ、影縫いを相殺する。
不用意に近づけば足元の影を踏む。
ならば一定の距離を保ちながら戦えばいいだけ。
もしくは――
「黄雷――鳳」
空中戦なら足元を気にする必要もない。
「なめるな」
影が空まで伸びる。
鳳が素早く旋回し、影の刃を躱していく。
その隙に藍雷の弓を生成。
空から矢の雨を降り注ぐも、影の壁に阻まれてしまった。
「でもいいのか?」
空中に飛んだことで、意識は上へ向いている。
「足元見なくて」
彼は気づいていない。
俺がまだ、緑雷を解いていないということに。
「これはっ」
「砂刃」
砂鉄の刃がアリストを斬り裂く。
咄嗟に身をよじり躱したことで、肩を掠めた程度に終わった。
「誤算だったな。地に触れていなくても砂鉄を操れるのか」
「ああ」
緑雷で一度流した雷はしばらく持続する。
仮に俺が地上を離れても、緑雷の力が残っている内なら操れる。
もっとも持続できるのは数十秒が限界だが、不意を突くには十分な時間だったようだ。
そして今の攻撃で、彼の影は一時的に途切れている。
今なら防御も間に合わないだろ。
「黄雷――竜」
「ちっ!」
「もう遅い!」
巨大な雷の竜がアリストを襲う。
激しい轟音が張り響き、地形が大きくえぐれる。
土煙が舞う中へ、俺は鳳を解除し降り立つ。
「……今のは効いたな」
「だったら倒れていてほしかったよ」
土煙が晴れ、アリストの姿が目に入る。
ダメージは負ったはずだが、どうやら足りなかったらしい。
ギリギリ影の防御したのか。
竜に耐えるとは、さすが聖域者だ。
「強いな……聞いていた通り、悪魔を倒しただけのことはある」
「……」
アリストが不敵に笑う。
「仕方ない。ならば、万事の一手といこう」
剣を逆手に持ち、地面に突き刺す。
その瞬間、彼の魔力が地面に走り、反ドーム状の壁が生成される。
「無間の女王」
漆黒の結界に覆われ、夜空すら見えなくなる。
明かりすらない暗闇の中で、互いの存在だけがハッキリと見える奇妙さと、背筋が凍る寒気を感じる。
嫌な予感がする。
この結界がどういうものか知らないが、効果を発揮される前に先手を打つべきだ。
そう判断した俺は術式を発動する。
色源雷術蒼雷――
「――!?」
蒼雷が発動しない。
術式に魔力を流しても反応がない。
蒼雷だけではなく、他の術式も……
「気づいたようだな」
「……」
「お前はもう……術式を発動できない」
彼の過去を知り、そんな予感がしていた。
だけど……
「残念だよ。リンテンス・エメロード」
「それはこっちのセリフだ。聖域者のあんたが、悪魔なんかと手を組むなんてな」
まさかこんな形で聖域者と戦うことになるとは思わなかった。
心から残念だ。
色源雷術――
「赤雷」
俺は右腕を前に突き出し、赤雷を放った。
アリストは足元の黒い影を操り、影の壁を作って防御する。
自身から伸びる影を魔力で強化し自在に操る。
あれが影属性の魔術か。
「できればもっと別の形で見たかった」
これも残念だ。
俺は蒼雷で強化し、藍雷の二刀を生成して前に出る。
対するアリストも腰の剣を抜き、突っ込む俺に刃を向けた。
「来い」
漆黒の刃。
剣にも影を纏わせているらしい。
威力強化が目的か。
いや――
鍔迫り合いになり、互いの刃が近づく。
受け止めていた彼の剣を覆う影が形を変え、棘のように伸び俺を襲う。
俺は首を横に傾け回避する。
そのまま剣を弾き、距離をとるため後退する。
「いいのか? 足元を見ないで」
アリストの言葉に誘導されるように、俺は視線を下げる。
俺の足元の影が濃くなっている。
のではなく、アリストの足元から彼の影が伸びて、ここまで届いていた。
影の刃が迫る。
「影縫い」
「っ――」
影の刃が当たる直前に、蒼雷の光が走る。
俺は不意打ちに備え、蒼雷の反を発動した状態で戦っていた。
おかげで影の刃を相殺できたけど、かなりギリギリだったな。
黒影操術。
彼を中心に濃く広がる影は自然に出来たものではなく、彼の魔力で生成された漆黒の影だ。
影の範囲や形も自由自在。
さっきみたいに伸ばして、相手の足元から攻撃することも出来る。
自身の周囲を守る影の結界としても使えるし、かなり汎用性の高い術式だ。
加えてここは――
俺は空を見上げる。
星々が輝く夜空。
ここは一年を通して夜だと彼は言っていた。
彼が持つ加護は、夜と月の女神ヘカテーの加護。
夜空の下にいるとき、彼は無限に等しい魔力と術式強度を得る。
持久戦に持ち込まれると勝機は薄い。
今の彼がその気になれば、この一帯を影で覆うことだって出来るはずだ。
そうなる前に手を打つ。
「緑雷――砂場」
「足元を砂鉄で覆ったか」
「これでさっきみたいな不意打ちは出来ないだろ?」
「確かにそうだが、その程度で強がられても困るな」
アリストは周囲の影から無数の刃を生成。
影縫い。
糸のついた針で縫うように、太く鋭い影の刃で攻撃する。
「砂刃」
俺は緑雷で操った砂鉄を同様の形状に変化させ、影縫いを相殺する。
不用意に近づけば足元の影を踏む。
ならば一定の距離を保ちながら戦えばいいだけ。
もしくは――
「黄雷――鳳」
空中戦なら足元を気にする必要もない。
「なめるな」
影が空まで伸びる。
鳳が素早く旋回し、影の刃を躱していく。
その隙に藍雷の弓を生成。
空から矢の雨を降り注ぐも、影の壁に阻まれてしまった。
「でもいいのか?」
空中に飛んだことで、意識は上へ向いている。
「足元見なくて」
彼は気づいていない。
俺がまだ、緑雷を解いていないということに。
「これはっ」
「砂刃」
砂鉄の刃がアリストを斬り裂く。
咄嗟に身をよじり躱したことで、肩を掠めた程度に終わった。
「誤算だったな。地に触れていなくても砂鉄を操れるのか」
「ああ」
緑雷で一度流した雷はしばらく持続する。
仮に俺が地上を離れても、緑雷の力が残っている内なら操れる。
もっとも持続できるのは数十秒が限界だが、不意を突くには十分な時間だったようだ。
そして今の攻撃で、彼の影は一時的に途切れている。
今なら防御も間に合わないだろ。
「黄雷――竜」
「ちっ!」
「もう遅い!」
巨大な雷の竜がアリストを襲う。
激しい轟音が張り響き、地形が大きくえぐれる。
土煙が舞う中へ、俺は鳳を解除し降り立つ。
「……今のは効いたな」
「だったら倒れていてほしかったよ」
土煙が晴れ、アリストの姿が目に入る。
ダメージは負ったはずだが、どうやら足りなかったらしい。
ギリギリ影の防御したのか。
竜に耐えるとは、さすが聖域者だ。
「強いな……聞いていた通り、悪魔を倒しただけのことはある」
「……」
アリストが不敵に笑う。
「仕方ない。ならば、万事の一手といこう」
剣を逆手に持ち、地面に突き刺す。
その瞬間、彼の魔力が地面に走り、反ドーム状の壁が生成される。
「無間の女王」
漆黒の結界に覆われ、夜空すら見えなくなる。
明かりすらない暗闇の中で、互いの存在だけがハッキリと見える奇妙さと、背筋が凍る寒気を感じる。
嫌な予感がする。
この結界がどういうものか知らないが、効果を発揮される前に先手を打つべきだ。
そう判断した俺は術式を発動する。
色源雷術蒼雷――
「――!?」
蒼雷が発動しない。
術式に魔力を流しても反応がない。
蒼雷だけではなく、他の術式も……
「気づいたようだな」
「……」
「お前はもう……術式を発動できない」