「ただいま戻りました」
「おや? 二人とも無事に戻ってきたね」
返ってきた俺とシトネを、師匠が笑顔で出迎えてくれた。
「エルマさんは?」
「もう奥で作業を始めているよ。採ってきた素材は直接渡してあげなさい」
「わかりました。シトネ」
「うん!」
俺はシトネにヤタハガネを手渡し、エルマさんの所へ向かわせる。
後を続こうとした俺に、師匠は小さな声で囁く。
「また随分とイチャイチャしてたじゃないか」
「ぅ……やっぱり見てたんですね」
師匠は遠くを見通せる眼を持っているから、どうせ見られているのだろうと思っていたけど……
どうやら予想通りだったらしい。
腹が立つにやけ方をしている。
「一応言っておきますけど、手は出してませんよ」
「それはどっちの意味かな?」
「戦いのほうです!」
まったくこの人は……
師匠は笑いながら続けて言う。
「はっはっはっ! そう大きな声を出すものではないよ。せっかくヒソヒソ話をしたのに意味がないじゃないか」
「師匠の所為でしょ。それにシトネならもう行きましたよ」
「そうか。シトネちゃん……頑張ったようだね」
「はい。頑張ってましたね」
戦っていたシトネの姿を思い浮かべる。
「師匠」
「何だい?」
「シトネは強くなりますよ」
「うん。というかそれ、僕が最初に言ったんだからね?」
「わ、わかってますよ」
俺と師匠が話している頃、シトネはエルマさんに声をかけていた。
「エルマ様」
「ん? その声はシトネちゃん!」
作業に集中していたエルマさんも、シトネの声を聞いた途端に手を止めて振り返る。
「戻ってきんだね」
「はい! あの、これをどうぞ」
シトネがヤタハガネを差し出す。
すると、エルマさんはニコッと優しく微笑み、彼女から受け取る。
「アルフォースは正しかったようだね」
「エルマ様?」
「何でもないよ。ありがとうねシトネちゃん、これで魔剣がうてる」
「よろしくお願いします! あ、あとこれを見て頂きたくて」
「ん?」
シトネは腰に携えた刀を抜き、エルマさんに見せた。
ロックエレメンタルに折られ、半分くらいの長さになってしまった刀だ。
一緒に折れた刃も見せる。
「モンスターとの戦いで折れてしまって……治すことはできませんか? 今まで一緒に戦ってきた大切な刀なので」
「なるほどね。じゃあそれも魔剣作りに使ってもいいかい?」
「え?」
「ダメなら打ち直すだけにするけど?」
「い、いえぜひお願いします!」
「そうこなくっちゃな」
シトネとエルマさんが嬉しそうに笑っている。
そこへ遅れて俺と師匠が近づく。
「話は済んだようだね」
「はい!」
「師匠、そろそろ俺たちも」
「そうだね。引き続き君たちには、アリスト探してもらおうか」
「ん? 何だお前らアリストの奴を探してんのか?」
作業に戻ろうとしていたエルマさんが、その名前を聞いて振り返る。
「はい。そうですけど」
「あいつならこの間会ったぞ」
思わぬところで衝撃の発言が飛び出す。
俺と師匠は同じような表情になって、互いの顔を見合いエルマさんに尋ねる。
「本当かい? エルマ」
「ああ。二、三週間くらい前だったかな? ここじゃない所に工房を構えてた時に、アポもなしに尋ねてきたんだよ」
「師匠」
「ああ、思わぬ収穫だね」
一向に足取りがつかめなかったもう一人の聖域者。
エルの情報待ちしかないと思っていたけど、エルマさんの情報があれば探せるかもしれない。
「しかし珍しいね。彼が君を訪ねてくるなんて」
「そうなんだよね~ あと何か変なこと聞いてきてさ」
「変なこと?」
「ああ。この世界は正しいと思うか?って」
俺と師匠はその言葉に思い当たる存在がいた。
途端に表情は険しくなり、師匠がエルマさんに改めて尋ねる。
「すまないエルマ、彼が何と言っていたのかもっと詳しく教えてくれるかな?」
「ん? 別に構わないよ。えーっと確か~」
この世界は正しいと思うかい?
俺は全く思わない。
この世界は不平等の産物だ。
何の価値もないゴミのような奴らが、力があるなら戦えと、魔術師に頼りきっている。
陰でどれだけ苦しみ命を落としているとも知らずに、安全な場所で欠伸をしている。
だが、これは当たり前のことで、俺一人が騒いだところで変えられない現実だ。
それをもし、変えられる力があるとすれば?
そんな世界を変えたいとは思わないか?
「あたしはそんな話興味なかったかな。作業の邪魔だからどっか行けって言ったんだよ。そしたらあいつ、残念だとか呟いて急に襲い掛かってきてよぉ~」
「なっ……」
「ほう。無事だということは、その場は何とかなったんだね?」
「まぁな。暴れやがるからあたしもムカついて、つい本気になっちまったよ」
その後、エルマさんは工房の場所をここへ移したそうだ。
それ以来は特に危険もなく、今日まで過ごしていた。
この話を聞いた俺は、最悪の予感が脳裏によぎる。
おそらく、師匠も同じことを考えていたに違いない。
「これは急いだほうが良さそうだね」
「はい」
戦いの歯車がまた一つ、動き出した音が聞こえる。
「おや? 二人とも無事に戻ってきたね」
返ってきた俺とシトネを、師匠が笑顔で出迎えてくれた。
「エルマさんは?」
「もう奥で作業を始めているよ。採ってきた素材は直接渡してあげなさい」
「わかりました。シトネ」
「うん!」
俺はシトネにヤタハガネを手渡し、エルマさんの所へ向かわせる。
後を続こうとした俺に、師匠は小さな声で囁く。
「また随分とイチャイチャしてたじゃないか」
「ぅ……やっぱり見てたんですね」
師匠は遠くを見通せる眼を持っているから、どうせ見られているのだろうと思っていたけど……
どうやら予想通りだったらしい。
腹が立つにやけ方をしている。
「一応言っておきますけど、手は出してませんよ」
「それはどっちの意味かな?」
「戦いのほうです!」
まったくこの人は……
師匠は笑いながら続けて言う。
「はっはっはっ! そう大きな声を出すものではないよ。せっかくヒソヒソ話をしたのに意味がないじゃないか」
「師匠の所為でしょ。それにシトネならもう行きましたよ」
「そうか。シトネちゃん……頑張ったようだね」
「はい。頑張ってましたね」
戦っていたシトネの姿を思い浮かべる。
「師匠」
「何だい?」
「シトネは強くなりますよ」
「うん。というかそれ、僕が最初に言ったんだからね?」
「わ、わかってますよ」
俺と師匠が話している頃、シトネはエルマさんに声をかけていた。
「エルマ様」
「ん? その声はシトネちゃん!」
作業に集中していたエルマさんも、シトネの声を聞いた途端に手を止めて振り返る。
「戻ってきんだね」
「はい! あの、これをどうぞ」
シトネがヤタハガネを差し出す。
すると、エルマさんはニコッと優しく微笑み、彼女から受け取る。
「アルフォースは正しかったようだね」
「エルマ様?」
「何でもないよ。ありがとうねシトネちゃん、これで魔剣がうてる」
「よろしくお願いします! あ、あとこれを見て頂きたくて」
「ん?」
シトネは腰に携えた刀を抜き、エルマさんに見せた。
ロックエレメンタルに折られ、半分くらいの長さになってしまった刀だ。
一緒に折れた刃も見せる。
「モンスターとの戦いで折れてしまって……治すことはできませんか? 今まで一緒に戦ってきた大切な刀なので」
「なるほどね。じゃあそれも魔剣作りに使ってもいいかい?」
「え?」
「ダメなら打ち直すだけにするけど?」
「い、いえぜひお願いします!」
「そうこなくっちゃな」
シトネとエルマさんが嬉しそうに笑っている。
そこへ遅れて俺と師匠が近づく。
「話は済んだようだね」
「はい!」
「師匠、そろそろ俺たちも」
「そうだね。引き続き君たちには、アリスト探してもらおうか」
「ん? 何だお前らアリストの奴を探してんのか?」
作業に戻ろうとしていたエルマさんが、その名前を聞いて振り返る。
「はい。そうですけど」
「あいつならこの間会ったぞ」
思わぬところで衝撃の発言が飛び出す。
俺と師匠は同じような表情になって、互いの顔を見合いエルマさんに尋ねる。
「本当かい? エルマ」
「ああ。二、三週間くらい前だったかな? ここじゃない所に工房を構えてた時に、アポもなしに尋ねてきたんだよ」
「師匠」
「ああ、思わぬ収穫だね」
一向に足取りがつかめなかったもう一人の聖域者。
エルの情報待ちしかないと思っていたけど、エルマさんの情報があれば探せるかもしれない。
「しかし珍しいね。彼が君を訪ねてくるなんて」
「そうなんだよね~ あと何か変なこと聞いてきてさ」
「変なこと?」
「ああ。この世界は正しいと思うか?って」
俺と師匠はその言葉に思い当たる存在がいた。
途端に表情は険しくなり、師匠がエルマさんに改めて尋ねる。
「すまないエルマ、彼が何と言っていたのかもっと詳しく教えてくれるかな?」
「ん? 別に構わないよ。えーっと確か~」
この世界は正しいと思うかい?
俺は全く思わない。
この世界は不平等の産物だ。
何の価値もないゴミのような奴らが、力があるなら戦えと、魔術師に頼りきっている。
陰でどれだけ苦しみ命を落としているとも知らずに、安全な場所で欠伸をしている。
だが、これは当たり前のことで、俺一人が騒いだところで変えられない現実だ。
それをもし、変えられる力があるとすれば?
そんな世界を変えたいとは思わないか?
「あたしはそんな話興味なかったかな。作業の邪魔だからどっか行けって言ったんだよ。そしたらあいつ、残念だとか呟いて急に襲い掛かってきてよぉ~」
「なっ……」
「ほう。無事だということは、その場は何とかなったんだね?」
「まぁな。暴れやがるからあたしもムカついて、つい本気になっちまったよ」
その後、エルマさんは工房の場所をここへ移したそうだ。
それ以来は特に危険もなく、今日まで過ごしていた。
この話を聞いた俺は、最悪の予感が脳裏によぎる。
おそらく、師匠も同じことを考えていたに違いない。
「これは急いだほうが良さそうだね」
「はい」
戦いの歯車がまた一つ、動き出した音が聞こえる。