「見てるぞ」
「うん!」
シトネは刀を強く握りなおす。
その瞳に迷いはなく、眼前の敵に集中していた。
落ち着きを取り戻したことで、彼女は冷静に現状を分析し始まる。
ロックエレメンタルの強度、環境デバフ、折れてしまった刀。
これらを統合し、一つの結論にたどり着く。
「それなら!」
刀が光りを纏う。
「そうだ。それで良い」
魔力濃度の濃いこの環境で、術式は正常に発動しない。
ただそれは単純に制御が乱れやすいというだけだ。
特に放出系の術式は、手元から離れた後に制御が乱れてしまいやすい。
ならばどうするか?
放出せず纏わせてしまえば、自身で制御し続けることが出来る。
シトネは旋光と同じ術式を発動し、その力を刃に留め圧縮した。
折れた部分の刃も、光の刃で補填している。
シトネが飛び出し、ロックエレメンタルの懐へもぐりこむ。
疲労で俊敏性に欠けるとも、見慣れた動きならば躱し、もぐりこむ程度は容易だ。
そして――
「そこだ!」
シトネの刃がロックエレメンタルの左胸を切り裂いた。
硬い岩に阻まれた奥には、赤い宝石のような結晶が埋まっている。
彼女の斬撃は結晶ごと真っ二つに斬り、エレメンタルは肉体が崩壊していく。
ロックエレメンタルには核が存在する。
構造上はゴーレムに近く、核を破壊すれば簡単に倒せる。
核の位置は左胸、人間の心臓と同じ位置だ。
あとは硬い岩の皮を斬り裂く力さえあれば、決して恐ろしいモンスターではない。
「っ……」
シトネの手が震えている。
恐怖とは違う。
単純に限界が近づいているようだ。
「行け!」
あと少しだ。
シトネは叫び、力を振り絞って刀を振るった。
私は戦える!
モンスターでも、悪魔でも!
この先もずっと、リン君の隣に立つんだ!
彼女の刀に込められた想いに心当たりがある。
今はただ、その瞬間を見届けよう。
最後の一体を、彼女の刃が斬り裂いた。
「勝……った」
ヤタハガネを前に、立っているのは彼女一人。
戦いに勝利した彼女は、安堵して力が抜けていく。
フラッと倒れる彼女を、俺が優しく受け止めた。
「スゥー……」
「お疲れさま、よく頑張ったなシトネ」
シトネは勝利した。
モンスターにではなく、先へ進む恐怖に勝ったんだ。
師匠の狙いはここにあったのだろう。
シトネは疲れて眠ってしまったが、命に別状はなさそうだ。
一先ず安心……と思ったところで、周囲からゴゴゴという音が聞こえる。
「ロックエレメンタル……新手か」
どうやらまだ残っていたらしい。
地中深くに埋まっていたのだろうか。
複数体のロックエレメンタルが俺とシトネを取り囲む。
シトネは戦えない。
俺は戦ってはいけない。
しかしまぁ――
「せっかく良い感じで終わったんだ。邪魔をしないでくれるか?」
ロックエレメンタルの群れが止まる。
奴らが感じたのは魔力の圧。
ヤタハガネよりも濃くて重い魔力を放っただけだ。
それに恐怖し、奴らは動けなくなる。
これくらいは良いだろう。
別に戦ってないし、威嚇しただけだからな。
そうしてロックエレメンタルたちは地中へ戻っていった。
戦っても勝てないと本能的に悟ったのかもしれない。
あの岩の塊に、本能なんてものがあるのかは微妙なところだが。
「さてと」
手のひらに一杯で良いんだっけ?
これを採取するくらいは、俺がやっても良いよね。
さすがにこの場所でずっといるのはシトネの身体に悪い。
早々に下山して、温かいスープでも飲みたいところだ。
俺はヤタハガネを砕き、一塊を採取した。
「よし」
シトネはまだ眠っている。
俺は彼女をおんぶして、そのまま下山を始めた。
ニ十分後――
「ぅ……」
「おっ、目が覚めたか?」
「リン……君?」
「ああ」
寝ぼけているのか、ウトウトしていて言葉にも覇気がない。
彼女はぼーっとしながら俺の頬をツンツンしてきた。
「え、何?」
「ううん、リン君だなーって」
「何だよそれ」
「えへへへ。リン君の背中……あったかいね」
「寝ぼけてるのか?」
「そうかも」
嘘だな。
ちゃんと答えてるし。
「私ね……怖かったんだ。ずっとずっと怖かった」
「ああ」
「でも気付いたの。戦うのも怖いし、先に進むのも怖いけど、私が一番怖いのは……また一人になること。リン君と、みんなと離れ離れになることなんだって」
「そうか」
彼女は恐怖知っている。
そして彼女は、孤独も知っている。
境遇は違えど、彼女もまた孤独と戦ってきた。
ずっと前から戦い続けてきた。
だからこそ彼女は、孤独へ戻ることを恐れ抗う。
彼女にとって、死への恐怖よりも孤独に戻る恐怖のほうが強かったらしい。
「その気持ち……俺にもわかるよ」
「うん」
「一人は寂しいよな?」
「うん」
「一人は悲しいよな」
「……うん」
「みんなと一緒にいるほうが、ずっと楽しいんだよな」
「うん!」
俺とシトネには帰る場所がある。
暖かくて、優しくて、愛おしい人たちが待つ場所が。
それを知ってしまったら、もう孤独に戻るなんて出来ないよ。
「強くなろう」
「うん。もっと先へ行くんだ」
離れてしまわないように。
このぬくもりを、離さなくて済むように。
「うん!」
シトネは刀を強く握りなおす。
その瞳に迷いはなく、眼前の敵に集中していた。
落ち着きを取り戻したことで、彼女は冷静に現状を分析し始まる。
ロックエレメンタルの強度、環境デバフ、折れてしまった刀。
これらを統合し、一つの結論にたどり着く。
「それなら!」
刀が光りを纏う。
「そうだ。それで良い」
魔力濃度の濃いこの環境で、術式は正常に発動しない。
ただそれは単純に制御が乱れやすいというだけだ。
特に放出系の術式は、手元から離れた後に制御が乱れてしまいやすい。
ならばどうするか?
放出せず纏わせてしまえば、自身で制御し続けることが出来る。
シトネは旋光と同じ術式を発動し、その力を刃に留め圧縮した。
折れた部分の刃も、光の刃で補填している。
シトネが飛び出し、ロックエレメンタルの懐へもぐりこむ。
疲労で俊敏性に欠けるとも、見慣れた動きならば躱し、もぐりこむ程度は容易だ。
そして――
「そこだ!」
シトネの刃がロックエレメンタルの左胸を切り裂いた。
硬い岩に阻まれた奥には、赤い宝石のような結晶が埋まっている。
彼女の斬撃は結晶ごと真っ二つに斬り、エレメンタルは肉体が崩壊していく。
ロックエレメンタルには核が存在する。
構造上はゴーレムに近く、核を破壊すれば簡単に倒せる。
核の位置は左胸、人間の心臓と同じ位置だ。
あとは硬い岩の皮を斬り裂く力さえあれば、決して恐ろしいモンスターではない。
「っ……」
シトネの手が震えている。
恐怖とは違う。
単純に限界が近づいているようだ。
「行け!」
あと少しだ。
シトネは叫び、力を振り絞って刀を振るった。
私は戦える!
モンスターでも、悪魔でも!
この先もずっと、リン君の隣に立つんだ!
彼女の刀に込められた想いに心当たりがある。
今はただ、その瞬間を見届けよう。
最後の一体を、彼女の刃が斬り裂いた。
「勝……った」
ヤタハガネを前に、立っているのは彼女一人。
戦いに勝利した彼女は、安堵して力が抜けていく。
フラッと倒れる彼女を、俺が優しく受け止めた。
「スゥー……」
「お疲れさま、よく頑張ったなシトネ」
シトネは勝利した。
モンスターにではなく、先へ進む恐怖に勝ったんだ。
師匠の狙いはここにあったのだろう。
シトネは疲れて眠ってしまったが、命に別状はなさそうだ。
一先ず安心……と思ったところで、周囲からゴゴゴという音が聞こえる。
「ロックエレメンタル……新手か」
どうやらまだ残っていたらしい。
地中深くに埋まっていたのだろうか。
複数体のロックエレメンタルが俺とシトネを取り囲む。
シトネは戦えない。
俺は戦ってはいけない。
しかしまぁ――
「せっかく良い感じで終わったんだ。邪魔をしないでくれるか?」
ロックエレメンタルの群れが止まる。
奴らが感じたのは魔力の圧。
ヤタハガネよりも濃くて重い魔力を放っただけだ。
それに恐怖し、奴らは動けなくなる。
これくらいは良いだろう。
別に戦ってないし、威嚇しただけだからな。
そうしてロックエレメンタルたちは地中へ戻っていった。
戦っても勝てないと本能的に悟ったのかもしれない。
あの岩の塊に、本能なんてものがあるのかは微妙なところだが。
「さてと」
手のひらに一杯で良いんだっけ?
これを採取するくらいは、俺がやっても良いよね。
さすがにこの場所でずっといるのはシトネの身体に悪い。
早々に下山して、温かいスープでも飲みたいところだ。
俺はヤタハガネを砕き、一塊を採取した。
「よし」
シトネはまだ眠っている。
俺は彼女をおんぶして、そのまま下山を始めた。
ニ十分後――
「ぅ……」
「おっ、目が覚めたか?」
「リン……君?」
「ああ」
寝ぼけているのか、ウトウトしていて言葉にも覇気がない。
彼女はぼーっとしながら俺の頬をツンツンしてきた。
「え、何?」
「ううん、リン君だなーって」
「何だよそれ」
「えへへへ。リン君の背中……あったかいね」
「寝ぼけてるのか?」
「そうかも」
嘘だな。
ちゃんと答えてるし。
「私ね……怖かったんだ。ずっとずっと怖かった」
「ああ」
「でも気付いたの。戦うのも怖いし、先に進むのも怖いけど、私が一番怖いのは……また一人になること。リン君と、みんなと離れ離れになることなんだって」
「そうか」
彼女は恐怖知っている。
そして彼女は、孤独も知っている。
境遇は違えど、彼女もまた孤独と戦ってきた。
ずっと前から戦い続けてきた。
だからこそ彼女は、孤独へ戻ることを恐れ抗う。
彼女にとって、死への恐怖よりも孤独に戻る恐怖のほうが強かったらしい。
「その気持ち……俺にもわかるよ」
「うん」
「一人は寂しいよな?」
「うん」
「一人は悲しいよな」
「……うん」
「みんなと一緒にいるほうが、ずっと楽しいんだよな」
「うん!」
俺とシトネには帰る場所がある。
暖かくて、優しくて、愛おしい人たちが待つ場所が。
それを知ってしまったら、もう孤独に戻るなんて出来ないよ。
「強くなろう」
「うん。もっと先へ行くんだ」
離れてしまわないように。
このぬくもりを、離さなくて済むように。