「それじゃさっそく作り始めるわって、シトネちゃん剣は使ったことあるの?」
「あるよ。剣というか刀だね、あれは」
「刀だって?」
「は、はい!」
シトネは腰に携えていた刀をエルマさんに差し出す。
エルマさんは刀を受け取り、刀身を抜いて確認して呟く。
「へぇ、こいつは中々の上物だね。誰が作ったのかかな?」
「え、えっと……村の鍛冶師さんでゲンゴさんっていうお爺ちゃんです」
「ゲンゴの爺ちゃん? そーかシトネちゃんはあの村の出身なのか~」
「エルマさんはゲンゴさんを知ってるんですか?」
「ああ、よーく知ってるわよ。若い頃に何度か教えてもらっていた人だからね」
シトネとエルマさんに意外な接点を見つけ、話が盛り上がる。
慌てたり怯えたりせわしなかったシトネも、ようやく落ち着いて話が出来るようになっていた。
「あの人は知識も技術もずば抜けてたわ~ まぁ今はあたしのほうが断然上だけどね! なんかゲンゴ爺ちゃんの刀見てたら俄然やる気出てきたわ」
「それは何よりだね」
師匠がニコッと笑う。
そんな師匠を見ても苛立っていない様子だし、本当に気分が乗ってきたのだろう。
魔剣の鍛冶師と呼ばれる人の魔剣づくり。
俺も個人的に興味はある。
「う~ん、よし! 足りない素材があるからさ。アルフォースお前取ってきてくれないか?」
「足りない素材? ちなみに何かな?」
「ヤタハガネさ」
「ヤタハガネ?」
俺も初めて聞く名前に首を傾げる。
エルマさんの説明によると、この世に存在する鉱石の中で三本の指に入る硬度を持つ鉱石らしい。
その硬さからエルマさんでなければ加工は不可能。
そしてヤタハガネの大きな特徴は、強大な魔力を宿しているという点だった。
「基本的に生物以外が魔力を宿すことはない。だがこのヤタハガネは例外さ。手のひら一杯くらいあれば十分なんだが、丁度切らしてるんだよ」
「なるほど、場所はわかってるのかい?」
「ああ。この山の天辺にあるよ」
「そうか、ならば請け負おう。ただし採りに向かうの僕じゃない」
この流れ……俺に行かせるつもりだな。
まぁいいけど。
「わかってますよ、師匠」
「いいや君でもないよリンテンス」
「えっ?」
「採りに行くのは、シトネちゃんだ」
三人の視線が彼女に向けられる。
当の本人は驚き、キョトンとした表情を見せていた。
言葉はわかっても、言っている意味はわからない。
そんな感じだろう。
「え、あの……私ですか?」
「うん、そうだよ。君の刀を作ってもらうんだから、君が採りに行くのは自然じゃないかな?」
正論だ。
こういう時の師匠は少し冷たい。
反論したのはエルマさんだ。
「おいちょっと待ちなよ。本気で言ってるかい?」
「もちろんさ」
「わかってないだろ? この山の天辺には――」
何かを言おうとしたエルマさんを、師匠の指が止める。
「……大丈夫さ」
「ふぅ、まぁお前がそういうなら大丈夫なんでしょうね。でもどうなっても責任はとらないから」
「それで構わない。リンテンスもいいかい?」
師匠は俺に了承を求めてきた。
俺はチラッと、シトネのほうを見る。
半分は話についていけてなくて、まだ考え中の様子。
さっきのエルマさんの反応からして、採りに行くだけでも危険がありそうだ。
一人で行けというなら、師匠にも考えがあるのだろう。
師匠はいつだって正しくて、間違ったことはしない。
師匠が出来ると言えば、それはちゃんと出来る
わかっているさ。
だけど――
「俺もついて行っていいですか?」
「採りに行くのは彼女だよ?」
「はい。だからついて行くだけです」
これだけは譲れない。
例え師匠が相手でも、シトネを一人で行かせるのは嫌だ。
「そうか。ならば同行は許可しよう」
「ありがとうございます」
「ただし同行だけだ。戦うことは禁止する。もし破れば……」
「わかってますよ。大丈夫なんでしょう?」
「ああ、もちろん」
「だったら良いです。俺はただ、それを見届けたいだけですから」
俺がそう言うと、師匠は小さく笑う。
師匠のことだから、俺がこう言いだすと予想していたのかもしれない。
俺はシトネに顔を向ける。
「シトネ」
「リン君……」
「行こうか」
「……うん」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
洞窟を出ると、外は荒々しい吹雪だった。
視界が悪く進むだけでも辛い。
そんな中を俺とシトネは突き進む。
目指すは山頂。
エルマさんの話だと、雲さえ抜けてしまえば後は登るだけらしい。
「出来れば今日中に抜けたいけど……中々きついな」
「……」
「シトネ?」
「……ねぇリン君。アルフォース様が言ってたことって本当なのかな?」
「ん?」
「さっきの、私が悪魔と戦えるって話だよ」
「ああ、それか」
さっきから静かだと思って心配したけど、そのことを考えていただけか。
「シトネはどう思うんだ?」
「私は……本当にそうなのかなって思う」
「正直だな」
「だってさ! 私は知ってるから……悪魔が強くて、恐ろしい存在だってこと……」
シトネの脳裏には、あの日の出来事が浮かんでいるに違いない。
「あんなのと戦えるなんて……思えないよ」
「そっか。でもたぶん、その答えは天辺にたどり着けばわかると思うぞ」
「あるよ。剣というか刀だね、あれは」
「刀だって?」
「は、はい!」
シトネは腰に携えていた刀をエルマさんに差し出す。
エルマさんは刀を受け取り、刀身を抜いて確認して呟く。
「へぇ、こいつは中々の上物だね。誰が作ったのかかな?」
「え、えっと……村の鍛冶師さんでゲンゴさんっていうお爺ちゃんです」
「ゲンゴの爺ちゃん? そーかシトネちゃんはあの村の出身なのか~」
「エルマさんはゲンゴさんを知ってるんですか?」
「ああ、よーく知ってるわよ。若い頃に何度か教えてもらっていた人だからね」
シトネとエルマさんに意外な接点を見つけ、話が盛り上がる。
慌てたり怯えたりせわしなかったシトネも、ようやく落ち着いて話が出来るようになっていた。
「あの人は知識も技術もずば抜けてたわ~ まぁ今はあたしのほうが断然上だけどね! なんかゲンゴ爺ちゃんの刀見てたら俄然やる気出てきたわ」
「それは何よりだね」
師匠がニコッと笑う。
そんな師匠を見ても苛立っていない様子だし、本当に気分が乗ってきたのだろう。
魔剣の鍛冶師と呼ばれる人の魔剣づくり。
俺も個人的に興味はある。
「う~ん、よし! 足りない素材があるからさ。アルフォースお前取ってきてくれないか?」
「足りない素材? ちなみに何かな?」
「ヤタハガネさ」
「ヤタハガネ?」
俺も初めて聞く名前に首を傾げる。
エルマさんの説明によると、この世に存在する鉱石の中で三本の指に入る硬度を持つ鉱石らしい。
その硬さからエルマさんでなければ加工は不可能。
そしてヤタハガネの大きな特徴は、強大な魔力を宿しているという点だった。
「基本的に生物以外が魔力を宿すことはない。だがこのヤタハガネは例外さ。手のひら一杯くらいあれば十分なんだが、丁度切らしてるんだよ」
「なるほど、場所はわかってるのかい?」
「ああ。この山の天辺にあるよ」
「そうか、ならば請け負おう。ただし採りに向かうの僕じゃない」
この流れ……俺に行かせるつもりだな。
まぁいいけど。
「わかってますよ、師匠」
「いいや君でもないよリンテンス」
「えっ?」
「採りに行くのは、シトネちゃんだ」
三人の視線が彼女に向けられる。
当の本人は驚き、キョトンとした表情を見せていた。
言葉はわかっても、言っている意味はわからない。
そんな感じだろう。
「え、あの……私ですか?」
「うん、そうだよ。君の刀を作ってもらうんだから、君が採りに行くのは自然じゃないかな?」
正論だ。
こういう時の師匠は少し冷たい。
反論したのはエルマさんだ。
「おいちょっと待ちなよ。本気で言ってるかい?」
「もちろんさ」
「わかってないだろ? この山の天辺には――」
何かを言おうとしたエルマさんを、師匠の指が止める。
「……大丈夫さ」
「ふぅ、まぁお前がそういうなら大丈夫なんでしょうね。でもどうなっても責任はとらないから」
「それで構わない。リンテンスもいいかい?」
師匠は俺に了承を求めてきた。
俺はチラッと、シトネのほうを見る。
半分は話についていけてなくて、まだ考え中の様子。
さっきのエルマさんの反応からして、採りに行くだけでも危険がありそうだ。
一人で行けというなら、師匠にも考えがあるのだろう。
師匠はいつだって正しくて、間違ったことはしない。
師匠が出来ると言えば、それはちゃんと出来る
わかっているさ。
だけど――
「俺もついて行っていいですか?」
「採りに行くのは彼女だよ?」
「はい。だからついて行くだけです」
これだけは譲れない。
例え師匠が相手でも、シトネを一人で行かせるのは嫌だ。
「そうか。ならば同行は許可しよう」
「ありがとうございます」
「ただし同行だけだ。戦うことは禁止する。もし破れば……」
「わかってますよ。大丈夫なんでしょう?」
「ああ、もちろん」
「だったら良いです。俺はただ、それを見届けたいだけですから」
俺がそう言うと、師匠は小さく笑う。
師匠のことだから、俺がこう言いだすと予想していたのかもしれない。
俺はシトネに顔を向ける。
「シトネ」
「リン君……」
「行こうか」
「……うん」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
洞窟を出ると、外は荒々しい吹雪だった。
視界が悪く進むだけでも辛い。
そんな中を俺とシトネは突き進む。
目指すは山頂。
エルマさんの話だと、雲さえ抜けてしまえば後は登るだけらしい。
「出来れば今日中に抜けたいけど……中々きついな」
「……」
「シトネ?」
「……ねぇリン君。アルフォース様が言ってたことって本当なのかな?」
「ん?」
「さっきの、私が悪魔と戦えるって話だよ」
「ああ、それか」
さっきから静かだと思って心配したけど、そのことを考えていただけか。
「シトネはどう思うんだ?」
「私は……本当にそうなのかなって思う」
「正直だな」
「だってさ! 私は知ってるから……悪魔が強くて、恐ろしい存在だってこと……」
シトネの脳裏には、あの日の出来事が浮かんでいるに違いない。
「あんなのと戦えるなんて……思えないよ」
「そっか。でもたぶん、その答えは天辺にたどり着けばわかると思うぞ」