「そろそろ始めませんか?」
「ん? 皿洗いなら今終わったところだよ?」
「そうじゃなくて情報交換ですよ。師匠が言いだしたんじゃないですか」
「あぁーそっちか」
まさか今の一瞬で忘れていたわけじゃないよな。
師匠ならあり得そうだから困る。
俺はふぅーと小さくため息をこぼし、師匠にあらかじめ伝える。
「先に言っておきますけど、俺のほうはまだ何もわかってませんよ? エルに協力を依頼したのも、ついさっきの話ですから」
「そのようだね。まぁ彼女に依頼したのなら間違いない。いずれ何かしらの情報は持ってきてくれると思うよ」
「俺も期待してます」
人探しは俺も苦手だ。
エルの情報網にかける以外、今のところ出来ることがない。
「師匠のほうは?」
「うん。僕のほうはかなり候補を絞れたよ」
師匠が捜しているのは、現存する聖域者で唯一の女性エルマ・ヘルメイス。
鍛冶の神たるヘファイストスの加護を受け、錬成魔術に長けた彼女は、あらゆる武具を生み出し鍛え上げる。
剣を生み出せば魔剣や聖剣に。
鎧を生み出せば、ドラゴンの一撃すら通さない強靭さを得るという。
日常的に使うような道具ですら、彼女が手掛けた物はこの世に二つとない名品となるだろう。
故に多くの権力者たちが、彼女の力を欲して金を積む。
それを嫌ったのか、彼女は一所に留まらず、世界中を巡る旅人となった。
何者にもとらわれず自由に浮かび漂う雲のような人。
そんな彼女を人々は、風来の女鍛冶師と呼んだ。
「相変わらず転々としていてね~ もうほんと探すのが面倒だったよ。優柔不断というか、もっとビシッとしてほしいよね」
「会ったことないですけど、たぶん師匠にだけは言われたくないと思いますよ」
「うんうん。君も最近大概だね」
誰の所為なんでしょうね?
という目で師匠を見る。
師匠はわざとらしく咳ばらいをして話を続ける。
「おほん。まっ、とにかく候補はしぼれた。後はもう直接行って確かめたいところなのだが……」
「師匠?」
師匠は言葉を詰まらせる。
珍しく苦い表情をしながら、続けて言う。
「実は少々問題が出てしまってね」
「問題ですか?」
「うん。どうやら僕が彼女の居場所を探っていることが、向こうにもバレてしまったようなんだ」
「えっ、じゃあ一から探しなおしに?」
師匠は首を横に振る。
「ううん。さすがの彼女も、数日で仕事場を変えられない。まだいることは確かだ」
「なら大丈夫じゃないですか」
「いやーそれがねぇ~ これを見てほしいのだけど」
そう言って、師匠は懐から一通の手紙を取り出す。
師匠の名前が書かれている封筒だ。
裏面には探している聖域者エルマ・ヘルメイスの名前もある。
彼女から師匠に宛てて送られてきた手紙のようだ。
中には一枚の紙が入っている。
真っ白な紙にはたった一言だけ書かれていた。
来たら斬るぞ。
シンプルに脅迫文!
「ちょっ、師匠何したんですか!?」
「失礼だな! 僕だってまだ何もしていないさ!」
「今じゃなくて昔ですよ! この文どう考えても師匠に恨みもってるじゃないですか! 絶対過去に何かしたんでしょ!」
「決めつけは良くないと思うな~ いくら僕だからって……とにかく決めつけは良くないと思うよ!」
「言い訳出来てないじゃないですか……」
どう考えても師匠が過去に何かやらかした案件だな。
それもかなり大きな失礼を働いたに違いない。
そうでもなければこんな一文……普通は送ってこないだろう。
「はぁ……俺が捜してる一人といい、同僚に嫌われ過ぎですよ師匠」
「はっはっはっ、僕もそう思うよ」
「笑い事じゃないって」
たぶん師匠は昔からこういう人なのだろう。
周囲を振り回し、自分勝手に振舞っては去っていく。
その内に秘めた優しさも、長く付き合った者しかわからない。
いや、人によっては最後まで相いれないか漏れいないという個性の持ち主だ。
改めてそう思う。
俺は特大のため息を漏らして尋ねる。
「どうするんですか?」
「困ったよね~ これ僕一人で行っても確実に話を聞いてくれないと思うんだよ」
「でしょうね」
問答無用に斬りかかってくる未来が見えるようだ。
「そこでだ! 君に頼みがある!」
「一緒にこいと?」
「うん!」
やっぱりそうか……
「あーでも、ほしいの君じゃなくてシトネちゃんの方なんだ」
「えっ、シトネ?」
「そう。実は彼女、可愛いものに目がないんだよ~」
「可愛いものですか」
「そうそう! シトネちゃんは可愛いし、一緒に来てくれたら話も聞いてくれると思うんだよね~ 君だって可愛いと思うだろ?」
「それはまぁ……可愛いと思います」
何の話をしてるんだ?
恥ずかしさを隠すように俺は目を逸らす。
「だから貸してほしんだ。ついでに君も来ていいよ」
「ついで……」
「嫌ならシトネちゃんだけ貸してほしいな。というか君が行くと言えば、彼女も一緒に来ると思うんだよ」
「シトネを付録みたいに言わないでくださいよ。まぁでもそうですね。俺も師匠以外の聖域者には、一度会ってみたいと思います」
そしてちゃんと謝っておこう。
師匠の代わりに。
「よーし! じゃあシトネちゃんには君から説明しておいてね」
「わかりましたよ。あと師匠」
「ん?」
「皿、汚れてるので洗いなおしてください」
「……了解」
「ん? 皿洗いなら今終わったところだよ?」
「そうじゃなくて情報交換ですよ。師匠が言いだしたんじゃないですか」
「あぁーそっちか」
まさか今の一瞬で忘れていたわけじゃないよな。
師匠ならあり得そうだから困る。
俺はふぅーと小さくため息をこぼし、師匠にあらかじめ伝える。
「先に言っておきますけど、俺のほうはまだ何もわかってませんよ? エルに協力を依頼したのも、ついさっきの話ですから」
「そのようだね。まぁ彼女に依頼したのなら間違いない。いずれ何かしらの情報は持ってきてくれると思うよ」
「俺も期待してます」
人探しは俺も苦手だ。
エルの情報網にかける以外、今のところ出来ることがない。
「師匠のほうは?」
「うん。僕のほうはかなり候補を絞れたよ」
師匠が捜しているのは、現存する聖域者で唯一の女性エルマ・ヘルメイス。
鍛冶の神たるヘファイストスの加護を受け、錬成魔術に長けた彼女は、あらゆる武具を生み出し鍛え上げる。
剣を生み出せば魔剣や聖剣に。
鎧を生み出せば、ドラゴンの一撃すら通さない強靭さを得るという。
日常的に使うような道具ですら、彼女が手掛けた物はこの世に二つとない名品となるだろう。
故に多くの権力者たちが、彼女の力を欲して金を積む。
それを嫌ったのか、彼女は一所に留まらず、世界中を巡る旅人となった。
何者にもとらわれず自由に浮かび漂う雲のような人。
そんな彼女を人々は、風来の女鍛冶師と呼んだ。
「相変わらず転々としていてね~ もうほんと探すのが面倒だったよ。優柔不断というか、もっとビシッとしてほしいよね」
「会ったことないですけど、たぶん師匠にだけは言われたくないと思いますよ」
「うんうん。君も最近大概だね」
誰の所為なんでしょうね?
という目で師匠を見る。
師匠はわざとらしく咳ばらいをして話を続ける。
「おほん。まっ、とにかく候補はしぼれた。後はもう直接行って確かめたいところなのだが……」
「師匠?」
師匠は言葉を詰まらせる。
珍しく苦い表情をしながら、続けて言う。
「実は少々問題が出てしまってね」
「問題ですか?」
「うん。どうやら僕が彼女の居場所を探っていることが、向こうにもバレてしまったようなんだ」
「えっ、じゃあ一から探しなおしに?」
師匠は首を横に振る。
「ううん。さすがの彼女も、数日で仕事場を変えられない。まだいることは確かだ」
「なら大丈夫じゃないですか」
「いやーそれがねぇ~ これを見てほしいのだけど」
そう言って、師匠は懐から一通の手紙を取り出す。
師匠の名前が書かれている封筒だ。
裏面には探している聖域者エルマ・ヘルメイスの名前もある。
彼女から師匠に宛てて送られてきた手紙のようだ。
中には一枚の紙が入っている。
真っ白な紙にはたった一言だけ書かれていた。
来たら斬るぞ。
シンプルに脅迫文!
「ちょっ、師匠何したんですか!?」
「失礼だな! 僕だってまだ何もしていないさ!」
「今じゃなくて昔ですよ! この文どう考えても師匠に恨みもってるじゃないですか! 絶対過去に何かしたんでしょ!」
「決めつけは良くないと思うな~ いくら僕だからって……とにかく決めつけは良くないと思うよ!」
「言い訳出来てないじゃないですか……」
どう考えても師匠が過去に何かやらかした案件だな。
それもかなり大きな失礼を働いたに違いない。
そうでもなければこんな一文……普通は送ってこないだろう。
「はぁ……俺が捜してる一人といい、同僚に嫌われ過ぎですよ師匠」
「はっはっはっ、僕もそう思うよ」
「笑い事じゃないって」
たぶん師匠は昔からこういう人なのだろう。
周囲を振り回し、自分勝手に振舞っては去っていく。
その内に秘めた優しさも、長く付き合った者しかわからない。
いや、人によっては最後まで相いれないか漏れいないという個性の持ち主だ。
改めてそう思う。
俺は特大のため息を漏らして尋ねる。
「どうするんですか?」
「困ったよね~ これ僕一人で行っても確実に話を聞いてくれないと思うんだよ」
「でしょうね」
問答無用に斬りかかってくる未来が見えるようだ。
「そこでだ! 君に頼みがある!」
「一緒にこいと?」
「うん!」
やっぱりそうか……
「あーでも、ほしいの君じゃなくてシトネちゃんの方なんだ」
「えっ、シトネ?」
「そう。実は彼女、可愛いものに目がないんだよ~」
「可愛いものですか」
「そうそう! シトネちゃんは可愛いし、一緒に来てくれたら話も聞いてくれると思うんだよね~ 君だって可愛いと思うだろ?」
「それはまぁ……可愛いと思います」
何の話をしてるんだ?
恥ずかしさを隠すように俺は目を逸らす。
「だから貸してほしんだ。ついでに君も来ていいよ」
「ついで……」
「嫌ならシトネちゃんだけ貸してほしいな。というか君が行くと言えば、彼女も一緒に来ると思うんだよ」
「シトネを付録みたいに言わないでくださいよ。まぁでもそうですね。俺も師匠以外の聖域者には、一度会ってみたいと思います」
そしてちゃんと謝っておこう。
師匠の代わりに。
「よーし! じゃあシトネちゃんには君から説明しておいてね」
「わかりましたよ。あと師匠」
「ん?」
「皿、汚れてるので洗いなおしてください」
「……了解」