セイルキメラ。
顔は銀色の毛並みをもつ虎。
胴体と前足はライオン、後ろ脚はラクダであり、尻尾は硬い鱗に覆われていて先には蛇の頭がある。
背から生える大きな羽は、コウモリの羽を巨大化させたもの。
統一性のない見た目から察する通り、自然発生したモンスターではない。
少なくても当初は。
キメラとは合成獣のことで、とある実験の副産物として生まれたのが始まりだ。
元々は使役可能なモンスターを誕生させる予定だったが、その途中でとんでもない怪物が誕生し、研究は中断された。
様々な動物やモンスターの特性を併せ持つキメラ。
そのオリジナルは五体で、内二体はすぐに討伐されたが、三体は逃げ延びてしまう。
逃げ延びたキメラは独自の方法で繁殖を続け、現在確認されている個体は、オリジナルから繁殖した子供たちである。
セイルという種類は、中でも動物のみを合成して誕生したキメラだ。
それが今、ちょうど目の前にいる。
「来るぞ!」
「うん!」
洞穴の上を突き破って現れたセイルキメラが、俺たちに向って跳びかかって来る。
俺たちは後方へ跳んで回避する。
ライオンの強靭な前足で獲物を狩るように、地面を豪快に抉っていく。
「凄い迫力だね」
「ああ」
見た目の不気味さに加えて、森の木々を突き抜ける程の大きさだ。
他のモンスターとは違った恐ろしさがる。
にも関わらず、シトネは落ち着いているみたいだ。
「いけるか? シトネ」
「もっちろん! このくらい悪魔に比べたらどうってことないもん!」
「はははっ、確かにそうだな」
あの恐怖を、戦いを誰よりも近くで体験した彼女にとって、キメラの威嚇など犬が吠えている程度にしか感じない。
悪魔と関わったことは、彼女にとって悪いことだけじゃなかったようだ。
「よし! じゃあ――!」
虎の頭が大きく口をあけている。
収束する魔力は熱を放ち、業火となって襲い掛かる。
「ブレスか!」
「私に任せて!」
俺よりもはやくシトネが術式を展開している。
生成されたのは光の壁。
攻撃を反射する『リフレクション』という結界の応用で、一枚の壁に力を凝縮して強度を高めている。
シトネはそれを、斜め上に向けるよう展開した。
放たれる炎のブレス。
光の壁にぶつかり、そのまま上へと反射される。
「これなら下の森は燃えないでしょ?」
「なるほど」
それで自分がやると言い出したのか。
俺は赤雷をぶつけて相殺しようと考えていたけど、それだと炎が森に燃えうつる。
咄嗟の思考で俺より速いなんて、少し悔しいな。
シトネはそのまま光の壁と同質の足場を形成。
そこに乗ることで空中からキメラを見下ろす。
俺も黄雷と蒼雷の合わせ技を使い、空中を浮遊する。
この技術は、憑依装着で未来の力を体験したお陰で出来るようになったことの一つだ。
「セイルキメラは地上を駆ける方が速い。羽はあるけど、長時間の飛行は出来ないし、何より遅い」
「じゃあこっちは空中から攻めたほうがいいよね」
「ああ、ただ気を付けてくれ。飛べないわけじゃないし、ジャンプ力と瞬発力は高いから」
「了解!」
シトネは足場をキメラ上空に複数生成し、自身は腰の刀を抜く。
キメラ相手に接近戦を挑むつもりらしい。
なら俺は援護に回ろう。
色源雷術藍雷――弓。
生成した藍色の弓で矢を連射する。
キメラはそれを尻尾のうねりで弾き飛ばす。
シトネはその隙に接近し、死角となる首元を後ろから狙う。
「後ろだシトネ!」
キメラの背部は死角ではない。
後ろの尻尾にある蛇の頭にも目がついていて、視覚情報は共有されている。
斬りかかろうとしたシトネに、キメラの尾が迫る。
「っと危ない!」
間一髪回避し離れるシトネ。
「大丈夫か?」
「うん平気だよ。ちょっと近づきすぎたかな」
「いや、悪くないと思う。尾は俺が抑えるから、今後は同時行こうか」
「うん!」
藍雷を弓から二刀へ変化。
シトネの足場もかりつつ、今度は俺が尾を、シトネが首を狙う。
蛇がシトネを見えないよう、俺が間に入って死角となる。
そのまま尾へ斬りかかるが、蛇の鱗は硬く、一撃ではダメージを与えられなかった。
「今だ!」
だがそれでいい。
狙いは俺ではなく、シトネだ。
彼女は背後ではなく、ぐるっと回ってキメラの腹部から首を狙っていた。
「旋光!」
光る斬撃が飛ぶ。
シトネの術式旋光は、光の斬撃を飛ばす技だ。
その威力は、日々の鍛錬によって強くなっている。
「――浅い」
それでもキメラの肉は硬く、斬撃を受けても落とすまでには至らなかった。
キメラは暴れ出し、俺とシトネは離れる。
その直後、キメラが後ろ脚に力を溜めていることに気付く。
「リン君!」
「ああ! 逃がす前に斬るぞ!」
狙うは後ろ脚。
ラクダの脚は強靭な脚力をもっているが、尻尾や首よりは脆い。
「藍雷一刀――」
二刀を合わせ大きな一刀へ。
そのまま豪快に振り抜き、キメラの両後ろ足を切断した。
逃げようとして失敗したキメラは倒れ込み、隙が生まれる。
その隙をシトネがつく。
切っ先を喉元へ向け、突きの構えから繰り出されるそれは、旋光よりも速く鋭い一刺し。
「極光!」
一筋の光がキメラの喉を突き抜ける。
顔は銀色の毛並みをもつ虎。
胴体と前足はライオン、後ろ脚はラクダであり、尻尾は硬い鱗に覆われていて先には蛇の頭がある。
背から生える大きな羽は、コウモリの羽を巨大化させたもの。
統一性のない見た目から察する通り、自然発生したモンスターではない。
少なくても当初は。
キメラとは合成獣のことで、とある実験の副産物として生まれたのが始まりだ。
元々は使役可能なモンスターを誕生させる予定だったが、その途中でとんでもない怪物が誕生し、研究は中断された。
様々な動物やモンスターの特性を併せ持つキメラ。
そのオリジナルは五体で、内二体はすぐに討伐されたが、三体は逃げ延びてしまう。
逃げ延びたキメラは独自の方法で繁殖を続け、現在確認されている個体は、オリジナルから繁殖した子供たちである。
セイルという種類は、中でも動物のみを合成して誕生したキメラだ。
それが今、ちょうど目の前にいる。
「来るぞ!」
「うん!」
洞穴の上を突き破って現れたセイルキメラが、俺たちに向って跳びかかって来る。
俺たちは後方へ跳んで回避する。
ライオンの強靭な前足で獲物を狩るように、地面を豪快に抉っていく。
「凄い迫力だね」
「ああ」
見た目の不気味さに加えて、森の木々を突き抜ける程の大きさだ。
他のモンスターとは違った恐ろしさがる。
にも関わらず、シトネは落ち着いているみたいだ。
「いけるか? シトネ」
「もっちろん! このくらい悪魔に比べたらどうってことないもん!」
「はははっ、確かにそうだな」
あの恐怖を、戦いを誰よりも近くで体験した彼女にとって、キメラの威嚇など犬が吠えている程度にしか感じない。
悪魔と関わったことは、彼女にとって悪いことだけじゃなかったようだ。
「よし! じゃあ――!」
虎の頭が大きく口をあけている。
収束する魔力は熱を放ち、業火となって襲い掛かる。
「ブレスか!」
「私に任せて!」
俺よりもはやくシトネが術式を展開している。
生成されたのは光の壁。
攻撃を反射する『リフレクション』という結界の応用で、一枚の壁に力を凝縮して強度を高めている。
シトネはそれを、斜め上に向けるよう展開した。
放たれる炎のブレス。
光の壁にぶつかり、そのまま上へと反射される。
「これなら下の森は燃えないでしょ?」
「なるほど」
それで自分がやると言い出したのか。
俺は赤雷をぶつけて相殺しようと考えていたけど、それだと炎が森に燃えうつる。
咄嗟の思考で俺より速いなんて、少し悔しいな。
シトネはそのまま光の壁と同質の足場を形成。
そこに乗ることで空中からキメラを見下ろす。
俺も黄雷と蒼雷の合わせ技を使い、空中を浮遊する。
この技術は、憑依装着で未来の力を体験したお陰で出来るようになったことの一つだ。
「セイルキメラは地上を駆ける方が速い。羽はあるけど、長時間の飛行は出来ないし、何より遅い」
「じゃあこっちは空中から攻めたほうがいいよね」
「ああ、ただ気を付けてくれ。飛べないわけじゃないし、ジャンプ力と瞬発力は高いから」
「了解!」
シトネは足場をキメラ上空に複数生成し、自身は腰の刀を抜く。
キメラ相手に接近戦を挑むつもりらしい。
なら俺は援護に回ろう。
色源雷術藍雷――弓。
生成した藍色の弓で矢を連射する。
キメラはそれを尻尾のうねりで弾き飛ばす。
シトネはその隙に接近し、死角となる首元を後ろから狙う。
「後ろだシトネ!」
キメラの背部は死角ではない。
後ろの尻尾にある蛇の頭にも目がついていて、視覚情報は共有されている。
斬りかかろうとしたシトネに、キメラの尾が迫る。
「っと危ない!」
間一髪回避し離れるシトネ。
「大丈夫か?」
「うん平気だよ。ちょっと近づきすぎたかな」
「いや、悪くないと思う。尾は俺が抑えるから、今後は同時行こうか」
「うん!」
藍雷を弓から二刀へ変化。
シトネの足場もかりつつ、今度は俺が尾を、シトネが首を狙う。
蛇がシトネを見えないよう、俺が間に入って死角となる。
そのまま尾へ斬りかかるが、蛇の鱗は硬く、一撃ではダメージを与えられなかった。
「今だ!」
だがそれでいい。
狙いは俺ではなく、シトネだ。
彼女は背後ではなく、ぐるっと回ってキメラの腹部から首を狙っていた。
「旋光!」
光る斬撃が飛ぶ。
シトネの術式旋光は、光の斬撃を飛ばす技だ。
その威力は、日々の鍛錬によって強くなっている。
「――浅い」
それでもキメラの肉は硬く、斬撃を受けても落とすまでには至らなかった。
キメラは暴れ出し、俺とシトネは離れる。
その直後、キメラが後ろ脚に力を溜めていることに気付く。
「リン君!」
「ああ! 逃がす前に斬るぞ!」
狙うは後ろ脚。
ラクダの脚は強靭な脚力をもっているが、尻尾や首よりは脆い。
「藍雷一刀――」
二刀を合わせ大きな一刀へ。
そのまま豪快に振り抜き、キメラの両後ろ足を切断した。
逃げようとして失敗したキメラは倒れ込み、隙が生まれる。
その隙をシトネがつく。
切っ先を喉元へ向け、突きの構えから繰り出されるそれは、旋光よりも速く鋭い一刺し。
「極光!」
一筋の光がキメラの喉を突き抜ける。