依頼の仕分けに一時間を使い、一〇五件溜まっていた依頼を三十八件に減らすことが出来た。
出来たというか、放置していて申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが。
一先ず受けるものを決め、さっそく出発することに。
「今日は時間も押してるし、受けれて二件だな」
「それも近場じゃないと無理だよね」
「ああ。この中で近いのはー……」
セイルキメラの討伐。
グレータークロコダイルの討伐。
「この二件かな」
「どっちも強そうな名前だね」
「強いよ。あと個体数も少ないし、素材は貴重だから高く売れる」
「そうなんだ? じゃあ頑張らないとね!」
「おう」
シトネにとっては修行相手にも良いだろう。
来たるべき戦いに備えて、彼女にも強くなっていてもらわないと困る。
もしも俺が間に合わない時、自分の身は自分で守れるように。
「よし。じゃあ行こうか」
「うん! リン君!」
その呼び名は、やっぱり少し恥ずかしいな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
依頼一件目。
セイルキメラの討伐。
指定されたエリアは、王都を出て西にある巨大な森の奥。
様々な薬草の採取で重宝しているエリアに、危険なモンスターが生息しているという情報を得てギルドが調査。
極めて凶暴なモンスターであるセイルキメラの成体が発見された。
該当モンスターが討伐されるまで、指定されたエリアは立ち入り禁止とする。
「シトネはセイルキメラを知っているか?」
「本で読んだくらいだよ。そもそもキメラが初めて」
「そうか。そうだよな」
「リン君は初めてじゃなさそうだね」
「まぁな。五年も冒険者やってると、いろんな依頼を受けるんだよ」
師匠に言われて始めた冒険者の仕事だけど、これが案外面白かった。
いろんな場所にいけたり、見たことのない景色を見れたり、知らないモンスターと戦える経験も大きかっただろう。
いつでもやめて言いと師匠に言われていながら、五年も続けられたのは、大変さの中に楽しさがあったからだと思う。
そういう思い出を浮かべて、内心では一人ワクワクしている自分がいる。
「ふぅ~ん。でもキメラって個体数も少ないんだよね? そんなのがどうしてここにいるのかな?」
「あー、それはたぶん、王都の周囲が昔からモンスターの多いエリアだからだと思う」
「えっ、そうだったの!?」
シトネは大げさな反応を見せた。
知らなかったのかと、俺のほうが驚く。
「王都は元々、モンスターを討伐、研究するための施設だったんだよ。そこを増強、増築している内に街になっていったんだ」
元々、王都は別の場所にあった。
そこが人口の増加と経年劣化で脆くなり、他国との戦争の被害も受けていたことで、別の場所へ移動することになったんだ。
当時、どこも危険がいっぱいだったわけだが、この地はモンスターこそ多いもの、徹底的に管理された街と設備のお陰で、逆に安全なエリアになりつつあった。
協議の末、この地に王城を建て直し、王都の街とする計画が進められ現在に至る。
「へぇ~ そうだったんだね」
「割と有名な話なんだけどな」
「うぅ……だって私、ずっと村から出てなかったから……それに興味もなかったし」
「それ二つ目が本音だろ」
シトネは誤魔化す様に笑いながら小さく頷く。
魔術学校への入学を目指すなら、その辺りも知っておいた方が良かっただろうに。
筆記試験で王都の歴史が出なくてよかったなと思うよ。
「さて、そろそろエリアに入る」
「そうだね! 気を引き締めるよ」
森の雰囲気が変わっていく。
葉の緑が濃くなり、木々や草の量が増えている。
視界が悪く、何かが動く音が頻回に聞こえて、警戒を怠るような余裕もない。
森の恐ろしさは、この閉ざされた視界と様々な生物がいるという点だ。
キメラだけが危険なわけじゃない。
その辺りにいる虫だって、中には猛毒を持つものもいる。
「リン君! あれって」
「爪痕だな」
道中、大きな岩を抉るような爪痕が残されていた。
間違いなくキメラのものだろう。
キメラに限った話ではないが、モンスターは自分の縄張りを主張する際、こうした痕跡を残すことがある。
「要するにここはもう、キメラの縄張りだよってことだね」
「そうなるな」
いつ襲われてもおかしくない。
俺とシトネは最善の注意を払い、他に痕跡がないか探る。
その後に足跡、尻尾をすった跡などを見つけ、慎重に辿っていく。
そうしてたどり着いたのは、一つの大きな洞穴だった。
「ぅ……臭い」
シトネが鼻を塞ぐ。
洞穴から吹き抜ける獣臭が鼻にツーンとくる。
キメラ特有の複数の悪臭が混ざり合った匂いだ。
「ここが巣穴で間違いなさそうだな」
「どうする? 出てくるまで待つ?」
「いいや。どうせ中にはキメラしかいないだろうし――」
先制攻撃を仕掛けるのが一番手っ取り早い。
俺は右腕を前にかざし、大きく手のひらを開く。
「色源雷術――赤雷!」
赤い稲妻を放つ。
稲妻はかけぬけ、洞穴の奥で何かに当たる。
そして、ドゴーンという破壊音の直後、洞穴の上部分がひび割れる。
「下がれ!」
俺とシトネが後退する。
跳び出してきたセイルキメラが、ギロっとこちらを睨んでいた。
出来たというか、放置していて申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが。
一先ず受けるものを決め、さっそく出発することに。
「今日は時間も押してるし、受けれて二件だな」
「それも近場じゃないと無理だよね」
「ああ。この中で近いのはー……」
セイルキメラの討伐。
グレータークロコダイルの討伐。
「この二件かな」
「どっちも強そうな名前だね」
「強いよ。あと個体数も少ないし、素材は貴重だから高く売れる」
「そうなんだ? じゃあ頑張らないとね!」
「おう」
シトネにとっては修行相手にも良いだろう。
来たるべき戦いに備えて、彼女にも強くなっていてもらわないと困る。
もしも俺が間に合わない時、自分の身は自分で守れるように。
「よし。じゃあ行こうか」
「うん! リン君!」
その呼び名は、やっぱり少し恥ずかしいな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
依頼一件目。
セイルキメラの討伐。
指定されたエリアは、王都を出て西にある巨大な森の奥。
様々な薬草の採取で重宝しているエリアに、危険なモンスターが生息しているという情報を得てギルドが調査。
極めて凶暴なモンスターであるセイルキメラの成体が発見された。
該当モンスターが討伐されるまで、指定されたエリアは立ち入り禁止とする。
「シトネはセイルキメラを知っているか?」
「本で読んだくらいだよ。そもそもキメラが初めて」
「そうか。そうだよな」
「リン君は初めてじゃなさそうだね」
「まぁな。五年も冒険者やってると、いろんな依頼を受けるんだよ」
師匠に言われて始めた冒険者の仕事だけど、これが案外面白かった。
いろんな場所にいけたり、見たことのない景色を見れたり、知らないモンスターと戦える経験も大きかっただろう。
いつでもやめて言いと師匠に言われていながら、五年も続けられたのは、大変さの中に楽しさがあったからだと思う。
そういう思い出を浮かべて、内心では一人ワクワクしている自分がいる。
「ふぅ~ん。でもキメラって個体数も少ないんだよね? そんなのがどうしてここにいるのかな?」
「あー、それはたぶん、王都の周囲が昔からモンスターの多いエリアだからだと思う」
「えっ、そうだったの!?」
シトネは大げさな反応を見せた。
知らなかったのかと、俺のほうが驚く。
「王都は元々、モンスターを討伐、研究するための施設だったんだよ。そこを増強、増築している内に街になっていったんだ」
元々、王都は別の場所にあった。
そこが人口の増加と経年劣化で脆くなり、他国との戦争の被害も受けていたことで、別の場所へ移動することになったんだ。
当時、どこも危険がいっぱいだったわけだが、この地はモンスターこそ多いもの、徹底的に管理された街と設備のお陰で、逆に安全なエリアになりつつあった。
協議の末、この地に王城を建て直し、王都の街とする計画が進められ現在に至る。
「へぇ~ そうだったんだね」
「割と有名な話なんだけどな」
「うぅ……だって私、ずっと村から出てなかったから……それに興味もなかったし」
「それ二つ目が本音だろ」
シトネは誤魔化す様に笑いながら小さく頷く。
魔術学校への入学を目指すなら、その辺りも知っておいた方が良かっただろうに。
筆記試験で王都の歴史が出なくてよかったなと思うよ。
「さて、そろそろエリアに入る」
「そうだね! 気を引き締めるよ」
森の雰囲気が変わっていく。
葉の緑が濃くなり、木々や草の量が増えている。
視界が悪く、何かが動く音が頻回に聞こえて、警戒を怠るような余裕もない。
森の恐ろしさは、この閉ざされた視界と様々な生物がいるという点だ。
キメラだけが危険なわけじゃない。
その辺りにいる虫だって、中には猛毒を持つものもいる。
「リン君! あれって」
「爪痕だな」
道中、大きな岩を抉るような爪痕が残されていた。
間違いなくキメラのものだろう。
キメラに限った話ではないが、モンスターは自分の縄張りを主張する際、こうした痕跡を残すことがある。
「要するにここはもう、キメラの縄張りだよってことだね」
「そうなるな」
いつ襲われてもおかしくない。
俺とシトネは最善の注意を払い、他に痕跡がないか探る。
その後に足跡、尻尾をすった跡などを見つけ、慎重に辿っていく。
そうしてたどり着いたのは、一つの大きな洞穴だった。
「ぅ……臭い」
シトネが鼻を塞ぐ。
洞穴から吹き抜ける獣臭が鼻にツーンとくる。
キメラ特有の複数の悪臭が混ざり合った匂いだ。
「ここが巣穴で間違いなさそうだな」
「どうする? 出てくるまで待つ?」
「いいや。どうせ中にはキメラしかいないだろうし――」
先制攻撃を仕掛けるのが一番手っ取り早い。
俺は右腕を前にかざし、大きく手のひらを開く。
「色源雷術――赤雷!」
赤い稲妻を放つ。
稲妻はかけぬけ、洞穴の奥で何かに当たる。
そして、ドゴーンという破壊音の直後、洞穴の上部分がひび割れる。
「下がれ!」
俺とシトネが後退する。
跳び出してきたセイルキメラが、ギロっとこちらを睨んでいた。