聖域者アリスト・ロバーンデック。
太陽の騎士アベル・レイズマンと同じく騎士の家系に生まれ、持ちえた加護から彼と対を成すように【夜の騎士】と呼ばれていた。
数年前に突如消息不明となり、王国が総力を挙げて捜索したが発見には至っておらず、一部からは死亡したのではないかと噂されている。
師匠との会話を思い出しながら、俺はエルにもう一度言う。
「頼めるか? エル」
「良いっすけど、見つけられる保証はないっすよ?」
「それでも構わないよ。些細なことでも良いから情報がほしいんだ」
「了解っす!」
エルは右手をピンと伸ばしておでこにあて、敬礼のポーズで答えた。
「でも急にどうしたんすか? お兄さんが依頼に関係ないこと調べてほしいなんて初めてじゃないっすか」
「まぁ色々とあったんだよ」
「色々っすか。それってもしかして、この間戦ってたヤバイ奴と関係してるんすか?」
一気に仕事の目になるエル。
さすがに詳しいな。
いや、映像は王都中に公開されたというし、知っていても不思議じゃないか。
「ああ。近いうちに大きな戦いが起こる。それも人類史を揺るがしかねない戦いだ。俺たちはそれに備えて動てるんだよ」
「なるほどなるほど。中々壮大な思惑が隠されてそうっすね」
「そうだよ。今の情報を依頼の前料金にしていいか?」
「良いっすよ。お兄さんだけ特別っす」
「ありがとう、助かるよ」
「仕事っすからね。任せてほしいっすよ」
エルはニコニコ笑いながら上機嫌だ。
それとは対照的に、俺の隣で座っているシトネは不機嫌。
フードで顔は隠れていても、隙間から不機嫌なオーラが駄々もれ状態になっていた。
「し、シトネ?」
「何かな?」
「いや、何かごめんな。話してばかりでその……」
「別に良いよ。アルフォース様からのお願いでしょ? 大事なお仕事の話だから、ちゃんとするのは当然だと思うし」
「そ、そうか」
わかってくれている……のだろうか。
表情というか雰囲気からは、全然そんな感じはしないのだが……
「そ、それじゃそろそろ依頼をこなしていくか」
「エルもお仕事に戻るっすよ。他にも受けてる依頼があるっすからね」
「ああ、その前にこれだけ渡しておくよ」
俺は懐から簡素な腕輪を取り出し、エルに手渡す。
「何すかこれ」
「師匠から貰った魔道具。何かあったらそれを切ってくれ。すぐ俺に伝わるようになってるから」
「これを切ったらいつでもお兄さんが来てくれるんすか!?」
「そうだけど、何もないのに使わないでくれよ? それ使い切りだから」
「えぇ~ せっかく呼び出し放題だと思ったのに」
呼び出し放題って……
俺は呆れたため息をこぼして言う。
「どこに危険があるかわからない。危ないと思ったらすぐに使ってくれ。必ず駆けつけるから」
「お兄さん……エルのこと心配してくれるんすね?」
「当たり前だろ」
「えっへへ~ そう言ってくれるのはお兄さんだけっすよ」
エルは嬉しそうに笑う。
何だか笑い方が、時折見せるシトネのそれと似ている気がした。
「了解っす! じゃあまた会いに行くっすからね!」
「ああ、気を付けてな」
「お兄さんも! ついでにシトネさんも」
「ついで!?」
最後に一言余計なものを残して、元気いっぱいにかけていくエル。
二人は相性良いと思ってたんだけどな。
どうやら思った以上に抜群らしい。
もちろん、悪い意味で。
その後は、シトネと二人で依頼の仕分けをした。
百件以上ある依頼をすべて受けることは正直難しい。
そもそも古くて間に合わない内容のものもあるし、可能な限り減らしていこうと思う。
「二か月以内の依頼と、内容的に今でも間に合いそうなもの、あとは全部ギルドへ返却しよう」
「うん」
テーブルの上にはずらっと依頼書が並んでいる。
それを一枚ずつ確認していく作業は、中々大変で疲れる。
作業の途中で、シトネが依頼書を両手に一枚ずつ持ちながら言う。
「何だかほとんど討伐とか駆除の依頼だね。それも強そうな名前ばっかりだよ」
「それはそうだろ。個人を指定して出される依頼なんて、他に受けさせられないものばかりだからな」
「ふぅ~ん。冒険者でもリンテンス君は有名人なんだね」
「一応な。それと名前」
「あっ、ごめん。気を抜くとつい……リンリン君」
言わせておいて失礼だけど、その名前で呼ばれるのはやっぱり抵抗感がある。
早くギルド会館を出て、人目の少ない所へ行きたいものだ。
「どうせなら、もっとわかりやすい名前にすればよかったな。変に似てるのが余計ややこしい」
「そうだね。途中までは一緒だし……あっ! だったら『リン君』って呼ぶのはダメかな? これならどっちの時でも大丈夫だよ?」
「リン君……か。愛称っていうのか、そういうのって。シトネが呼びやすいならそれでもいいよ」
「うん! じゃあリン君って呼ぶね!」
「お、おう」
何だろう。
良いとは言ったのに、いざ呼ばれると歯がゆいというか。
無性に恥ずかしいと感じてしまう。
これは慣れるまでしばらく時間がかかりそうだ。
一先ずは、シトネが嬉しそうで良かったと思う。
太陽の騎士アベル・レイズマンと同じく騎士の家系に生まれ、持ちえた加護から彼と対を成すように【夜の騎士】と呼ばれていた。
数年前に突如消息不明となり、王国が総力を挙げて捜索したが発見には至っておらず、一部からは死亡したのではないかと噂されている。
師匠との会話を思い出しながら、俺はエルにもう一度言う。
「頼めるか? エル」
「良いっすけど、見つけられる保証はないっすよ?」
「それでも構わないよ。些細なことでも良いから情報がほしいんだ」
「了解っす!」
エルは右手をピンと伸ばしておでこにあて、敬礼のポーズで答えた。
「でも急にどうしたんすか? お兄さんが依頼に関係ないこと調べてほしいなんて初めてじゃないっすか」
「まぁ色々とあったんだよ」
「色々っすか。それってもしかして、この間戦ってたヤバイ奴と関係してるんすか?」
一気に仕事の目になるエル。
さすがに詳しいな。
いや、映像は王都中に公開されたというし、知っていても不思議じゃないか。
「ああ。近いうちに大きな戦いが起こる。それも人類史を揺るがしかねない戦いだ。俺たちはそれに備えて動てるんだよ」
「なるほどなるほど。中々壮大な思惑が隠されてそうっすね」
「そうだよ。今の情報を依頼の前料金にしていいか?」
「良いっすよ。お兄さんだけ特別っす」
「ありがとう、助かるよ」
「仕事っすからね。任せてほしいっすよ」
エルはニコニコ笑いながら上機嫌だ。
それとは対照的に、俺の隣で座っているシトネは不機嫌。
フードで顔は隠れていても、隙間から不機嫌なオーラが駄々もれ状態になっていた。
「し、シトネ?」
「何かな?」
「いや、何かごめんな。話してばかりでその……」
「別に良いよ。アルフォース様からのお願いでしょ? 大事なお仕事の話だから、ちゃんとするのは当然だと思うし」
「そ、そうか」
わかってくれている……のだろうか。
表情というか雰囲気からは、全然そんな感じはしないのだが……
「そ、それじゃそろそろ依頼をこなしていくか」
「エルもお仕事に戻るっすよ。他にも受けてる依頼があるっすからね」
「ああ、その前にこれだけ渡しておくよ」
俺は懐から簡素な腕輪を取り出し、エルに手渡す。
「何すかこれ」
「師匠から貰った魔道具。何かあったらそれを切ってくれ。すぐ俺に伝わるようになってるから」
「これを切ったらいつでもお兄さんが来てくれるんすか!?」
「そうだけど、何もないのに使わないでくれよ? それ使い切りだから」
「えぇ~ せっかく呼び出し放題だと思ったのに」
呼び出し放題って……
俺は呆れたため息をこぼして言う。
「どこに危険があるかわからない。危ないと思ったらすぐに使ってくれ。必ず駆けつけるから」
「お兄さん……エルのこと心配してくれるんすね?」
「当たり前だろ」
「えっへへ~ そう言ってくれるのはお兄さんだけっすよ」
エルは嬉しそうに笑う。
何だか笑い方が、時折見せるシトネのそれと似ている気がした。
「了解っす! じゃあまた会いに行くっすからね!」
「ああ、気を付けてな」
「お兄さんも! ついでにシトネさんも」
「ついで!?」
最後に一言余計なものを残して、元気いっぱいにかけていくエル。
二人は相性良いと思ってたんだけどな。
どうやら思った以上に抜群らしい。
もちろん、悪い意味で。
その後は、シトネと二人で依頼の仕分けをした。
百件以上ある依頼をすべて受けることは正直難しい。
そもそも古くて間に合わない内容のものもあるし、可能な限り減らしていこうと思う。
「二か月以内の依頼と、内容的に今でも間に合いそうなもの、あとは全部ギルドへ返却しよう」
「うん」
テーブルの上にはずらっと依頼書が並んでいる。
それを一枚ずつ確認していく作業は、中々大変で疲れる。
作業の途中で、シトネが依頼書を両手に一枚ずつ持ちながら言う。
「何だかほとんど討伐とか駆除の依頼だね。それも強そうな名前ばっかりだよ」
「それはそうだろ。個人を指定して出される依頼なんて、他に受けさせられないものばかりだからな」
「ふぅ~ん。冒険者でもリンテンス君は有名人なんだね」
「一応な。それと名前」
「あっ、ごめん。気を抜くとつい……リンリン君」
言わせておいて失礼だけど、その名前で呼ばれるのはやっぱり抵抗感がある。
早くギルド会館を出て、人目の少ない所へ行きたいものだ。
「どうせなら、もっとわかりやすい名前にすればよかったな。変に似てるのが余計ややこしい」
「そうだね。途中までは一緒だし……あっ! だったら『リン君』って呼ぶのはダメかな? これならどっちの時でも大丈夫だよ?」
「リン君……か。愛称っていうのか、そういうのって。シトネが呼びやすいならそれでもいいよ」
「うん! じゃあリン君って呼ぶね!」
「お、おう」
何だろう。
良いとは言ったのに、いざ呼ばれると歯がゆいというか。
無性に恥ずかしいと感じてしまう。
これは慣れるまでしばらく時間がかかりそうだ。
一先ずは、シトネが嬉しそうで良かったと思う。