浮遊する複数の島。
木が一本だけ生えている島もあれば、池があったり草原となっていたり。
世界各地にある島々を具現化して、空のキャンバスを彩っているようだ。
これを一人の魔術師が具現化しているなんて、体験している俺でも信じがたい。
「なっ……なんて膨大な魔力なんだ」
魔力量には自信があったけど、俺なんか足元にも及ばない。
大自然を相手にしているような壮大さと、包み込むような包容力を感じる。
ごくりと息を飲み、師匠をじっと見つめて思う。
これだけの魔力を正確にコントロールしていて、本人はいっさい疲労を感じさせない。
余裕そうに微笑んでいる。
「さてと、ステージは整ったことだし、始めようか?」
「何をするんです?」
「戦うんだよ。僕と君が」
「……え?」
「あれ? 聞こえなかったかな~ これから僕と本気で戦ってもらうから」
「い……いやいやいや! ちょっと待ってください!」
俺と師匠が本気で戦う?
そんなの絶対無理だ。
これだけの力を見せつけられて、戦いになるレベルじゃないぞ。
「冗談ではないよ。手っ取り早く君の実力を見るには、戦うのが一番なんだ」
「戦うと言っても……今の俺が使えるのは……」
「雷属性一種だろう? わかっているから来なさい。まぁもって一秒耐えられたら上々かな?」
そう言われて、ムッとする。
いくら何でも舐めすぎだと思った。
その苛立ちが表情に出てしまったらしく、師匠はニヤリと笑う。
「うん、良い顔になったね」
「……戦えばいいんですね?」
「ああ、じゃあ始めるよ? よーい……」
こうなったら全力で戦ってやるぞ。
もしかしたら、この戦いで何か掴めるかもしれない。
世界最高の魔術師、その実力を体感できるなら、願ったり叶ったりじゃないか。
「――ドン!」
と、粋がって挑んだものの……
「……」
「いやー、驚いたね~ まさか三秒も耐えるなんて」
草原に大の字で横たわる俺は、まっすぐ空を見ている。
その横に師匠がいて、朗らかに笑いながら腰を下ろした。
嘘だろ?
あり得ない。
俺は一体……何をされたんだ?
まったく認識できなかった。
俺は魔法を使えたのか、師匠も使ったのかすらわからない。
見えたのは一瞬だけ。
とてつもなく速くて、重くて、鋭くて、白い何か。
その何かが視界を覆って、俺の全てをかき消してしまった。
「どうだった?」
「……何もわかりませんでした」
「そうかそうか。まっ、最初だから仕方がないけど、君はやっぱり優秀だ」
どこが?
疑問に思ったことの答えを、師匠はすぐに口に出す。
「一秒以上耐えたこともそうだが、何より君は意識がある。さっきのを受けて意識を保っていられるのは、相当な魔術センスを持つ者だけさ」
「そう……なんですか?」
「うん。今のは最終確認でもあったんだ。僕の見立てに間違いはないのか。まぁ基本的に僕が間違えるとかありえないんだけどね。文句なしに合格だよ」
師匠は立ち上がり、俺に手を伸ばした。
その手を握ると、ぐっと力強く引っ張り上げらえる。
「君のセンスがあれば、これまで誰も到達できなかった術師の極致へ行けるかもしれない」
「本当ですか?」
「僕は間違えない。君が信じてくれるなら、その通りになると約束しよう」
「信じます! 師匠」
「う~ん、いいねその師匠って響き。ずっと弟子が欲しかったんだ~」
師匠と俺は向かい合う。
俺が見上げて、師匠が見下ろす。
こうして、俺の修行の日々はスタートした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さーて、今日は痛い修行内容だぞ~」
「痛い?」
不穏なワードが師匠の口から飛び出す。
場所は師匠の作り出した空間。
浮遊する島の一つで、距離をとって向かい合っている。
「君はこれから雷属性の魔術を極めなくてはならない。それ以外の選択肢は残されていない」
「はい」
「新しい術式を生み出すって作業をしてもらうけど、その前に大前提として力に慣れるという工程が大事なんだ」
「慣れるですか? つまりどんどん使えと?」
「いいや」
師匠は大げさに首を横に振る。
続けて師匠は、惜しみないほど満面の笑みで、とんでもないことを口にする。
「今から君には、僕の雷撃を受け続けてもらうから」
「……は、はい?」
「もぉ~ 君はそうやって肝心なことを聞き返すね。言っておくけど聞き間違いじゃないよ」
「い、いや……だとしたら無茶ですよ。師匠の雷撃なんて受けたら最悪し――」
「だーい丈夫! 君は落雷にも耐えられたようだし、魔力による強化はオーケーだからさ」
そ、そういう問題ではない気が……
「じゃあいっくぞ~」
師匠の身体から雷撃がビリビリ起こっている。
この時点で察した。
冗談ではなく、師匠は本気なのだと。
「レッツびりびり~」
「ぎゃああああああああああああああああああ」
俺はこの日、生まれて初めて発狂した。
木が一本だけ生えている島もあれば、池があったり草原となっていたり。
世界各地にある島々を具現化して、空のキャンバスを彩っているようだ。
これを一人の魔術師が具現化しているなんて、体験している俺でも信じがたい。
「なっ……なんて膨大な魔力なんだ」
魔力量には自信があったけど、俺なんか足元にも及ばない。
大自然を相手にしているような壮大さと、包み込むような包容力を感じる。
ごくりと息を飲み、師匠をじっと見つめて思う。
これだけの魔力を正確にコントロールしていて、本人はいっさい疲労を感じさせない。
余裕そうに微笑んでいる。
「さてと、ステージは整ったことだし、始めようか?」
「何をするんです?」
「戦うんだよ。僕と君が」
「……え?」
「あれ? 聞こえなかったかな~ これから僕と本気で戦ってもらうから」
「い……いやいやいや! ちょっと待ってください!」
俺と師匠が本気で戦う?
そんなの絶対無理だ。
これだけの力を見せつけられて、戦いになるレベルじゃないぞ。
「冗談ではないよ。手っ取り早く君の実力を見るには、戦うのが一番なんだ」
「戦うと言っても……今の俺が使えるのは……」
「雷属性一種だろう? わかっているから来なさい。まぁもって一秒耐えられたら上々かな?」
そう言われて、ムッとする。
いくら何でも舐めすぎだと思った。
その苛立ちが表情に出てしまったらしく、師匠はニヤリと笑う。
「うん、良い顔になったね」
「……戦えばいいんですね?」
「ああ、じゃあ始めるよ? よーい……」
こうなったら全力で戦ってやるぞ。
もしかしたら、この戦いで何か掴めるかもしれない。
世界最高の魔術師、その実力を体感できるなら、願ったり叶ったりじゃないか。
「――ドン!」
と、粋がって挑んだものの……
「……」
「いやー、驚いたね~ まさか三秒も耐えるなんて」
草原に大の字で横たわる俺は、まっすぐ空を見ている。
その横に師匠がいて、朗らかに笑いながら腰を下ろした。
嘘だろ?
あり得ない。
俺は一体……何をされたんだ?
まったく認識できなかった。
俺は魔法を使えたのか、師匠も使ったのかすらわからない。
見えたのは一瞬だけ。
とてつもなく速くて、重くて、鋭くて、白い何か。
その何かが視界を覆って、俺の全てをかき消してしまった。
「どうだった?」
「……何もわかりませんでした」
「そうかそうか。まっ、最初だから仕方がないけど、君はやっぱり優秀だ」
どこが?
疑問に思ったことの答えを、師匠はすぐに口に出す。
「一秒以上耐えたこともそうだが、何より君は意識がある。さっきのを受けて意識を保っていられるのは、相当な魔術センスを持つ者だけさ」
「そう……なんですか?」
「うん。今のは最終確認でもあったんだ。僕の見立てに間違いはないのか。まぁ基本的に僕が間違えるとかありえないんだけどね。文句なしに合格だよ」
師匠は立ち上がり、俺に手を伸ばした。
その手を握ると、ぐっと力強く引っ張り上げらえる。
「君のセンスがあれば、これまで誰も到達できなかった術師の極致へ行けるかもしれない」
「本当ですか?」
「僕は間違えない。君が信じてくれるなら、その通りになると約束しよう」
「信じます! 師匠」
「う~ん、いいねその師匠って響き。ずっと弟子が欲しかったんだ~」
師匠と俺は向かい合う。
俺が見上げて、師匠が見下ろす。
こうして、俺の修行の日々はスタートした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さーて、今日は痛い修行内容だぞ~」
「痛い?」
不穏なワードが師匠の口から飛び出す。
場所は師匠の作り出した空間。
浮遊する島の一つで、距離をとって向かい合っている。
「君はこれから雷属性の魔術を極めなくてはならない。それ以外の選択肢は残されていない」
「はい」
「新しい術式を生み出すって作業をしてもらうけど、その前に大前提として力に慣れるという工程が大事なんだ」
「慣れるですか? つまりどんどん使えと?」
「いいや」
師匠は大げさに首を横に振る。
続けて師匠は、惜しみないほど満面の笑みで、とんでもないことを口にする。
「今から君には、僕の雷撃を受け続けてもらうから」
「……は、はい?」
「もぉ~ 君はそうやって肝心なことを聞き返すね。言っておくけど聞き間違いじゃないよ」
「い、いや……だとしたら無茶ですよ。師匠の雷撃なんて受けたら最悪し――」
「だーい丈夫! 君は落雷にも耐えられたようだし、魔力による強化はオーケーだからさ」
そ、そういう問題ではない気が……
「じゃあいっくぞ~」
師匠の身体から雷撃がビリビリ起こっている。
この時点で察した。
冗談ではなく、師匠は本気なのだと。
「レッツびりびり~」
「ぎゃああああああああああああああああああ」
俺はこの日、生まれて初めて発狂した。