アルフォースに連れられ、シトネたちの三人が闘技場に集まった。
 闘技場にはすでに、四人目であるアクトの姿もある。

「待たせたね」
「いえ、お気になさらないでください」

 淡々と会話をするアルフォースとアクト。
 二人は幼少期の頃から面識があり、少なからず交流もあった。
 名門エメロード家の長男であるアクトは、当代の聖域者のほぼ全員と会ったことがある。
 短い期間だが、手ほどきを受けたこともあるという。

「さて、まだ二日目だがそろそろ警戒を強めたい。君たちには日中、すぐに動けるよう準備しておいてほしい」

 四人が頷く。
 闘技場には、臨時で転移用の魔道具が設置されていた。
 一人分の台座が四つ。
 転移の術式が組み込まれ、結界の起点である各地に一瞬で移動が出来る。
 ちなみに、学校は現在臨時休校中で、彼らと一部教員以外誰もいない。

 アルフォースが席を外す。
 ナベリスの所で話があるといい、闘技場を去っていった。
 残った四人は、絶妙な空気のまま襲撃に備える。
 静寂が続く。
 楽し気に話せる状況はないが、会話一つないというのも居心地が悪い。
 そんな静寂を破ったのは、意外にもアクトだった。

「君たちはリンテンスの友人だね?」
「え、はい!」

 一番近くにいたシトネが反応した。
 アクトはシトネに尋ねる。

「アルフォース様から聞いたが、リンテンスは修行中なのだろう?」
「はい。二日前から」
「そうか……」

 切なげな表情を見せるアクト。
 何となく、心配している様子がシトネに伝わる。

「あ、あの!」
「何かな?」
「リンテンス君が言ってました。いつか、お兄さんとちゃんと話がしたいって。だからその……」
「……そうか」

 アクトは小さく笑う。
 そんな彼を、意外そうに見つめるグレンとセリカ。
 リンテンスからアクトのことを聞いていたシトネは、その笑顔にどこかホッとする。

「俺も話したいことがある。また後で、全てが片付いたら話に行くよ」
「はい。待ってます!」

 ニコニコ微笑むシトネ。
 会話の節々から、リンテンスに近いものを感じていた。

(何だかリンテンス君と話してるみたいで落ち着くなぁ)

 二人の会話をきっかけに、少しだけ場が賑やかになった。
 穏やかな時間が過ぎ、迫る脅威に対する警戒が、少しだけ緩まる。
 そんなとき、圧倒的な魔力を感じ、全身が震えあがった。

「こ、これは!」
「上だ!」

 グレンが叫んだ。
 四人が天井を見上げると、そこには青空ではなく、黒い影がかかっている。

「ゲートだ!」
「研修のときと同じだな」

 そこへアルフォースが駆けつけ、四人に指示を出す。

「みんな配置につきたまえ! 転移後三秒が術式発動の合図だよ!」
「アルフォース様! リンテンス君は?」
「残念ながらまだ修行中だ。こうなれば仕方がない。彼の修行が終わるまで、僕が何とか時間を稼ごう。君たちも頼むよ?」
「はい!」

 転移装置を作動させる。
 全員が配置につき、指輪の術式を発動させると、薄緑色の結界が学校を覆い隠した。
 その直後、ゲートから大量のモンスターが投下される。

「やはりそう来たか。魔術師団を王都中に配置したのは正解だったようだね」

 グレンからの報告を聞き、魔術師団は国中に散っている。
 こうなることを予想し、備えてきた。
 国民には安全のため、家から出ないように伝えてある。
 王都全域には特殊な魔道具が張り巡らされており、非常時に発動させることで、建物を攻撃から守ることが出来る。
 モンスターの殲滅は、魔術師団がしてくれるだろう。

「さてと」

 ゲートが消失し、二人の悪魔が空中に浮かんでいる。
 見つめる先にはアルフォースがいて、昇って来いと訴えているようだった。
 やれやれと口にするアルフォース。
 飛翔魔術を発動させ、悪魔たちの前に立ち塞がる。

「ようやく来たかよ」
「貴方がこの国で最強の魔術師アルフォース・ギフトレンですね?」
「おやおや、僕のことを知っているのかい?」
「ええ、もちろんです。脅威となり得る存在の情報は、すでに頭に入っていますよ」
「なるほど。悪魔に脅威と思われるなんて光栄だね」

 悪魔は二人。
 丁寧な口調で話す一人は、人間とほとんど変わらない見た目をしている。
 肌の色は白く、眼の色は淀んだ青で、髪色も濃い青色。
 悪魔の特徴である二本の角と、腰からは尻尾が生えている。
 もう一人の乱暴な口調な悪魔は、もっと悪魔らしい見た目だ。
 ドラゴンのようにごつごつとした肌は、黒に近い鼠色をしていて、手足の爪は強靭かつ鋭利。
 それも剛腕が四つ。
 身体の大きさも、隣の悪魔より一回り大きい。
 見るからに肉弾戦が得意そうだ。

 そして、どちらの魔力量も、人間のそれを大きく上回っていた。
 間違いなく、悪魔の中でも上位の存在だろう。