「もちろんあるとも。それを伝えるためにここへ戻ってきたのさ」
「本当ですか!」
「うん。悪魔襲撃まで最長一週間、最短で三日といったところだと僕は予想している。君たちにはその間に、学校を守る結界を新たに作る」
「結界ならもうあるのでは?」

 グレンの質問通り、魔術学校には外敵から生徒たちを守るための結界が張られている。
 結界は二段階。
 一つは、敵意をもった対象を識別し、侵入を拒むもの。
 もう一つは、攻撃に対してのみ効果を発揮するもの。
 二つの結界によって守られた校舎は、未だかつて傷ついたことは一度もないという。

「あれでは足りない。所詮は魔道具による簡易的な結界だからね。悪魔の攻撃を受けたら簡単に壊れてしまよ」
「それほどですか……」
「ああ。悪魔の力に関しては、君たちが想像している倍は強いと思ってね?」

 三人はごくりと息を飲む。
 経緯を聞いていた彼らも、ことの重大さを再確認させられる。
 アルフォースは懐から四つの指輪を取り出し、テーブルの上に置いて説明する。

「この指輪には、僕が考案した結界術式が刻まれている。みんなには、僕やリンテンスが戦っている間、これで学校を守ってほしい」

 アルフォースは付け加える。
 本来なら、こんな役割を学生に任せたりはしない。
 ただ、今回は状況が特殊であり、相手も近年比較対象がいないほどの強敵だった。
 故に手段は選んでいられない。
 目的が魔術学校だとしても、王都には多くの人たちが暮らしている。
 魔術師団の役割は王国の守護であり、国民を守る責務がある。
 悪魔襲来時には、彼らは王都を守ることに兵力を割かれることになるだろう。

「これなら学校を守れるのですか?」
「そうだね。君たちが結界の起点となってくれたら、悪魔の攻撃を防ぐには申し分ない強度になる。ただ、当然だけど君たちが狙われる。戦況次第では、君たちも悪魔と戦うことになるかもしれないね」

 説明の後、アルフォースは三人に問いかける。

「強制はしない。やりたくなければ、別の人たちに任せる。どうするかは君たちが選んでくれたまえ」
「もちろんやります」
「グレン様がそうおっしゃるなら、私もご助力いたします」
「私もやります! リンテンス君が頑張っているんだし、私だって何かしたい」

 三人の意見が出揃う。
 そう言うと思っていたと、アルフォースは嬉しそうにほほ笑んだ。
 
「よし、これで四人だ」
「四人? 僕たち以外にもう一人いるんですか?」
「そうだよ。結界の起点は四つだからね」
「誰にお願いしたのでしょう?」
「アクト・エメロード。リンテンスのお兄さんさ」

 三人、特にグレンとシトネが大きく反応する。
 アクトは、親善試合でリンテンスと死闘を演じた相手。
 まだ最近のことで記憶に新しい。

「彼の奥義クロノスタシスは、いざという時に君たちを守る力となりえる。すでに了承は得たから問題ないよ」

 アクトの実力は親善試合で見ている。
 一緒に結界を守る者として、彼以上に心強い相手はいないだろう。
 
 ここでグレンは、あることを思い出す。

「アルフォース様、一つよろしいでしょうか?」
「何だい? グレン君」
「先日の学外研修のときなのですが――」

 グレンが伝えたのは、学外研修での一件。
 ブラックドラゴンの襲来と、それを起こした黒い影についてだった。

「なるほど。それはおそらくゲートだ」
「ゲート?」
「上位の悪魔がもつ転移手段だよ。ただ、僕らの知る二体の悪魔ではないね。時系列的に、その頃はまだ戦闘中だったはずだから」
「つまり、三人目がいるということですか?」
「かもしれない。これは尚更、リンテンスに頑張ってもらわないとね」

 死闘の予感が過る。
 全ての期待は、リンテンスに向けられていた。
 そして二日後の正午。
 再び、青空を黒い影が覆い隠す。

 その日の空も雲一つなく、青く澄んでいた。
 心地良い日差しが、人や植物を豊かに育たせる。
 前触れなどない。
 突然、青い空は黒く染まり、王都の街は影に包まれてしまう。

「遂に来たようだね……悪魔が」

 黒い影の中心に、二つの人影がある。
 彼らが見つめる先には、同じく見返す五人の姿があった。

「頼むよ、みんな」
「「「「はい!」」」」

 戦闘開始。
 の、三十分ほど前――