決意を胸に、俺は立ち上がる。
いや、身体はもう立っているけど、心がという意味で。
「よーし! それじゃさっそく始めようか」
「始めるって、何をです?」
「もちろん修行だよ。それも初めての……ね。特別なことをする」
師匠が特別なんて言い方をすると、なぜだか無性に不安が過る。
続けて師匠は俺に言う。
「君には一番可能性があると言ったね? でも、今の君じゃ確実に負ける」
「えっ……負けるって」
さっきと話が違うような?
「当然だろう? 相手は聖域者ですら勝てなかった悪魔だよ? 神の加護も権能も持たない魔術師では戦えない。だから修行して強くなってもらう。これから、最短時間で」
悪魔の襲撃まで最大でも一週間。
これもただの予想でしかなく、もしかすると明日や明後日という可能性もゼロではない。
それほど短い時間で、俺に聖域者以上に強くなれと言っている。
「そんなことが出来るんですか?」
「出来るさ。僕にはそのための秘策がある」
師匠は胸にトンと手を当ててそう言った。
これまで師匠から色々と教わっているけど、その秘策とやらに心当たりはない。
考えらるとすれば、師匠の持つ権能だが……
「リンテンスは僕についてきて。他のみんなはすまないけど、ここに残ってもらえるかな?」
「わかりました」
「うん。なら行こうか」
師匠につれられ屋敷を出る。
向かった先は、魔術学校の闘技場だった。
すでに鍵を借りていたらしく、中へ入って明かりをつける。
当然のことながら、他には誰もいない。
二人きりの貸し切り状態なんて、中々味わえないことだが、今は素直に喜べなくて残念だ。
「さてさて、説明を先にしておこうか」
師匠はクルリとこちらを向き、改まって話し出す。
「さっきも言った通り、今の君では悪魔には勝てない。単純な戦闘能力だけなら、君より強い人は何人か知っているしね。それでも君を選んだのは、君の中に可能性が眠っているからだ」
「可能性……何度もそう言いますけど、可能性って何なんですか?」
「うーん、言い換えるなら潜在能力? いや、魔術師としての到達点か。改めて説明しようと思うと難しいね。結論だけ言ってしまうと、未来の君なら悪魔にも勝てる力をもっているんだよ」
「未来?」
唐突に、思いもよらない単語が跳び出して、思わず声に出てしまった。
「未来、あるいは将来、君は魔術師としての極致にたどり着く。僕の眼は特別製でね? 色々なものが見える。君の中にある本当の力は、君が思っている以上に凄いんだよ」
そう言って、師匠は俺の起源を指さす。
師匠の眼には、人の起源が見える。
本来見えないものが見える眼。
神の権能の一つとして与えられたものだと聞いた。
師匠の眼は、未来すら見えているのだろうか?
「厳密に未来を見ているわけじゃないさ。ただわかるんだ。そうなるってことがハッキリわかる」
師匠は話しながら、左腕に魔力を集める。
すると、白い花びら生成され、一本の杖を生み出した。
師匠が普段、武器として使っている魔術の杖だ。
見た目は派手な装飾の施されたタダの杖だけど、なぜか剣より斬れたり、硬い岩を粉砕できたりする。
師匠曰く、師匠のイメージによって強化されているらしい。
その杖を持ち出し、コンと地面をたたく。
「今から君には【夢幻結界】という場所に入ってもらう。そこは僕の権能で生み出した全く別の空間だ」
「何度か修行で使っている空間とは違うんですか?」
「違うよ。系統は同じだけど、こっちは色々とアレンジしてあるから」
「そうなんですね。それで俺は、その空間で何をすればいいんですか?」
「戦うんだよ。未来の自分とね」
「えっ……」
師匠の言葉に驚き口を開ける。
まったく今日は驚かされてばかりだな。
「正確には、君の起源から読み取った情報を基に作られた幻影だ。君が将来たどり着く姿を具現化し、投影する」
「それと戦って、勝てばいいんですか?」
「そうだとも。勝利すれば、君は未来の自分の力を手に入れられる。その力をもって、僕と一緒に戦ってほしい」
「わかりました」
即答した俺に、師匠は呆れたように微笑む。
そうして続けてこう尋ねる。
「最後に一つ確認するよ。この修行は一度始めれば止められない。幻影か君、どちらも残っている限り、空間からの脱出もできない。次にこっちへ戻ってくるときは、勝ったときだけだ。負ければ当然死ぬ」
俺はごくりと頷く。
「相手は未来の君だ。確実に強い……負ける可能性のほうが高い。それでもやるかい?」
「今さらですね。師匠はそれでもやれって言うんでしょう?」
「よくわかってるじゃないか。どの道、悪魔に負ければ終わりだ。命をかけるのが今か、この後かの違いだよ。それに僕は信じている。僕の弟子なら、この程度の試練は簡単に超えてみせると」
「そうですか……なら、弟子として師匠の期待に応えてみせます!」
師匠が出来ると言ったんだ。
それなら間違いなんてない。
今までも、そうして強くなってきたのだから。
いや、身体はもう立っているけど、心がという意味で。
「よーし! それじゃさっそく始めようか」
「始めるって、何をです?」
「もちろん修行だよ。それも初めての……ね。特別なことをする」
師匠が特別なんて言い方をすると、なぜだか無性に不安が過る。
続けて師匠は俺に言う。
「君には一番可能性があると言ったね? でも、今の君じゃ確実に負ける」
「えっ……負けるって」
さっきと話が違うような?
「当然だろう? 相手は聖域者ですら勝てなかった悪魔だよ? 神の加護も権能も持たない魔術師では戦えない。だから修行して強くなってもらう。これから、最短時間で」
悪魔の襲撃まで最大でも一週間。
これもただの予想でしかなく、もしかすると明日や明後日という可能性もゼロではない。
それほど短い時間で、俺に聖域者以上に強くなれと言っている。
「そんなことが出来るんですか?」
「出来るさ。僕にはそのための秘策がある」
師匠は胸にトンと手を当ててそう言った。
これまで師匠から色々と教わっているけど、その秘策とやらに心当たりはない。
考えらるとすれば、師匠の持つ権能だが……
「リンテンスは僕についてきて。他のみんなはすまないけど、ここに残ってもらえるかな?」
「わかりました」
「うん。なら行こうか」
師匠につれられ屋敷を出る。
向かった先は、魔術学校の闘技場だった。
すでに鍵を借りていたらしく、中へ入って明かりをつける。
当然のことながら、他には誰もいない。
二人きりの貸し切り状態なんて、中々味わえないことだが、今は素直に喜べなくて残念だ。
「さてさて、説明を先にしておこうか」
師匠はクルリとこちらを向き、改まって話し出す。
「さっきも言った通り、今の君では悪魔には勝てない。単純な戦闘能力だけなら、君より強い人は何人か知っているしね。それでも君を選んだのは、君の中に可能性が眠っているからだ」
「可能性……何度もそう言いますけど、可能性って何なんですか?」
「うーん、言い換えるなら潜在能力? いや、魔術師としての到達点か。改めて説明しようと思うと難しいね。結論だけ言ってしまうと、未来の君なら悪魔にも勝てる力をもっているんだよ」
「未来?」
唐突に、思いもよらない単語が跳び出して、思わず声に出てしまった。
「未来、あるいは将来、君は魔術師としての極致にたどり着く。僕の眼は特別製でね? 色々なものが見える。君の中にある本当の力は、君が思っている以上に凄いんだよ」
そう言って、師匠は俺の起源を指さす。
師匠の眼には、人の起源が見える。
本来見えないものが見える眼。
神の権能の一つとして与えられたものだと聞いた。
師匠の眼は、未来すら見えているのだろうか?
「厳密に未来を見ているわけじゃないさ。ただわかるんだ。そうなるってことがハッキリわかる」
師匠は話しながら、左腕に魔力を集める。
すると、白い花びら生成され、一本の杖を生み出した。
師匠が普段、武器として使っている魔術の杖だ。
見た目は派手な装飾の施されたタダの杖だけど、なぜか剣より斬れたり、硬い岩を粉砕できたりする。
師匠曰く、師匠のイメージによって強化されているらしい。
その杖を持ち出し、コンと地面をたたく。
「今から君には【夢幻結界】という場所に入ってもらう。そこは僕の権能で生み出した全く別の空間だ」
「何度か修行で使っている空間とは違うんですか?」
「違うよ。系統は同じだけど、こっちは色々とアレンジしてあるから」
「そうなんですね。それで俺は、その空間で何をすればいいんですか?」
「戦うんだよ。未来の自分とね」
「えっ……」
師匠の言葉に驚き口を開ける。
まったく今日は驚かされてばかりだな。
「正確には、君の起源から読み取った情報を基に作られた幻影だ。君が将来たどり着く姿を具現化し、投影する」
「それと戦って、勝てばいいんですか?」
「そうだとも。勝利すれば、君は未来の自分の力を手に入れられる。その力をもって、僕と一緒に戦ってほしい」
「わかりました」
即答した俺に、師匠は呆れたように微笑む。
そうして続けてこう尋ねる。
「最後に一つ確認するよ。この修行は一度始めれば止められない。幻影か君、どちらも残っている限り、空間からの脱出もできない。次にこっちへ戻ってくるときは、勝ったときだけだ。負ければ当然死ぬ」
俺はごくりと頷く。
「相手は未来の君だ。確実に強い……負ける可能性のほうが高い。それでもやるかい?」
「今さらですね。師匠はそれでもやれって言うんでしょう?」
「よくわかってるじゃないか。どの道、悪魔に負ければ終わりだ。命をかけるのが今か、この後かの違いだよ。それに僕は信じている。僕の弟子なら、この程度の試練は簡単に超えてみせると」
「そうですか……なら、弟子として師匠の期待に応えてみせます!」
師匠が出来ると言ったんだ。
それなら間違いなんてない。
今までも、そうして強くなってきたのだから。