「さてさて、色々と疑問はあるだろう。それについては安心したまえ。今から私がする話を聞けば、大方の疑問は解消されるはずだからね」
「その口ぶり……やはり師匠もこの件に関わっているんですね」
「もちろんだとも! と言いたいところだが、半分正解で半分違う」
半分?
と心の中で呟き、次の言葉に耳を傾ける。
「君も知っての通り、僕は王国からの依頼で留守にしていた。それを今回の件だと思っているなら間違いだよ」
「そうなんですか?」
てっきりそうなのだと思い込んでいた。
師匠は頷き、続きを説明する。
「うん。僕が受けていたのは別の依頼でね。この件とは全くの無関係だった。ことの顛末を知ったのもついこの間のことだよ。たぶん、君たちより数時間早い程度の差でしかない。もちろん、君たちよりは細かく事情を知っているけどね」
師匠は話しながら、テーブルの上のカップを手にかけ、紅茶を一口含む。
落ち着いたため息をこぼして、カチャリとカップを置く。
そして、唐突にこんな質問を投げかけてきた。
「リンテンス、以前に悪魔の話をしたことを覚えているかい?」
「えっ? あ、はい。覚えていますよ」
確か、悪魔がいるのかどうかの話だっけ?
俺はおとぎ話の生き物だと思っていたけど、師匠はいると断言していた。
それから……
悪魔と出会う時までに、戦えるようになっていてほしい。
師匠は俺にそう言ったんだ。
その記憶が脳裏をよぎり、師匠の言葉と繋がる。
「東西で確認された未確認生物……その正体こそ悪魔だった」
「なっ……本当なんですか?」
「うん、間違いないよ。戦った本人からの情報だからね」
「本人?」
聖域者の二人のことか。
でも一人は死亡して、もう一人も意識不明だと聞いている。
「生き残った一人、アベルがさっき目覚めたんだよ。両脚と左腕を失っていたが、命は何とか繋ぎとめていた。残念ながらシュレトンさんは、遺体も発見できなかったよ」
アベル・レイズマン。
師匠より後に聖域者となった男性で、家は騎士の家系。
太陽神ミトラの加護をもち、太陽の下では無限に等しい魔力量と、魔術センスを得られる。
類まれなる剣術の才能があり、太陽の騎士と呼ばれていた。
シュレトン・マーシャル。
現存していた聖域者では最年長のご老公。
御年六十二歳を迎えたが、まだまだ魔力も肉体も衰えることなく現役だった。
その源は、地母神レアの加護を受けていたからだろう。
大地を自在に操り、植物から生命力を分け与えられていたから、肉体の老化も緩やかだったに違いない。
師匠の師であるナベリウス校長の同期でもある。
「師匠、校長の所へは」
「うん、わかっているよ。さすがに後で顔を出すさ」
「そうですね。それが良いと思います」
きっと落ち込んでいるはずだ。
なんてわかった風に言うのは失礼かもしれないけど。
師匠も心配していることが伝わる。
そのまま師匠は詳しい説明を続けた。
東西を侵攻していたモンスターの群れ。
その群れを率いていた将こそ、悪魔だったという。
悪魔たちはモンスターを使い、近くにあった街や村を襲っていた。
モンスターたちに下されていた命令は『鏖殺』。
アベル様が到着した時には、女子供も無関係に、一人残らず殺されていたそうだ。
そして、モンスターの群れを一掃した後、悪魔と交戦した。
激しい戦いの末、アベル様は重傷を負ってしまう。
しかし、相手も傷を負い、止めを刺される前にどこかへ消えた。
シュレトン様のほうは詳細はわからない。
ただ、戦いの激しさを物語る痕跡が残されており、アベル様と同様の結果だったと予想されている。
「その後は大きな被害が出ていない。二人はちゃんと、人々を守るという役目を果たしたんだ。さすがだよ」
「……はい」
俺に合わせて、シトネたちも頷く。
師匠と俺の会話を邪魔しないよう、みんなは空気を読んで黙ってくれているようだ。
「師匠、聞いてもいいですか?」
「何だい?」
「悪魔ってそもそも何なんですか? 前に話した時も、具体的なことは話さなかったですよね? でも……」
師匠はたぶん、知っている。
悪魔という存在のことを、本に書いてある内容以上に。
そんな予感がして、俺は質問していた。
師匠は答える。
「そうだね。あの時はまだ……いや、今は話すべきだね。君の言う通り、僕は悪魔を知っている。というより、僕の中には悪魔の血が混ざっているんだ」
「えっ……」
「良い反応だね。普段なら喜ぶところだけど、今は調子に乗らず話を続けよう。混ざっているといってもほんの僅かだ。僕の祖先はね? 悪魔と人間の混血だったんだよ。その関係なのか、大昔の記憶が断片的に残っている」
そうか。
師匠の話を聞きながら察した。
以前、悪魔に会ったことがあるのか尋ねた時、師匠は半分正解だと言った。
半分と言うのは、そういう意味だったのか。
「当時、世界はとても平和だった。本の歴史だと種族同士で争っていたって書いてあるけど、あれは間違いなんだ。本当の歴史は別にある」
「その口ぶり……やはり師匠もこの件に関わっているんですね」
「もちろんだとも! と言いたいところだが、半分正解で半分違う」
半分?
と心の中で呟き、次の言葉に耳を傾ける。
「君も知っての通り、僕は王国からの依頼で留守にしていた。それを今回の件だと思っているなら間違いだよ」
「そうなんですか?」
てっきりそうなのだと思い込んでいた。
師匠は頷き、続きを説明する。
「うん。僕が受けていたのは別の依頼でね。この件とは全くの無関係だった。ことの顛末を知ったのもついこの間のことだよ。たぶん、君たちより数時間早い程度の差でしかない。もちろん、君たちよりは細かく事情を知っているけどね」
師匠は話しながら、テーブルの上のカップを手にかけ、紅茶を一口含む。
落ち着いたため息をこぼして、カチャリとカップを置く。
そして、唐突にこんな質問を投げかけてきた。
「リンテンス、以前に悪魔の話をしたことを覚えているかい?」
「えっ? あ、はい。覚えていますよ」
確か、悪魔がいるのかどうかの話だっけ?
俺はおとぎ話の生き物だと思っていたけど、師匠はいると断言していた。
それから……
悪魔と出会う時までに、戦えるようになっていてほしい。
師匠は俺にそう言ったんだ。
その記憶が脳裏をよぎり、師匠の言葉と繋がる。
「東西で確認された未確認生物……その正体こそ悪魔だった」
「なっ……本当なんですか?」
「うん、間違いないよ。戦った本人からの情報だからね」
「本人?」
聖域者の二人のことか。
でも一人は死亡して、もう一人も意識不明だと聞いている。
「生き残った一人、アベルがさっき目覚めたんだよ。両脚と左腕を失っていたが、命は何とか繋ぎとめていた。残念ながらシュレトンさんは、遺体も発見できなかったよ」
アベル・レイズマン。
師匠より後に聖域者となった男性で、家は騎士の家系。
太陽神ミトラの加護をもち、太陽の下では無限に等しい魔力量と、魔術センスを得られる。
類まれなる剣術の才能があり、太陽の騎士と呼ばれていた。
シュレトン・マーシャル。
現存していた聖域者では最年長のご老公。
御年六十二歳を迎えたが、まだまだ魔力も肉体も衰えることなく現役だった。
その源は、地母神レアの加護を受けていたからだろう。
大地を自在に操り、植物から生命力を分け与えられていたから、肉体の老化も緩やかだったに違いない。
師匠の師であるナベリウス校長の同期でもある。
「師匠、校長の所へは」
「うん、わかっているよ。さすがに後で顔を出すさ」
「そうですね。それが良いと思います」
きっと落ち込んでいるはずだ。
なんてわかった風に言うのは失礼かもしれないけど。
師匠も心配していることが伝わる。
そのまま師匠は詳しい説明を続けた。
東西を侵攻していたモンスターの群れ。
その群れを率いていた将こそ、悪魔だったという。
悪魔たちはモンスターを使い、近くにあった街や村を襲っていた。
モンスターたちに下されていた命令は『鏖殺』。
アベル様が到着した時には、女子供も無関係に、一人残らず殺されていたそうだ。
そして、モンスターの群れを一掃した後、悪魔と交戦した。
激しい戦いの末、アベル様は重傷を負ってしまう。
しかし、相手も傷を負い、止めを刺される前にどこかへ消えた。
シュレトン様のほうは詳細はわからない。
ただ、戦いの激しさを物語る痕跡が残されており、アベル様と同様の結果だったと予想されている。
「その後は大きな被害が出ていない。二人はちゃんと、人々を守るという役目を果たしたんだ。さすがだよ」
「……はい」
俺に合わせて、シトネたちも頷く。
師匠と俺の会話を邪魔しないよう、みんなは空気を読んで黙ってくれているようだ。
「師匠、聞いてもいいですか?」
「何だい?」
「悪魔ってそもそも何なんですか? 前に話した時も、具体的なことは話さなかったですよね? でも……」
師匠はたぶん、知っている。
悪魔という存在のことを、本に書いてある内容以上に。
そんな予感がして、俺は質問していた。
師匠は答える。
「そうだね。あの時はまだ……いや、今は話すべきだね。君の言う通り、僕は悪魔を知っている。というより、僕の中には悪魔の血が混ざっているんだ」
「えっ……」
「良い反応だね。普段なら喜ぶところだけど、今は調子に乗らず話を続けよう。混ざっているといってもほんの僅かだ。僕の祖先はね? 悪魔と人間の混血だったんだよ。その関係なのか、大昔の記憶が断片的に残っている」
そうか。
師匠の話を聞きながら察した。
以前、悪魔に会ったことがあるのか尋ねた時、師匠は半分正解だと言った。
半分と言うのは、そういう意味だったのか。
「当時、世界はとても平和だった。本の歴史だと種族同士で争っていたって書いてあるけど、あれは間違いなんだ。本当の歴史は別にある」