俺とシトネがマンティスを相手にしている間、グレンとセリカも戦闘を開始する。
 二人の相手は、ゴブリンとウルフの群れ。
 ウルフにゴブリンが騎乗して迫ってきていた。
 ゴブリンは時折、ウルフを飼って従えていることがある。
 
 グレンはやる気十分に炎を生成して言う。
 
「一気に片を付けよう」
「お待ちください。森の中で炎を使えば、木々に引火してしまいます。特にここは背の高い草も多いですから、いかにグレン様でも」
「そうだな。少し気がはやっていたよ」

 グレンはそう言って炎を納める。

「任せていいかい?」
「はい」

 代わりにセリカが前へ出る。
 グレンのメイドであるセリカは、普通の魔術師ではない。

「ウィンネ」

 名を呼び、彼女の肩に風が集まる。
 集まった風は黄緑色の光を纏って、一匹の小動物へと変化した。
 狐とイタチの中間のような見た目に、鮮やかな黄緑色の毛並み。
 あれは動物ではない。
 風の精霊だ。

「風よ――」

 セリカが唱えると、肩に乗っていた風の精霊が高らかに鳴く。
 鳴き声に抗するように風が生成され、ゴブリンたちを宙に浮かす。

「巻き上げ、斬り裂け」

 さらに風は強まり、鋭い刃となってゴブリンたちを攻撃した。
 竜巻と風の刃の合わせ技によって群れは全滅する。

「終わりました。グレン様」
「ああ、完璧な手際だったよ」
「ありがとうございます」

 セリカ・ブラント。
 彼女は精霊魔術師だ。
 精霊とは、大自然から生まれた生物とは異なる存在。
 魔力を持っているのは、俺たちのような人間だけに限らない。
 動物、虫、魚類やモンスターはもちろん、植物や木々、大地といった自然にも魔力はこもっている。
 それらが徐々に漏れ出し、意思を持つ魔力の集合体となったものを、精霊と呼んでいた。

 精霊魔術師は、大自然から生まれた精霊と契約し、その力の一端を使役する者。
 セリカの場合は、風の精霊ウィンネと契約し、大気を自在に操ることが出来る。
 何より特異的なのは、精霊魔術の発動には、自身の魔力を消費しないということ。

「凄いよね~ 私精霊って初めて見たよ」
「ああ、俺もだ」

 精霊魔術師はとても希少な存在だ。
 新入生でも、セリカ一人だけらしいし、世界中探しても百人に達しないと聞く。
 秘めた才能という点では、俺やグレンより上だろう。

 精霊と契約している彼女は、独特な気配を持っている。
 まるで自然と一体化しているような。
 そこにいるようで、いないような不思議な気配。
 鬼ごっこの時に、彼女の接近を感知できなかったのは、彼女が精霊魔術師だからだと予想できる。
 
「お二人とも警戒を。次が来ます。それも今度は――」

 セリカが上を見上げる。

「上空です」

 そこには三匹の飛竜がいた。
 灰色の翼を広げ、グルグルと飛び回っている。
 グレンが
 
「ワイバーンか!」
「そのようです」

 グレンとセリカが確認し合う。
 ワイバーンは小型のドラゴンで、山岳地帯や火山などに生息している。
 現存する飛行モンスターでは、上位に位置する強敵だ。
 おそらくこの訓練では、最高のポイント配布だと予想される。

「リンテンス君!」
「ああ」

 シトネが光の弓を、俺が藍雷で弓を生成。
 どちらも通常の二倍の大きさで、ワイバーンのいる上空を狙う。

「一匹は遠い。二匹を俺たちで落とすから、後は任せる」
「わかった」
「よし。もういけるか? シトネ」
「うん! いつでもいいよ!」

 狙いはすでに定めてある。
 後へ射抜くのみ。
 ワイバーンは空中で旋回している。
 俺の弓も、シトネの弓も、それぞれ魔術によって生成されたもの。
 その速度は、どちらもワイバーンを射止めるには十分だった。

 藍雷と光の矢が放たれ、それぞれのワイバーンに命中。
 片翼を射抜かれて、高度を大きく落とす。

「セリカ、僕を打ち上げてくれ」
「かしこまりました」

 剣を構えるグレンを、セリカの風が吹き飛ばす。
 風の力で一匹へと向かい、そのまま炎を纏った剣で斬り裂く。
 さらに斬り裂いたワイバーンを踏み台にして、もう一匹に狙いを定める。
 だが、ワイバーンもただでは死なない。
 顎を大きく開き、炎のブレスを吐き出した。

「真紅」

 その炎を、グレンの炎は呑み込み燃やし尽くす。
 炎すら燃やす炎、それこそ真紅。

「空中であれば、周りを気にする必要もないからね」
「さすが」

 ワイバーン二匹を難なく倒し、グレンが地面に降り立つ。
 グレンは剣をおさめる。

「お疲れグレン。さすが余裕だったな」
「なに、みんなの支援があったからこそだよ」

 謙遜だな。
 と、心の中で呟く。

「あと一匹いたよな?」
「ああ。出来れば僕たちで狩りたいね」
「距離がありますね」
「じゃあ他の倒しながら行こうよ!」

 そのまま四人で次のターゲットを探す。
 目標の半数を達成するため、作戦を練りながら進む。
 
 順調。
 きわめて順調な滑り出しだった。

 次の瞬間。
 空を漆黒が覆うまでは――