【9/10コミカライズ】ナナイロ雷術師の英雄譚―すべてを失った俺、雷魔術を極めて最強へと至るー

 親善試合の翌日も、通常通り授業が行われる。
 一夜明けて魔力も回復した俺は、シトネと一緒に登校していた。

「次の日くらい休みにしてくれればいいのにな」
「あはははっ、そう思ってるのリンテンス君だけだと思うよ?」
「えっ」
「だって頑張ったのも疲れたのも、リンテンス君だけだもん」
「ああ……そういえばそうか」

 いや、兄さんも当てはまると思うけど。
 そういえばあれから、兄さんはどうなったのかな?
 父上は相変わらずだったし、屋敷で責められたりしたのだろうか。
 だとしたら申し訳ないし、父上には腹が立つ。

「また……ちゃんと話したいな」
「誰とだ?」

 後ろからポンと肩を叩かれ、振り向く。

「グレン」
「おはよう二人とも」
「おはよう! セリカちゃんも一緒だね」
「はい。おはようございます」

 グレンとセリカが合流して、一緒に学校へ向かうことに。
 道中、普段より視線を感じて、周囲が気になる。
 前のように嫌な視線ではないようだが……

「注目されているな」
「みたいだね。でも前からだし」
「いいや、今は良い意味で注目されているだろ?」
「良い意味って?」

 俺が聞き返すと、グレンは呆れ顔をする。
 気付いていないのかと言わんばかりにため息をついて、やれやれとジェスチャーした。

「何だよ」
「君はあれだけの戦いを見せたんだ。もう君のことを、落ちこぼれだと思う者は誰もいない。こうして注目を浴びているのも、君の強さを知ったからさ」
「俺の……強さ」

 なるほど、そういう良い意味か。
 ハッキリ言うと、本当に察していなかったよ。
 というより、どうでも良いと思っていた。
 変な話だな。
 最初は周りを見返したくて努力していたのに、いざ認められたと思うと、何だか素直に喜べない。

「あまり嬉しそうじゃない顔だね」
「ははっ、そうみたいだ」

 自分自身に呆れて笑う俺を、キョトンとした顔で見ている。
 グレンを見て、彼との戦いを思い出しながら、シトネとの出会いも振り返る。
 それよりもっと前の、師匠と過ごした厳しい日々。
 全部を通して、今の俺がいる。
 そうか……

「昔の俺だったら、素直に喜んだと思うよ。周りを見返したくて、修行も頑張ったからな~ でも今は、他にも理由があるから」

 師匠の期待に応えたい。
 師匠と同じ場所にたどり着いて、一緒に肩を並べて戦いたい。
 俺を鍛えてくれた恩を返したい。
 俺の中にある強さの理由は、あの時よりも増えている。

「俺はまだ何も成し遂げてない。全部これからだ」
「なるほど。さすが、先を見据えている」
「すぐ近くに目標がずっといたからね。まだまだ足りないってことも実感しているよ」

 修行して、鍛えられて、強くなっても届かない。
 師匠は俺なんかより遥か高みにいる。
 いつかそこへ行くために、今で満足していられない。
 そう思えるのも、心が成長してくれたお陰なのだろうか。

「それに、途中から態度を変えられたって、やっぱりスッキリしないな。これから何人理解者が増えようと、お前たちみたいに、最初から普通に接してくれた人のほうが大事だよ」
「リンテンス……」
「なんてなっ」

 言った後で恥ずかしくなって、誤魔化す様にわらってみた。
 我ながらキザなセリフを口にしたものだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「えぇ~ 明日から学外研修後半が始まる。前回同様、おのおのしっかり準備するように」

 先生が教壇の上で話した内容が耳に入ってきて、俺は思わずぼそりと呟く。

「え? 後半?」
「……リンテンス」

 すると、隣でグレンがとても怖い顔をしていた。
 言わなくてもわかる。
 また聞いていなかったのか、と言いたいのだろう。

「違う違う! 今回は聞いてなかったとかじゃない!」

 慌てて否定して続ける。

「た、確か後半ってもっと後じゃなかったっけ?」
「今年は天候が調子良く保っているらしいんだ。前回が終わってから一時的に荒れたそうだが、すぐに回復したそうだよ」
「えぇ~ 荒れたら長いって話だったのに」
「そう。だから予想外に早く回復したから、後半も早めたのだろうね」
「そういうことか」

 前回も思ったけど、学校生活って意外と大変なんだな。
 もう少し落ち着いた感じを想像していた俺としては、異様な慌ただしさに驚いていた。

「あっ、そういえば……」

 ふと思い出した。
 研修の前半、渓谷で見つけたドラゴンの痕跡のことを。
 あれから騒ぎにもなっていないし、ドラゴンはいなかったということなのだろうか。

「どうしたんだ?」
「……いや、何でもない」

 もしもいるなら、練習相手になってほしいと思った。