親善試合の翌日も、通常通り授業が行われる。
 一夜明けて魔力も回復した俺は、シトネと一緒に登校していた。

「次の日くらい休みにしてくれればいいのにな」
「あはははっ、そう思ってるのリンテンス君だけだと思うよ?」
「えっ」
「だって頑張ったのも疲れたのも、リンテンス君だけだもん」
「ああ……そういえばそうか」

 いや、兄さんも当てはまると思うけど。
 そういえばあれから、兄さんはどうなったのかな?
 父上は相変わらずだったし、屋敷で責められたりしたのだろうか。
 だとしたら申し訳ないし、父上には腹が立つ。

「また……ちゃんと話したいな」
「誰とだ?」

 後ろからポンと肩を叩かれ、振り向く。

「グレン」
「おはよう二人とも」
「おはよう! セリカちゃんも一緒だね」
「はい。おはようございます」

 グレンとセリカが合流して、一緒に学校へ向かうことに。
 道中、普段より視線を感じて、周囲が気になる。
 前のように嫌な視線ではないようだが……

「注目されているな」
「みたいだね。でも前からだし」
「いいや、今は良い意味で注目されているだろ?」
「良い意味って?」

 俺が聞き返すと、グレンは呆れ顔をする。
 気付いていないのかと言わんばかりにため息をついて、やれやれとジェスチャーした。

「何だよ」
「君はあれだけの戦いを見せたんだ。もう君のことを、落ちこぼれだと思う者は誰もいない。こうして注目を浴びているのも、君の強さを知ったからさ」
「俺の……強さ」

 なるほど、そういう良い意味か。
 ハッキリ言うと、本当に察していなかったよ。
 というより、どうでも良いと思っていた。
 変な話だな。
 最初は周りを見返したくて努力していたのに、いざ認められたと思うと、何だか素直に喜べない。

「あまり嬉しそうじゃない顔だね」
「ははっ、そうみたいだ」

 自分自身に呆れて笑う俺を、キョトンとした顔で見ている。
 グレンを見て、彼との戦いを思い出しながら、シトネとの出会いも振り返る。
 それよりもっと前の、師匠と過ごした厳しい日々。
 全部を通して、今の俺がいる。
 そうか……

「昔の俺だったら、素直に喜んだと思うよ。周りを見返したくて、修行も頑張ったからな~ でも今は、他にも理由があるから」

 師匠の期待に応えたい。
 師匠と同じ場所にたどり着いて、一緒に肩を並べて戦いたい。
 俺を鍛えてくれた恩を返したい。
 俺の中にある強さの理由は、あの時よりも増えている。

「俺はまだ何も成し遂げてない。全部これからだ」
「なるほど。さすが、先を見据えている」
「すぐ近くに目標がずっといたからね。まだまだ足りないってことも実感しているよ」

 修行して、鍛えられて、強くなっても届かない。
 師匠は俺なんかより遥か高みにいる。
 いつかそこへ行くために、今で満足していられない。
 そう思えるのも、心が成長してくれたお陰なのだろうか。

「それに、途中から態度を変えられたって、やっぱりスッキリしないな。これから何人理解者が増えようと、お前たちみたいに、最初から普通に接してくれた人のほうが大事だよ」
「リンテンス……」
「なんてなっ」

 言った後で恥ずかしくなって、誤魔化す様にわらってみた。
 我ながらキザなセリフを口にしたものだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「えぇ~ 明日から学外研修後半が始まる。前回同様、おのおのしっかり準備するように」

 先生が教壇の上で話した内容が耳に入ってきて、俺は思わずぼそりと呟く。

「え? 後半?」
「……リンテンス」

 すると、隣でグレンがとても怖い顔をしていた。
 言わなくてもわかる。
 また聞いていなかったのか、と言いたいのだろう。

「違う違う! 今回は聞いてなかったとかじゃない!」

 慌てて否定して続ける。

「た、確か後半ってもっと後じゃなかったっけ?」
「今年は天候が調子良く保っているらしいんだ。前回が終わってから一時的に荒れたそうだが、すぐに回復したそうだよ」
「えぇ~ 荒れたら長いって話だったのに」
「そう。だから予想外に早く回復したから、後半も早めたのだろうね」
「そういうことか」

 前回も思ったけど、学校生活って意外と大変なんだな。
 もう少し落ち着いた感じを想像していた俺としては、異様な慌ただしさに驚いていた。

「あっ、そういえば……」

 ふと思い出した。
 研修の前半、渓谷で見つけたドラゴンの痕跡のことを。
 あれから騒ぎにもなっていないし、ドラゴンはいなかったということなのだろうか。

「どうしたんだ?」
「……いや、何でもない」

 もしもいるなら、練習相手になってほしいと思った。