激闘が続く。
色とりどりの雷が走り、光となって戦場をかける。
片や時を操り、変幻自在の魔術で攻め立てる。
くそっ、やっぱり攻撃が当たらない。
不意打ちも通じないし、赤雷と緑雷もパターンを見切られてきている。
魔術の手数ではあちらが上。
普段なら接近戦に持ち込みたいところだが、不用意に近づけば時の加速で追い打ちをかけられる。
思うように攻めきれない。
だけど、それは向こうも同じはずだ。
「よく避ける」
兄さんは呆れたようにぼそりと呟く。
絶え間なく降り注ぐ雷の嵐を躱しながらでは、初手のように大きく攻められない。
つかず離れず、長期戦に持ち込めば、勝算は俺にあるだろう。
兄さんは潜在魔力が少ないから、持久戦には弱い。
長年の修行で魔力量も上がっているようだが、確実に俺のほうが多い。
このまま戦えば勝つのは俺だ。
しかし、兄さんが黙っているわけもない。
「ここまで追いすがるとは……良いだろう」
兄さんは立ち止まり、結界障壁を展開する。
この場面で守りに入る?
いや、違う!
「リンテンス、お前の強さに敬意を表し、俺も見せるとしよう」
見慣れぬ術式が展開される。
だが、俺にはそれが何の術式であるかすぐにわかった。
あれが来る。
かつての兄さんが至れなかった時間魔術の極致。
最強にして全能の奥義が――
「時間魔術奥義――時計の針は動かない」
【時計の針は動かない】。
時間魔術の奥義であり、世界そのものに干渉出来る魔術。
その効果は、自分以外の時間を完全停止させる。
人も、自然も、何もかもが静止した世界。
ただ一人動くことを許されたのは、術者のみである。
「使うつもりはなかったのだがな」
アクトにとって、クロノスタシスは最終手段と言える。
彼は十数年にわたる修行の末、幼少期の三倍近い魔力を得ている。
だが、元々が少なかった分、それでも足りない。
奥義に至った今ですら、一日一度きりが限度だった。
「俺が止めていられる時間は、最大で十秒だけだ。ここまで伸ばすのに、十年以上かかったぞ」
アクトは動かない相手へと近づく。
十秒という限られた時間とは言え、この間の絶対的支配者は彼だ。
何者も、時の止まった世界では、彼に抗うことは出来ない。
認識すら出来ぬまま、彼はその身体に触れる。
「悪いな、リンテンス」
そして、時は動き出す――
「っ――!?」
兄さんが触れた身体から、蒼い稲妻が走る。
電撃は触れた手から伝わり、兄さんへダメージを与えた。
「くっ……」
兄さんは咄嗟に後方へ跳び避ける。
顔を上げ、見据える先の俺は、息を切らしながら笑っていた。
「はぁ……ギリギリだったな」
「何をした?」
「カウンターだよ。兄さんが触れたのは俺の身体じゃない。その表面を覆っていた蒼雷だ」
兄さんが奥義を使うと悟った瞬間、俺は全神経を蒼雷に注いだ。
時を止められては何も出来ない。
ただし、時が止まった世界では、兄さんも止まっている相手を攻撃することは出来ない。
それを知っていたから、攻撃の際は術式を解くとわかっていた。
だから図った。
兄さんが俺の身体に触れ、回避不可能な距離で攻撃を仕掛けてくると。
「蒼雷は強化術式だけど、これも立派な雷だ。触れられた瞬間、最大出力で全方位に放出すれば、確実に当たるしダメージも入るだろ?」
これこそ色源雷術蒼雷――反。
兄さんのクロノスタシスに対抗するために考案した技だ。
そして……
「時を止める術式は膨大な魔力を消費する。もう兄さんは、時を止めることは出来ないよね?」
「っ……それがどうした? 完全に魔力が尽きたわけではない。もう戦えないと思っているなら、お前の目は節穴だ」
「戦えないなんて思ってないよ。でも、今の兄さんに、この技は防げない」
空を見上げれば曇天。
開始時点では晴れていた空に、ゴロゴロと雷雲が満ちている。
「これは……天雷か? いくら雷魔術の奥義とはいえ、俺に躱せないとでも思ったか?」
「ああ、確かに普通の天雷なら、躱せるかもしれないね」
「何?」
今から発動するのは、通常の天雷ではない。
色源雷術と天雷の応用だ。
通常、術式を発動させる際には様々な工程がある。
例えば赤雷の場合、雷を発生させる第一段階から、そこに術式効果の付与、発動までの最低三工程が必要だ。
仮にこれを二工程に縮めることが出来れば、残された工程に集中することができ、術式の精度は向上するだろう。
天雷は、自然の雷雲を利用し、雷を落とす。
雷を生成するという工程がない時点で、まず一工程は省かれる。
さらにこの技は、色源雷術の雷を受けている対象に引き寄せられる。
故に狙うという必要がなく、発動後はただ落とせばいい。
どれだけ速くとも、確実に当たる。
残る工程は一つ、術式効果の付与に全神経を注ぎ込み、この技は完成する。
「いくぞ兄さん、色源雷術――奥義!」
「くっ!」
兄さんは咄嗟に結界障壁を展開した。
躱せないと本能が悟ったのか、防御に集中するつもりだ。
それも一や二重ではない。
十の結界障壁を折り重ね、強度を増している。
天雷とはいえ、あの障壁を貫くことは難しい。
が、この技は魔術によって防御は出来ない。
天然の雷に付与された術式……その効果は魔力のみを霧散させること。
人や物は破壊できない。
代わりに魔力だけを貫き穿つ。
その雷の名は――
「白雷」
純白の雷が多重結界を貫き、兄さんへ降り注ぐ。
色とりどりの雷が走り、光となって戦場をかける。
片や時を操り、変幻自在の魔術で攻め立てる。
くそっ、やっぱり攻撃が当たらない。
不意打ちも通じないし、赤雷と緑雷もパターンを見切られてきている。
魔術の手数ではあちらが上。
普段なら接近戦に持ち込みたいところだが、不用意に近づけば時の加速で追い打ちをかけられる。
思うように攻めきれない。
だけど、それは向こうも同じはずだ。
「よく避ける」
兄さんは呆れたようにぼそりと呟く。
絶え間なく降り注ぐ雷の嵐を躱しながらでは、初手のように大きく攻められない。
つかず離れず、長期戦に持ち込めば、勝算は俺にあるだろう。
兄さんは潜在魔力が少ないから、持久戦には弱い。
長年の修行で魔力量も上がっているようだが、確実に俺のほうが多い。
このまま戦えば勝つのは俺だ。
しかし、兄さんが黙っているわけもない。
「ここまで追いすがるとは……良いだろう」
兄さんは立ち止まり、結界障壁を展開する。
この場面で守りに入る?
いや、違う!
「リンテンス、お前の強さに敬意を表し、俺も見せるとしよう」
見慣れぬ術式が展開される。
だが、俺にはそれが何の術式であるかすぐにわかった。
あれが来る。
かつての兄さんが至れなかった時間魔術の極致。
最強にして全能の奥義が――
「時間魔術奥義――時計の針は動かない」
【時計の針は動かない】。
時間魔術の奥義であり、世界そのものに干渉出来る魔術。
その効果は、自分以外の時間を完全停止させる。
人も、自然も、何もかもが静止した世界。
ただ一人動くことを許されたのは、術者のみである。
「使うつもりはなかったのだがな」
アクトにとって、クロノスタシスは最終手段と言える。
彼は十数年にわたる修行の末、幼少期の三倍近い魔力を得ている。
だが、元々が少なかった分、それでも足りない。
奥義に至った今ですら、一日一度きりが限度だった。
「俺が止めていられる時間は、最大で十秒だけだ。ここまで伸ばすのに、十年以上かかったぞ」
アクトは動かない相手へと近づく。
十秒という限られた時間とは言え、この間の絶対的支配者は彼だ。
何者も、時の止まった世界では、彼に抗うことは出来ない。
認識すら出来ぬまま、彼はその身体に触れる。
「悪いな、リンテンス」
そして、時は動き出す――
「っ――!?」
兄さんが触れた身体から、蒼い稲妻が走る。
電撃は触れた手から伝わり、兄さんへダメージを与えた。
「くっ……」
兄さんは咄嗟に後方へ跳び避ける。
顔を上げ、見据える先の俺は、息を切らしながら笑っていた。
「はぁ……ギリギリだったな」
「何をした?」
「カウンターだよ。兄さんが触れたのは俺の身体じゃない。その表面を覆っていた蒼雷だ」
兄さんが奥義を使うと悟った瞬間、俺は全神経を蒼雷に注いだ。
時を止められては何も出来ない。
ただし、時が止まった世界では、兄さんも止まっている相手を攻撃することは出来ない。
それを知っていたから、攻撃の際は術式を解くとわかっていた。
だから図った。
兄さんが俺の身体に触れ、回避不可能な距離で攻撃を仕掛けてくると。
「蒼雷は強化術式だけど、これも立派な雷だ。触れられた瞬間、最大出力で全方位に放出すれば、確実に当たるしダメージも入るだろ?」
これこそ色源雷術蒼雷――反。
兄さんのクロノスタシスに対抗するために考案した技だ。
そして……
「時を止める術式は膨大な魔力を消費する。もう兄さんは、時を止めることは出来ないよね?」
「っ……それがどうした? 完全に魔力が尽きたわけではない。もう戦えないと思っているなら、お前の目は節穴だ」
「戦えないなんて思ってないよ。でも、今の兄さんに、この技は防げない」
空を見上げれば曇天。
開始時点では晴れていた空に、ゴロゴロと雷雲が満ちている。
「これは……天雷か? いくら雷魔術の奥義とはいえ、俺に躱せないとでも思ったか?」
「ああ、確かに普通の天雷なら、躱せるかもしれないね」
「何?」
今から発動するのは、通常の天雷ではない。
色源雷術と天雷の応用だ。
通常、術式を発動させる際には様々な工程がある。
例えば赤雷の場合、雷を発生させる第一段階から、そこに術式効果の付与、発動までの最低三工程が必要だ。
仮にこれを二工程に縮めることが出来れば、残された工程に集中することができ、術式の精度は向上するだろう。
天雷は、自然の雷雲を利用し、雷を落とす。
雷を生成するという工程がない時点で、まず一工程は省かれる。
さらにこの技は、色源雷術の雷を受けている対象に引き寄せられる。
故に狙うという必要がなく、発動後はただ落とせばいい。
どれだけ速くとも、確実に当たる。
残る工程は一つ、術式効果の付与に全神経を注ぎ込み、この技は完成する。
「いくぞ兄さん、色源雷術――奥義!」
「くっ!」
兄さんは咄嗟に結界障壁を展開した。
躱せないと本能が悟ったのか、防御に集中するつもりだ。
それも一や二重ではない。
十の結界障壁を折り重ね、強度を増している。
天雷とはいえ、あの障壁を貫くことは難しい。
が、この技は魔術によって防御は出来ない。
天然の雷に付与された術式……その効果は魔力のみを霧散させること。
人や物は破壊できない。
代わりに魔力だけを貫き穿つ。
その雷の名は――
「白雷」
純白の雷が多重結界を貫き、兄さんへ降り注ぐ。