「赤い雷……それがお前の術式か?」
「そうですよ! 撃ち合いでも負けません」
「ほう、ならば試してみよう」

 兄さんは背後の術式を再展開させる。
 しかもさっきより多い。
 言葉通りの撃ち合いをするつもりみたいだ。

「望むところだ」

 俺は腰をおとし、両手を地面につける。
 魔力エネルギー弾の雨に対抗するなら、これが一番だ。
 
 色源雷術藍雷――砲術!

 藍色の雷が地面に走り、横一列に大砲を生成する。
 生成された大砲は全部で十二。
 撃ち出されるのは、同じく藍雷で生成した雷の砲弾。

 いくぞ。
 一斉発射だ!

「雷雨!」

 砲弾が一斉に発射される。
 対する兄さんも、術式から紫のエネルギー弾を発射。
 互いの弾がぶつかり合い爆発し、中央でせめぎ合う。

「本当に止めるか」
「だから言ったでしょう?」
「ふっ、ではこれはどうかな?」

 一瞬で俺の頭上で何かが生まれる。
 見上げた空は青くとも、日の光は遮られ、空中には炎の球体が浮かぶ。
 
 炎魔術のメテオ!?
 いつの間に術を発動したんだ?

「落ちろ」
「チッ、赤雷!」

 俺は右手を上にかざし、赤雷で炎の球体を迎撃する。
 雷が走り破壊された球体は、バラバラになって地面に降り注ぐ。

「よく破壊した。だがいいのか? こちらに気を向けなくても」
「しまっ――」

 一瞬。
 ほんの僅かな隙をついて、兄さんは背後の術式を増やしていた。
 予想より多く放たれた分のエネルギー弾が、俺の砲弾をすり抜けて降り注ぐ。

「くっ……」

 エネルギー弾は弾けて地面を抉る。
 直撃こそしなかったが、一発頬を掠めていった。
 ダラーっと流れる血が口に入って、嫌な風味が広がる。
 
「運が良かったな」

 兄さんの言葉に、返す言葉もない。
 本当に運が良かった。
 あと少しずれていれば、顔面にエネルギー弾が直撃していただろう。
 やられはしないにしろ、相当なダメージは負っていたに違いない。

「今度は気を抜くな」
「言われなくても」

 そのつもりだ。
 今度はこっちから攻める。
 
「蒼雷!」

 蒼い稲妻を纏い、砲撃の雨の中を駆け抜ける。
 蒼雷で強化した肉体の速度は、光の速さにも匹敵する。
 速さ自慢の暗殺者ですら反応できなかった速度だ。
 いくら兄さんでも、完全に虚を突いただろう。
 俺はエネルギー弾を躱しつつ、兄さんの懐へもぐりこむ。

 捉えた!

「甘いな」
「っ――」
 
 消えた!?
 直後、視界の右端に兄さんの姿をとらえる。 
 すでに蹴りを繰り出す体勢だ。
 回避を試みる俺よりも一瞬早く、兄さんの蹴りが届く。
 俺は両腕をクロスしてガードしたが、強化された蹴りに吹き飛ばされてしまう。

「これも防御したか」
「……」

 見えなかった。
 俺のほうが速度は上だったはず。
 いや、今のが兄さんの――

「時間魔術」
「その通りだ。十年も会っていなかったのによく覚えているな」
「忘れるわけありませんよ」

 兄さんは俺より前に神童と呼ばれていた。
 その最大の理由が時間魔術に適性を持っていたこと。
 文字通り時間を操る魔術で、極めれば世界の時間を停止させられる。
 適応者はほとんとおらず、適応があっても扱えない者のほうが多いと言われる高等魔術。
 エメロード家でも数百年生まれてこなかった逸材。

「今のは、自分の時間を加速させたのか」
「正解だ」

 確か、時点術式という。
 自分自身の時間を加速させることで、高速での行動を可能にする。
 感覚的には自分だけが正常で、見ているもの全てがスローに見えるとか。
 あるのは知っていたが、まさか蒼雷を上回ってくるとはな。

「藍雷――弓!」

 藍色の弓矢を生成。
 四連射で兄さんを攻撃する。
 藍雷でも速度は十分光の速さに達するのだが、これも兄さんの術式が躱す。

「その程度の攻撃が当たると思っているのか?」
「思ってませんよ」

 と言いつつ攻撃を続ける。
 変わらず当たらないが、時間魔術を行使している間は、さっきみたいに複数の術式を展開できない。 
 攻撃し続けていれば、エネルギー弾の雨は止む。
 とは言え、このまま撃ち続けても当たらない。
 どうにか兄さんの虚をつくしかなさそう。

「なら――」

 色源雷術――緑雷!

 地面を力強く踏みしめ、緑の稲妻がわずかに走る。
 グレンとの戦いでは使えなかったが、この地形と兄さんが相手なら有効だ。

「貫け、砂刃!」

 兄さんの足元から黒い刃が突き上げる。
 咄嗟に避けた兄さんだったが、僅かに頬を掠めていた。

「くそっ、これも躱すのか」
「緑の雷は、砂鉄を操れるのか」

 早々に能力もバレたか。
 兄さんが口にした通り、緑雷の能力は砂鉄を操る強力な磁力。
 これで隙を突けたが、もう通じないだろうな。

「今度はこちらの番だ」

 パチンと指を鳴らす。
 次の瞬間、方陣術式が俺の四方を取り囲む。

「何――」
「穿て」

 四方から降り注ぐエネルギー弾。
 そうか。
 エネルギー弾の術式に時間魔術を組み合わせて、発動のタイミングをずらしたのか。
 すでに攻撃は放たれており回避は困難。
 
 最大出力――

「赤雷!」

 赤い稲妻を四方へ放つ。
 エネルギー弾を貫き、到達前に爆発させていく。
 ギリギリではあったが、エネルギー弾の相殺には成功したようだ。

「よく耐えたな」

 余裕の表情を見せる兄さん。
 俺は思わず笑ってしまう。 

 強いな。
 予想以上に?
 違う、俺は知っていたはずだ。
 兄さんが強いことを……十年以上前から――