待機時間を過ごし、夕食で再び全員が集まる。
 広々とした部屋に長テーブルが連なっていて、そこに百五十人が座っている。
 さすがに圧巻の光景だと思った。
 俺たちもそのうちの一テーブルを使い、夕食をとる。

「食事は魔力回復に良いし、たくさん食べないとな」
「うん! いっただきまーす!」

 シトネは何だか上機嫌だ。
 セリカとも親し気に話している様子を見れたし、いい関係を築けているようでほっとする。

「明日からは何するのかな~」
「例年通りであれば、本格的な訓練は次回からのはずですね」
「先生もそんなこと言ってたね。ってことは明日も鬼ごっこ?」
「あれは今日の一回限りだと思いますよ。準備運動としてなら、一番最初に行った森を一周を優先するでしょうし」
「えぇ~ あれは走るばっかりで面白くないよぉ」

 シトネがぐでーっとしながらそう言った。
 確かに、ただ走るだけも詰まらないのは事実だ。
 俺も準備運動と言うなら、鬼ごっこのほうが嬉しい。
 あれを準備運動と捉えるかは、先生たち次第になると思うけど。

 二人の会話を聞きながら、グレンが言う。

「いやしかし、あれも中々に刺激的だったと思うよ。特に湖と渓谷は渡るのに苦労させられたからね」
「そうですね。噂では、リンテンス様は水上を走っていたと聞きますが」
「えぇ! そうなの?」

 シトネの視線がこちらに向く。
 そんなに驚くようなことなのかと、俺は首を傾げた。
 そうして渓谷でのことを思い出す。

「渓谷か」
「どうかしたか?」
「いや、そういえば渓谷に面しろ……妙な痕跡があったんだよ」
「痕跡?」

 グレンが聞き返す。
 この様子だと、気づいたのは俺だけのようだ。

「でかいものが落下した跡と、引きずって動いた跡だったかな」
「そんなものがあったのか」
「全然気づかなかったよ」
「移動に集中していましたからね。リンテンス様と違い、余裕はありませんでしたので」

 そうでなくても暗かったし、よく見ないとわからない。
 加えてそれの存在を知らなければ、痕跡を痕跡としてとらえられなかっただろう。
 二重の意味で仕方がないと言うと、グレンが尋ねてくる。

「それで何の痕跡だったんだ?」
「たぶんドラゴンだと思う」

 三秒。
 シーンと静まり返る。

「「「ドラゴン!?」」」
「うおっ、ビックリしたなぁ」

 突然の大声で身体がのけぞる。
 他のクラスメイトたちも、急なことで驚いている様子。
 やれやれとジェスチャーする俺に、驚いたままのシトネが言う。

「驚いたのはこっちだよ! ドラゴン!?」
「本当なのか? リンテンス」
「ああ、うん。あれと同じ痕跡を、前にドラゴンの巣で見たことがあるからな」

 大きく太い尻尾を引きずったような跡もあった。
 巨体と尻尾の跡を残し、渓谷となればドラゴンの可能性が一番高い。
 話によれば、ここは昔ドラゴンの生息地だったらしいし、いても不思議ではない……か?

「事実だとすれば大問題です」
「ああ。研修が中止されることもあるぞ」

 セリカとグレンが深刻な表情で言う。

「中止はさすがにいきすぎじゃないか?」
「何を言っているんだ。ドラゴンは一級災害指定のモンスターだ。それがいるとわかっているのに、研修を続けるのはリスクが高すぎる」
「一級災害指定……そういえばそうだったな」

 世界中に存在するモンスター。
 その種類は年々増え続け、現在五百を超えているらしい。
 等級別災害指定は、大きさ、強さ、繁殖能力などを基準として、どれだけの脅威があるかを分類するもの。
 一級災害指定は、一匹でもいれば都市が半壊する可能性が高いことを示している。
 ドラゴンは強力な存在だ。
 年が経つにつれ数も減ってきたが、その脅威は薄れていないと聞く。

「いや、でも大丈夫だと思うぞ? いても一匹だし」
「それは君の基準だろう? 判断するのは先生たちだ。あとで報告しに行こう」
「まぁ、そうだな」

 正直、ちょっとガッカリしている自分がいる。
 ドラゴンは久しく戦っていないし、強敵だから訓練相手にもピッタリだ。
 あわよくばと言う期待もあったから、その分もきているな。

 その後、俺とグレンで先生に報告をした。
 結論だけ先に言うと、研修は続行することになった。
 この周辺に関しては、常に数名の監視がいる。
 研修前から観察されているが、ドラゴンらしき影はなかったそうだ。
 痕跡も最近のものではないという判断となった。
 
「中止は免れたか」
「みたいだな」

 グレンも納得している様子。
 確かに監視がいて、見ていないとなれば安全と判断できなくはない。
 ただ、俺は密かに思っていた。
 あの痕跡は、少なくとも戦いがあったという時代に出来たものではなかった。
 もしかすると、何か起ころうとしているのかもしれない……と。