翌日から普通に授業を受ける。
 基本的には座学で、基礎と歴史の続きだ。
 ハッキリ言ってつまらない。
 というのは、俺以外も思っているに違いない。
 歴史はさておき、基礎が重要だと理解していても、すでに熟知している身としては退屈だ。

「魔術の基本は魔力コントロールだ。ここを勘違いする魔術師は大成しないからな」

 と、先生が熱弁している。
 師匠から散々教えられたことだ。
 今さらはき違えることはない。

「ふぁ~」

 失礼だとわかっていても、無意識に欠伸が出てしまう。
 対してシトネたちは熱心だな。
 先生の話を聞きながら、ちゃんとメモをとっている。
 三人ともこれくらいの内容なら、とっくに熟知しているだろうに。

「真面目だな~」
「あれ? リンテンス君はメモとらないの?」
「俺もちゃんと聞いてるよ。知らない内容だったらメモするけど」
「そうなの? 私は一応メモだけしているけど」
「知ってることはいらないんじゃないか?」
「う~ん、そうなのかな~」

 と二人で話していると、それに気づいた先生がこちらを向く。

「そこの二人! 私語は慎みなさい!」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
「すみません。気を付けます」
「やれやれ」

 シトネはびくりと反応して、慌てて頭を下げていた。
 隣でグレンは、俺たちを呆れた顔で見ている。
 退屈な授業には良い刺激になったかな。

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 午前中の授業が終わり、昼休憩の時間になる。
 生徒たちはパラパラと歩き出し、教室を出て行った。

「俺たちも食堂にいくか」
「うん!」

 俺とシトネ、グレンとセリカも一緒に一階の食堂へ向かう。
 昼食はここで食べる決まりになっていて、厨房ではせっせと料理を作っている。
 メニューから何か注文する生徒もいれば、自分で作ってくる生徒もいて、こういう場所でも個性が出るな。
 ちなみに俺とシトネは……
 
「ほい、シトネの分」
「ありがとう!」

 俺はお弁当をシトネに手渡した。
 手作りの弁当を開けて、一緒に手を合わせて「いただきます」を言う。
 さぁ食べようと口を開いたとき、目の前から視線を感じる。

「何だよ」
「いや凄いな。弁当まで自分で作っているのか。それもシトネさんの分まで」
「まぁな」

 一人暮らしの影響か、料理は日課になってしまった。
 そんなに嫌いじゃないし、苦にはならない。
 むしろシトネが美味しそうに食べてくれるから、毎日張り切ってしまうことも。

「とーっても美味しいんだよ!」
「ああ。前にいただいた昼食も良かったな。料理も出来るなんて憧れるよ」
「よしてくれ」

 料理を覚えた経緯を考えたら、とても褒められることじゃないからな。
 仕方なくというのが正解だ。

「そうだ! 今度僕たちの分も作ってきてくれないかい?」
「え、嫌だけど」
「うっ……即答とは」

 だって面倒だし。
 という本音は口にせず、黙ってパクパク食事を続ける。
 すると、グレンは悪戯をしかける子供ようのに笑い、俺を見ながら言う。

「そうか、なるほど……シトネさん以外に自分の弁当は作らない、ということだね」
「は? 何言って」
「いや良い、わかっているさ。彼女は特別なんだね」
「っ! ごほっ……」

 シトネがビックリしてむせてしまった。
 グレンがそんな冗談を言うなんて。
 まるで師匠みたいだと思って、俺は呆れ顔をする。

「やれやれ。というか、お前はセリカに作ってもらえば良いだろ」
「ん、あーそうだね。でもセリカも忙しいから、余計な仕事を増やすのは忍びないな」

 俺ならいいのか?
 グレンの奴、中々良い性格しているな。
 ちょっとずつ素が出てきたらしい。

「心配いりません。グレン様がお望みであれば、昼食は私が用意いたします」
「本当かい? じゃあ明日は頼むよ」
「かしこまりました」

 淡々と会話を進める二人。
 もっと慌てたり、恥ずかしがることを期待したのだが……
 からかうつもりで失敗したようだ。

「あーそうだ。来週から実技訓練が始まるそうだけど、チームはどうする?」
「チーム?」
「何だ? もしかして聞いていなかったのかい?」

 朧げに覚えているような……いないような。
 グレンに言われて思い出そうとしているが、ピンとこない。
 そんな俺に呆れたグレンが、ため息交じりに説明する。

「実技訓練は三人以上のチームで受ける決まりだ。来週までに各々でチームを組むよう言われていただろう?」
「そうだったけ? シトネは知ってた?」
「うん」
「あ、そう……」

 普通に聞き漏らしたな。

「魔術師はチームで行動することが多いからね。その一環だろう」
「それは知ってる」

 魔術師団の任務でもそうだった。
 単独で任務にあたるのは、魔術師でもごく一部。
 それこそ師匠のような人だけだ。

「で、どうする?」
「この四人で良いんじゃないか?」
「最大五人だけど、一人は追加しなくていいかな?」
「必要ない。ここにいる四人で十分最強のチームだろ」
「ははっ、確かにね」

 グレンはたぶん、わかっていて尋ねたのだろう。
 俺に直接確認して、口で言わせるために。
 本当に良い性格しているよ。