熱い握手を交わした俺とグレン。
 そこへシトネが駆け寄ってきて、心配そうに言う。

「リンテンス君! 大丈夫? 怪我とかしてない?」
「大丈夫だ。それより、グレンの傷を治してもらえるか?」
「え、あ、うん!」
「助かるよ。僕とセリカは治癒術が使えなくてね」

 シトネが治癒術式を発動させ、グレンの傷を癒す。
 その間に、セリカも俺たちのところまで近寄ってきていた。

「これで治りましたよ」
「ありがとう、シトネさん」

 グレンがお礼を口にすると、シトネは照れて笑う。
 目をそらして照れ隠しをしても、素直な尻尾で丸わかりだ。
 
「お疲れさまでした。グレン様」
「すまないセリカ、負けてしまった。不甲斐ないところを見せてしまったね」
「いいえ、グレン様はいつでも凛々しく勇ましいです」
「負けた僕にそう言ってくれるのは君くらいだよ。次は勝つ」
「はい。信じております」

 グレンとセリカは互いに顔を見合いながら微笑む。
 この二人の関係は、単なる主従だけに収まらないような気がする。

「さて、いつまでもここを占領していては他の生徒たちの迷惑だな」
「そうだな。俺たちも早く帰らないと、お腹を空かせた師匠に文句を言われそうだ」

 持っている時計を確認すると、帰ると言った時間はとうに過ぎている。
 師匠のことだから、千里眼で見て気付いているかもしれないけど、後から駄々をこねられると面倒だ。
 とか考えていると、グレンがぼそりと口にする。

「師匠……君の師匠はどんな人なんだい?」
「ん?」
「いや、少し気になってね。君をここまで鍛え上げた人だろ?」
「ああ、そういうことか。なら今から会ってみるか?」
「いいのかい?」
「ああ。時間があればだけど」
「ぜひ頼むよ! この後は丁度予定が空いているからね」
「決まりだな」

 そういう話の流れで、グレンがうちへ来ることになった。
 もちろんセリカも一緒だ。
 道中、誰なのかと聞かれたけど、会えばわかると回答を濁しておいた。
 二人が師匠に会ってどんなリアクションをするのか楽しみだな。

 そして――

 屋敷に到着し、玄関の扉を開ける。

「ただいま戻りました」
「その声は!」

 奥の部屋から師匠の声が聞こえた。
 ドンドンと走る音が近寄ってきて、師匠が颯爽と姿を現す。

「遅いじゃないか~ まったく君は、空腹の師匠を忘れてどこで遊んでいたんだい?」
「あ、貴方は……アルフォース様?」
「ん、おや? 君はボルフステン家の子かな」
「は、はい! グレン・ボルフステンです」
「何だ、二人とも面識はあったのか」

 いや、名門の生まれと聖域者の師匠だ。
 一度くらい会っていても不思議じゃないか。

「あ、ああ、お会いするのは二度目だが……まさか君の師匠というのは」
「そう。目の前にいるこの人だ」
「なっ……」
「おぉ~ いい反応だね~ いかにも! リンテンスは僕の弟子だ」

 グレンは驚いて、口を大きく開けたまま固まっていた。
 ナイスなリアクションに大満足の師匠は、一時的に空腹も忘れている。
 すぐに思い出して、早く昼食を用意してくれと駄々をこね始めたから、俺は急いで準備をして、料理をテーブルに並べる。
 グレンとセリカも同席することになって、五人で一つのテーブルを囲む。

「いやーめでたいね~ まさかリンテンスが、初日から友人を連れてくるなんて。嬉しくて涙が出てくるよ」
「そういうわざとらしい芝居は止めてくださいよ、師匠」
「いやいや、嬉しいのは本当さ。君はてっきり、シトネちゃん以外と仲良くする気はないと思っていたからね」
「えっ」

 シトネがピクリと反応する。

「俺も最初はそのつもりでしたよ」
「へっ?」
「そうかそうか。だそうだよシトネちゃん? 君は特別らしい」
「えっ、あ……はぃ」

 シトネは恥ずかしそうに頬を赤らめて下を向く。
 無意識にからかうネタを与えてしまったようだ。
 俺も後から恥ずかしくなって、ちょっと気まずい雰囲気になる。
 それを壊す様に、グレンが言う。

「しかし驚いたな。まさかアルフォース様が君の師匠とは……道理で強いわけだ」
「はっはっはっ、自慢の弟子だよ。君も一度戦ってみると良い」
「もう戦いました」
「なっ、そうなのかい?」

 師匠が驚きながら俺に視線で確認を求めてくる。
 俺が頷くと、ガーンと落ち込んだ様子で頭に手をあてて言う。

「しまった……僕としたことが、そんな面白そうな場面を見逃すとは……」

 落ち込む師匠。
 意外だな。
 てっきり師匠なら、常に盗み見していると思ったのに。
 何かほかに見るものでもあったのか?

 と言う感じて初日は過ぎ、俺たちは翌日を迎える。
 ちなみに、俺とシトネが一緒に暮らしている点は、二人とも何も言わないでくれた。