俺の怒りが爆発する寸前。
グレンの言葉が引き留め、全員の視線が彼に集まる。
「根拠もなしに人を馬鹿にするなんて、良くないとは思わないのかな?」
「い、いやその……」
「ここは魔術学校だ。生まれも育ちも関係なく、魔術師としても力量が物差しになる。彼らは自らの力でその席を勝ち取り、ここにいる。そもそも、あの試験で不正が出来ると思っているのかな?」
グレンの言葉に、全員が黙り込む。
彼の言っていることは正しくて、何も言い返せない。
加えて彼は主席であり、名門の生まれだ。
社会的地位も高い。
そんな彼が言うからこそ、皆も納得せざるを得ないだろう。
俺が同じことを言っても、くだらないと一蹴されて終わるだろうな。
お陰様で、俺も一先ず落ち着けた。
シトネもホッとしたように胸をなでおろしているのがわかる。
「だが、まぁ……君たちの気持ちもわからなくはない」
グレンには感謝しないとな。
そう思ったが、話はそこで終わらなかった。
彼は俺を睨むように見つめながら、続けて言う。
「彼が一属性しか使えない魔術師と言うのは事実なのだろうね。そんな彼が特待クラス……しかも次席だ。信じられないと目を疑う者もいて当然」
「そ、そうだ!」
「一属性だけで試験を通っただけでもおかしいだろ」
水を得た魚のように、静かだった彼らは騒ぎ出す。
どういうつもりだ?
さっきまで俺たちのことを擁護していた癖に、手のひら返しで批判か。
結局こいつも、他の奴らと同じなのか。
ふと、握手を求められたときの彼が思い浮かぶ。
あの表情、言葉に嘘はなかった。
少なくとも俺はそう感じた。
「まぁ待ってくれ。リンテンス君、よければ僕と模擬戦闘をしてくれないかな?」
「は?」
「午後から自由だろう? 訓練室は学生なら自由に使って良いそうだし、僕と勝負してみないか? 親睦もかねてだ。みんなにも見てもらおう」
グレンは平然とした顔で淡々と告げる。
こいつ……本当に何を考えているんだ?
クラスメイトの前で俺をぼこぼこにして、自分の地位を確かなものにでもしようって算段か?
いや、それにしてはやり方が強引すぎるな。
「お断りだよ。何でお前と」
「そうかい?」
「逃げるなよ!」
「はっ、どうせ実力は大したことないんだろ? 次席になったのもまぐれだな」
教室中にヤジが飛び交う。
強い後ろ盾を得た途端にこれだ。
虎の威を借りる狐という言葉を師匠から教えてもらったが、まさに今の光景だな。
こっちの狐は可愛くて、素直で努力家なのに。
「ほら、みんなもこう言っているよ? いいのかい? このまま嘗められたままで」
「……何を考えている?」
「それは戦えばわかるよ」
俺とグレンは睨み合う。
今の所、こいつが何を考えているのかさっぱりだ。
ただ……そうだな。
嘗められっぱなし、馬鹿にされ続けるのも嫌なのは確かだ。
「いいだろう。受けて立つ」
「うん、決まりだね」
グレンの意図は不明のまま、俺たちはゾロゾロと訓練室に足を運んだ。
各クラスの教室は、二階が一年生、三階が二年生、四階が三年生と順に高くなっていく。
訓練室は最上階の五階に設けられていた。
専用の移動魔道設備を使えば、階段を昇らなくても五回にすぐ上がれる。
最先端の魔道具技術が結集された校舎だ。
できればもっとじっくり見て回りたかったな。
「ここが訓練場か」
「今は殺風景だが、設定をいじれば景色を変えられるよ」
真四角の部屋だ。
正方形の白いタイルが綺麗に並んだ壁と天井。
魔力が流れていて、かなりの頑丈さを誇っていると聞く。
また、仮に破壊されても自己修復するとか。
「城の壁に使われている技術と同じだ。ここならいくら暴れても問題ない」
「そうらしいな」
俺とグレンは向かい合い、距離を取る。
クラスメイトたちは離れた場所から俺たちを見ていて、グレンの横にはセリカが、俺の横にはシトネがいる。
「リンテンス君、良かったの?」
「ん? まぁ仕方ないだろ。あのまま無視してたら、後からずっとネチネチ言われ続けるし」
「でも……」
「俺だけじゃなくて、シトネのことも馬鹿にされたしな。普通に腹が立った」
俺が素直にそう言うと、シトネはちょっぴり嬉しそうに頬が緩む。
ただ、すぐに心配そうな表情に戻ってしまう。
「それともシトネは、俺が負けると思ってるのか?」
「ううん、思わない」
「ならしっかり見ていてくれ」
「うん!」
シトネは尻尾をふり、クラスメイトたちとは反対側へ離れていく。
セリカもシトネと同じ方へ歩いていき、二人が並んでこちらを向いた。
「準備は出来たようだね」
「ああ」
俺とグレンは声が届く距離まで近づき、向かい合う。
いつの間にか、彼は腰に剣を携えていた。
「では始めようか?」
「ああ……なぁグレン、この戦いに何の意味があるんだ?」
「さっきも言ったよ? 戦えばわかるってね」
「そうかい」
答える気はないらしい。
「ただ、一つだけ教えておこう」
「何だ?」
「僕は君と本気で戦ってみたいと思っていたんだ」
そう言って、グレンは右手を前にかざす。
なるほど、それは本音っぽいな。
ならば俺も、本音で答えよう。
「奇遇だな? 俺もだよ」
俺も同じように右手を前にかざす。
互いに笑みを浮かべた直後、戦いの火ぶたは落とされる。
「――赤雷」
「真紅!」
赤い稲妻と紅蓮の炎。
二つの赤がぶつかり合い、はじけ飛ぶ。
グレンの言葉が引き留め、全員の視線が彼に集まる。
「根拠もなしに人を馬鹿にするなんて、良くないとは思わないのかな?」
「い、いやその……」
「ここは魔術学校だ。生まれも育ちも関係なく、魔術師としても力量が物差しになる。彼らは自らの力でその席を勝ち取り、ここにいる。そもそも、あの試験で不正が出来ると思っているのかな?」
グレンの言葉に、全員が黙り込む。
彼の言っていることは正しくて、何も言い返せない。
加えて彼は主席であり、名門の生まれだ。
社会的地位も高い。
そんな彼が言うからこそ、皆も納得せざるを得ないだろう。
俺が同じことを言っても、くだらないと一蹴されて終わるだろうな。
お陰様で、俺も一先ず落ち着けた。
シトネもホッとしたように胸をなでおろしているのがわかる。
「だが、まぁ……君たちの気持ちもわからなくはない」
グレンには感謝しないとな。
そう思ったが、話はそこで終わらなかった。
彼は俺を睨むように見つめながら、続けて言う。
「彼が一属性しか使えない魔術師と言うのは事実なのだろうね。そんな彼が特待クラス……しかも次席だ。信じられないと目を疑う者もいて当然」
「そ、そうだ!」
「一属性だけで試験を通っただけでもおかしいだろ」
水を得た魚のように、静かだった彼らは騒ぎ出す。
どういうつもりだ?
さっきまで俺たちのことを擁護していた癖に、手のひら返しで批判か。
結局こいつも、他の奴らと同じなのか。
ふと、握手を求められたときの彼が思い浮かぶ。
あの表情、言葉に嘘はなかった。
少なくとも俺はそう感じた。
「まぁ待ってくれ。リンテンス君、よければ僕と模擬戦闘をしてくれないかな?」
「は?」
「午後から自由だろう? 訓練室は学生なら自由に使って良いそうだし、僕と勝負してみないか? 親睦もかねてだ。みんなにも見てもらおう」
グレンは平然とした顔で淡々と告げる。
こいつ……本当に何を考えているんだ?
クラスメイトの前で俺をぼこぼこにして、自分の地位を確かなものにでもしようって算段か?
いや、それにしてはやり方が強引すぎるな。
「お断りだよ。何でお前と」
「そうかい?」
「逃げるなよ!」
「はっ、どうせ実力は大したことないんだろ? 次席になったのもまぐれだな」
教室中にヤジが飛び交う。
強い後ろ盾を得た途端にこれだ。
虎の威を借りる狐という言葉を師匠から教えてもらったが、まさに今の光景だな。
こっちの狐は可愛くて、素直で努力家なのに。
「ほら、みんなもこう言っているよ? いいのかい? このまま嘗められたままで」
「……何を考えている?」
「それは戦えばわかるよ」
俺とグレンは睨み合う。
今の所、こいつが何を考えているのかさっぱりだ。
ただ……そうだな。
嘗められっぱなし、馬鹿にされ続けるのも嫌なのは確かだ。
「いいだろう。受けて立つ」
「うん、決まりだね」
グレンの意図は不明のまま、俺たちはゾロゾロと訓練室に足を運んだ。
各クラスの教室は、二階が一年生、三階が二年生、四階が三年生と順に高くなっていく。
訓練室は最上階の五階に設けられていた。
専用の移動魔道設備を使えば、階段を昇らなくても五回にすぐ上がれる。
最先端の魔道具技術が結集された校舎だ。
できればもっとじっくり見て回りたかったな。
「ここが訓練場か」
「今は殺風景だが、設定をいじれば景色を変えられるよ」
真四角の部屋だ。
正方形の白いタイルが綺麗に並んだ壁と天井。
魔力が流れていて、かなりの頑丈さを誇っていると聞く。
また、仮に破壊されても自己修復するとか。
「城の壁に使われている技術と同じだ。ここならいくら暴れても問題ない」
「そうらしいな」
俺とグレンは向かい合い、距離を取る。
クラスメイトたちは離れた場所から俺たちを見ていて、グレンの横にはセリカが、俺の横にはシトネがいる。
「リンテンス君、良かったの?」
「ん? まぁ仕方ないだろ。あのまま無視してたら、後からずっとネチネチ言われ続けるし」
「でも……」
「俺だけじゃなくて、シトネのことも馬鹿にされたしな。普通に腹が立った」
俺が素直にそう言うと、シトネはちょっぴり嬉しそうに頬が緩む。
ただ、すぐに心配そうな表情に戻ってしまう。
「それともシトネは、俺が負けると思ってるのか?」
「ううん、思わない」
「ならしっかり見ていてくれ」
「うん!」
シトネは尻尾をふり、クラスメイトたちとは反対側へ離れていく。
セリカもシトネと同じ方へ歩いていき、二人が並んでこちらを向いた。
「準備は出来たようだね」
「ああ」
俺とグレンは声が届く距離まで近づき、向かい合う。
いつの間にか、彼は腰に剣を携えていた。
「では始めようか?」
「ああ……なぁグレン、この戦いに何の意味があるんだ?」
「さっきも言ったよ? 戦えばわかるってね」
「そうかい」
答える気はないらしい。
「ただ、一つだけ教えておこう」
「何だ?」
「僕は君と本気で戦ってみたいと思っていたんだ」
そう言って、グレンは右手を前にかざす。
なるほど、それは本音っぽいな。
ならば俺も、本音で答えよう。
「奇遇だな? 俺もだよ」
俺も同じように右手を前にかざす。
互いに笑みを浮かべた直後、戦いの火ぶたは落とされる。
「――赤雷」
「真紅!」
赤い稲妻と紅蓮の炎。
二つの赤がぶつかり合い、はじけ飛ぶ。