俺とシトネは屋敷を出て、魔術学校に向った。
もうすぐ正午になる。
少し出遅れたから、張り出される校舎前は混雑しているだろうな。
「緊張してるのか?」
「う、うん。昨日は平気だったんだけど、いざってなるとやっぱりね。リンテンス君は相変わらず余裕そうで凄いな~」
「俺の心配は、受かってることより順位だからな」
願わくば首席で合格していたい。
不安があるとすればその一点に限る。
俺たちは学校前に着くまで、他愛のない話をしながら歩いた。
緊張と不安を誤魔化すように。
そうして、学校の敷地内へと入る。
予想通りの大混雑で、発表される掲示板前は特にひどい。
人混みが続いていて、近づくのも難しそうだ。
「み、見えないよ~」
「ちょっと待つか」
しばらく待って、徐々に人が減っていく。
帰っていく大半が、結果を見て落ち込んでいる受験者ばかりだ。
合格していた者たちは、飛び跳ねたり騒いだりして、楽しそうに話している。
「いよいよだね」
「ああ」
道が出来て、俺たちは掲示板へ近づく。
一歩進むたびにシトネが緊張して、それがこっちにも伝わってくるようだ。
俺たちは恐る恐る顔を上げる。
そして――
「「あった!」」
お互いの名前を見つけて、思わず声に出していた。
まったく同じタイミングで見つけて、二人で顔を見合う。
シトネは嬉しそうな顔をして、瞳は涙で潤んでいる。
「や、や……やったよぁ」
「ちょっ、シトネ?」
そのまま感極まって、彼女は俺に抱き着いてきた。
まだ大勢の人が周りにいる状況で、さすがの俺もどう反応して良いのか困る。
でも、尻尾をふりふりさせているのを見て、俺は小さく微笑む。
この日にかけた想いが、彼女の表情や声から溢れている。
「おめでとう」
だから、彼女の頭を優しく撫でた。
昨日の話を思い出して、きっとたくさんの苦労があったのだろうと予想できる。
「お互いこれからだな」
「うん!」
入学はスタートラインでしかない。
それでも、今は喜びに浸ってもいいじゃないか。
少し経って、落ち着いたシトネ。
改めて掲示板を見る。
俺の名前は、合格者の上から二番目に書かれていた。
「凄いよリンテンス君! 次席だよ!」
「ああ、いや、首席狙いだったんだけどな」
何となく予想はしていたよ。
筆記、実戦ともに高い成績を収めた自負はある。
ただ俺の場合、適性を測る実技試験は厳しかった。
あそこで大きく減点があったのだろう。
「主席は……グレン・ボルフステン」
ボルフステン家か。
確か、エメロード家に並ぶ魔術師の名門貴族。
一世代前の聖域者にも、ボルフステン家の出身者がいたな。
なるほど、あの家の出身が参加していたのなら、主席になるのも頷ける。
どんな奴なのか気になるな。
「次席でもすごいよ!」
「はははっ、そういうシトネだって上から数えたほうが早いじゃないか」
「えっへへ~ ありがとう」
シトネは七番目の成績だったらしい。
お互いこれで、特待クラスへ所属できることは決まった。
聖域者になるための第一歩は、これで果たされたようだ。
余韻を感じつつ、俺たちは校外へと出る。
シトネは一度村に戻って、荷物の整理をしてから王都に帰って来るそうだ。
「途中まで送るよ」
「ううん、そこまでしてもらわなくても大丈夫だよ」
「今さら遠慮しなくて良い。このまま帰ったら、どうせ師匠に色々言われるからな」
男としてちゃんと見送らないと駄目じゃないか!
まったく君は……これだからモテないんだぞ?
とか言われること間違いなし。
想像しただけでムカつくから、今日の夕飯は野菜ばっかりにしようかな。
「そう? じゃあお言葉に甘えるね」
「ああ」
それから王都の外まで一緒に行って、適当な馬車を借りた。
運転はしたことがあるというし、引っ越しなら荷物も多いだろうからな。
それとお互い名残惜しかったのか、普段より歩くペースも遅い。
気が付けば夕方になっていて、慌ててシトネは馬車に乗り、王都を出発した。
「気を付けてなー!」
「うん! また後でねー!」
互いに手を振り別れる。
また後でという言葉が、これほど待ち遠しいと感じたのは、生まれて初めてかもしれないな。
さて、彼女が戻ってくるまでにやることは多いぞ。
屋敷の掃除は絶対だし、生活用品も一人分追加しないとな。
「いや……その前に一番の厄介事を済ませるか」
俺はそう呟いて帰路につく。
あえて、普段なら絶対に通らない道を進む。
人通りが少なく、大きな声で叫んでも、周囲の建物に反射して空に響くだけ。
仮に事件が起こるなら、こういう場所なのだろうと思う。
そう、だから――
暗殺するなら打ってつけのタイミングだ。
「――!?」
風を斬り裂く音が聞こえる。
トンと地面に着地して、彼らは驚愕していた。
そこには誰もいない。
刃を振るった相手は、いつの間にか姿を消していた。
「やはり暗殺者……それも三人か」
彼らは声の主に気付いて振り返る。
その視線の先に立つ俺は、ポケットに手を入れて余裕を見せる。
暗殺者の一人が呟く。
「青い雷?」
「ん? あーそうか、そういえばあいつには赤いほうしか見せてなかったな」
暗殺者がわずかに反応を見せる。
わかっていたことだが、彼らの雇い主が確定した。
もうすぐ正午になる。
少し出遅れたから、張り出される校舎前は混雑しているだろうな。
「緊張してるのか?」
「う、うん。昨日は平気だったんだけど、いざってなるとやっぱりね。リンテンス君は相変わらず余裕そうで凄いな~」
「俺の心配は、受かってることより順位だからな」
願わくば首席で合格していたい。
不安があるとすればその一点に限る。
俺たちは学校前に着くまで、他愛のない話をしながら歩いた。
緊張と不安を誤魔化すように。
そうして、学校の敷地内へと入る。
予想通りの大混雑で、発表される掲示板前は特にひどい。
人混みが続いていて、近づくのも難しそうだ。
「み、見えないよ~」
「ちょっと待つか」
しばらく待って、徐々に人が減っていく。
帰っていく大半が、結果を見て落ち込んでいる受験者ばかりだ。
合格していた者たちは、飛び跳ねたり騒いだりして、楽しそうに話している。
「いよいよだね」
「ああ」
道が出来て、俺たちは掲示板へ近づく。
一歩進むたびにシトネが緊張して、それがこっちにも伝わってくるようだ。
俺たちは恐る恐る顔を上げる。
そして――
「「あった!」」
お互いの名前を見つけて、思わず声に出していた。
まったく同じタイミングで見つけて、二人で顔を見合う。
シトネは嬉しそうな顔をして、瞳は涙で潤んでいる。
「や、や……やったよぁ」
「ちょっ、シトネ?」
そのまま感極まって、彼女は俺に抱き着いてきた。
まだ大勢の人が周りにいる状況で、さすがの俺もどう反応して良いのか困る。
でも、尻尾をふりふりさせているのを見て、俺は小さく微笑む。
この日にかけた想いが、彼女の表情や声から溢れている。
「おめでとう」
だから、彼女の頭を優しく撫でた。
昨日の話を思い出して、きっとたくさんの苦労があったのだろうと予想できる。
「お互いこれからだな」
「うん!」
入学はスタートラインでしかない。
それでも、今は喜びに浸ってもいいじゃないか。
少し経って、落ち着いたシトネ。
改めて掲示板を見る。
俺の名前は、合格者の上から二番目に書かれていた。
「凄いよリンテンス君! 次席だよ!」
「ああ、いや、首席狙いだったんだけどな」
何となく予想はしていたよ。
筆記、実戦ともに高い成績を収めた自負はある。
ただ俺の場合、適性を測る実技試験は厳しかった。
あそこで大きく減点があったのだろう。
「主席は……グレン・ボルフステン」
ボルフステン家か。
確か、エメロード家に並ぶ魔術師の名門貴族。
一世代前の聖域者にも、ボルフステン家の出身者がいたな。
なるほど、あの家の出身が参加していたのなら、主席になるのも頷ける。
どんな奴なのか気になるな。
「次席でもすごいよ!」
「はははっ、そういうシトネだって上から数えたほうが早いじゃないか」
「えっへへ~ ありがとう」
シトネは七番目の成績だったらしい。
お互いこれで、特待クラスへ所属できることは決まった。
聖域者になるための第一歩は、これで果たされたようだ。
余韻を感じつつ、俺たちは校外へと出る。
シトネは一度村に戻って、荷物の整理をしてから王都に帰って来るそうだ。
「途中まで送るよ」
「ううん、そこまでしてもらわなくても大丈夫だよ」
「今さら遠慮しなくて良い。このまま帰ったら、どうせ師匠に色々言われるからな」
男としてちゃんと見送らないと駄目じゃないか!
まったく君は……これだからモテないんだぞ?
とか言われること間違いなし。
想像しただけでムカつくから、今日の夕飯は野菜ばっかりにしようかな。
「そう? じゃあお言葉に甘えるね」
「ああ」
それから王都の外まで一緒に行って、適当な馬車を借りた。
運転はしたことがあるというし、引っ越しなら荷物も多いだろうからな。
それとお互い名残惜しかったのか、普段より歩くペースも遅い。
気が付けば夕方になっていて、慌ててシトネは馬車に乗り、王都を出発した。
「気を付けてなー!」
「うん! また後でねー!」
互いに手を振り別れる。
また後でという言葉が、これほど待ち遠しいと感じたのは、生まれて初めてかもしれないな。
さて、彼女が戻ってくるまでにやることは多いぞ。
屋敷の掃除は絶対だし、生活用品も一人分追加しないとな。
「いや……その前に一番の厄介事を済ませるか」
俺はそう呟いて帰路につく。
あえて、普段なら絶対に通らない道を進む。
人通りが少なく、大きな声で叫んでも、周囲の建物に反射して空に響くだけ。
仮に事件が起こるなら、こういう場所なのだろうと思う。
そう、だから――
暗殺するなら打ってつけのタイミングだ。
「――!?」
風を斬り裂く音が聞こえる。
トンと地面に着地して、彼らは驚愕していた。
そこには誰もいない。
刃を振るった相手は、いつの間にか姿を消していた。
「やはり暗殺者……それも三人か」
彼らは声の主に気付いて振り返る。
その視線の先に立つ俺は、ポケットに手を入れて余裕を見せる。
暗殺者の一人が呟く。
「青い雷?」
「ん? あーそうか、そういえばあいつには赤いほうしか見せてなかったな」
暗殺者がわずかに反応を見せる。
わかっていたことだが、彼らの雇い主が確定した。