シトネは唖然としたまま棒立ちしている。
自己紹介でもしてもらうつもりだったが、どうやら難しそうだ。
と思っていたら、師匠も同じことを思ったようだ。
「リンテンス。僕にも彼女を紹介してもらえるかな?」
「はい。彼女はシトネ、俺と同じ魔術学校入学希望者です。森で朝練してるときに会ったんですが、中々の実力を持ってますよ」
「ほうほう、森で会ったのか。なるほど」
耳にとまったのはそっちですか。
何がなるほど、なのか気になるけど、とりあえずニヤニヤしながら俺を見るのを止めてほしいな。
すると、我に返ったシトネが、ピシッと気を付けをして師匠に言う。
「あ、あの! シトネです! 今日からお世話になります」
「ん? お世話?」
「あーえっと、実はですね――」
俺は師匠にことの経緯を説明した。
師匠は頷きながら聞いていて、最後まで説明すると、納得したように言う。
「そうかそうか、理解したよ」
「はい。そういうわけなので、合格発表まで泊めてあげたいんですが」
「もちろん僕は構わないよ。そもそもここの家主は君だし、僕だって居候みたいなものだからね」
「ありがとうございます!」
「お礼はリンテンスに言ってあげて」
「はい!」
シトネは元気よく返事をした。
話せるようにはなったけど、変わらずガチガチの態度だな。
まぁ無理もない。
俺だって、師匠と初めて会った時は驚いたし、あんな状況じゃなければシトネと同じ態度になっていただろう。
聖域者アルフォース・ギフトレン。
当代最高の魔術師と呼ばれ、魔術師であれば彼を知らぬ者はいない。
師匠が残した数々の伝説に、多くの魔術師たちが憧れ、目標となっている。
そんな伝説的な人物が……
「さぁさぁお食べ! 今日は僕のおごりだよ!」
「いや……作ったのは俺ですよ」
こんなにもあっけらかんとした笑顔で前にいたら、調子も狂うというものだ。
自己紹介を終えた後、俺は夕食の準備にとりかかった。
今は食堂に三人で、テーブルを囲んでいる。
「これ全部リンテンス君が作ったの?」
「ああ」
「凄いね。料理も出来ちゃうんだ」
「まぁ五年も一人暮らしをしていたら、嫌でも身につくよ」
今日は特別豪勢にしてみた。
シトネもいるし、試験の後だったからな。
疲れた身体と魔力を回復するのに、食事はとても重要だ。
「いただきまーす!」
シトネが料理を口に運ぶ。
師匠以外の人に料理を振舞うなんて初めてだから、妙に緊張してしまう。
シトネはパクリと食べて、俺はその反応に注目する。
「美味しい!」
と、ニコニコしながらシトネが言って、俺はほっとした気分になった。
料理には多少の自信があったけど、美味しいと言ってもらえるのは嬉しいな。
「とっても美味しいよリンテンス君!」
「ありがとう。口に合ったみたいで良かったよ」
「中々に絶品だろう? この屋敷にいれば、毎日この料理が食べられるんだ」
「最高ですね」
「うん間違いない。そこいらの高級宿屋にも負けないさ」
とか言いながら、シトネと師匠はパクパク料理を口に運ぶ。
さっきまで畏縮していたシトネも、すっかり調子を取り戻したようだ。
「何だか意外です」
「ん? 何がだい?」
「その……アルフォース様って、もっと怖い人なのかと思ってました」
「はっはっはっ、よく言われるよ」
そう言って笑う師匠。
王国に仇名す族を一人で壊滅させたり、湖に住む精霊と対話と言う名の戦闘を繰り広げ勝利したり、十日以上続く豪雨に苛立って空を切ったり。
師匠の伝説はすさまじいものばかりだ。
そこから連想される人物像は、豪胆にして英知の結晶。
神々しさすら感じられるようなイメージは、当の本人を見れば薄れるだろう。
「僕はみんなが想像するほど大した人間じゃないよ。ただ、他の人よりちょっとだけ魔術が得意なお兄さんだ」
「ちょっとで聖域者になれませんよ」
「はっはっはっ、なれてしまったのだから仕方がないさ」
飄々としていて、雲のように掴みどころのない人。
いや、舞い落ちる花弁のように、掴もうとしてもヒラリと躱される。
師匠はそんな感じの人だ。
「羨ましいな~ リンテンス君はアルフォース様に魔術を教えてもらってたんだよね」
「まぁね」
「おや? もしかして僕との修行に興味があるのかい?」
シトネの発言に師匠が食いついた。
「え、あ、はい!」
「だったら丁度良い。実は久々に、リンテンスに色々と指導しようと思っていたんだ。どうだい? せっかくだし君も混ざってみるかい?」
「本当ですか!? ぜひお願いします!」
シトネは即答した。
師匠はニコッと笑って言う。
「良い返事だ! じゃあさっそく明日から始めよう」
「お願いします!」
「本気か? シトネ」
「もちろんだよ! こんな機会滅多にないもん」
「まぁそうだけど……」
何となく予想できるが、彼女がその気なら無粋なことは言うまい。
翌日――
「じゃあ始めよう! まずは基礎のおさらいからだ」
「はい!」
と元気いっぱいに始めたシトネだったが……
その一時間後。
「はぁ……はぁ……うぅ、フラフラする」
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫……じゃないかも」
思った通りこうなったか。
普段から準備運動感覚でやっている魔力コントロールの練習。
今となっては慣れたけど、当初は俺もシトネみたいに体力切れを起こしていたな。
一旦休ませてあげたいけど……
「ほーら! いつまで休んでいるんだい? まだまだ序の口だよ」
スパルタな師匠は許してくれない。
俺はそれを知っているから、修行に混ざると言い出した時は反応に困った。
「さぁ張り切っていこうじゃないか!」
「ぅ……吐きそう」
「頑張れシトネ」
彼女もこれで、師匠の怖さを思い知ったことだろう。
自己紹介でもしてもらうつもりだったが、どうやら難しそうだ。
と思っていたら、師匠も同じことを思ったようだ。
「リンテンス。僕にも彼女を紹介してもらえるかな?」
「はい。彼女はシトネ、俺と同じ魔術学校入学希望者です。森で朝練してるときに会ったんですが、中々の実力を持ってますよ」
「ほうほう、森で会ったのか。なるほど」
耳にとまったのはそっちですか。
何がなるほど、なのか気になるけど、とりあえずニヤニヤしながら俺を見るのを止めてほしいな。
すると、我に返ったシトネが、ピシッと気を付けをして師匠に言う。
「あ、あの! シトネです! 今日からお世話になります」
「ん? お世話?」
「あーえっと、実はですね――」
俺は師匠にことの経緯を説明した。
師匠は頷きながら聞いていて、最後まで説明すると、納得したように言う。
「そうかそうか、理解したよ」
「はい。そういうわけなので、合格発表まで泊めてあげたいんですが」
「もちろん僕は構わないよ。そもそもここの家主は君だし、僕だって居候みたいなものだからね」
「ありがとうございます!」
「お礼はリンテンスに言ってあげて」
「はい!」
シトネは元気よく返事をした。
話せるようにはなったけど、変わらずガチガチの態度だな。
まぁ無理もない。
俺だって、師匠と初めて会った時は驚いたし、あんな状況じゃなければシトネと同じ態度になっていただろう。
聖域者アルフォース・ギフトレン。
当代最高の魔術師と呼ばれ、魔術師であれば彼を知らぬ者はいない。
師匠が残した数々の伝説に、多くの魔術師たちが憧れ、目標となっている。
そんな伝説的な人物が……
「さぁさぁお食べ! 今日は僕のおごりだよ!」
「いや……作ったのは俺ですよ」
こんなにもあっけらかんとした笑顔で前にいたら、調子も狂うというものだ。
自己紹介を終えた後、俺は夕食の準備にとりかかった。
今は食堂に三人で、テーブルを囲んでいる。
「これ全部リンテンス君が作ったの?」
「ああ」
「凄いね。料理も出来ちゃうんだ」
「まぁ五年も一人暮らしをしていたら、嫌でも身につくよ」
今日は特別豪勢にしてみた。
シトネもいるし、試験の後だったからな。
疲れた身体と魔力を回復するのに、食事はとても重要だ。
「いただきまーす!」
シトネが料理を口に運ぶ。
師匠以外の人に料理を振舞うなんて初めてだから、妙に緊張してしまう。
シトネはパクリと食べて、俺はその反応に注目する。
「美味しい!」
と、ニコニコしながらシトネが言って、俺はほっとした気分になった。
料理には多少の自信があったけど、美味しいと言ってもらえるのは嬉しいな。
「とっても美味しいよリンテンス君!」
「ありがとう。口に合ったみたいで良かったよ」
「中々に絶品だろう? この屋敷にいれば、毎日この料理が食べられるんだ」
「最高ですね」
「うん間違いない。そこいらの高級宿屋にも負けないさ」
とか言いながら、シトネと師匠はパクパク料理を口に運ぶ。
さっきまで畏縮していたシトネも、すっかり調子を取り戻したようだ。
「何だか意外です」
「ん? 何がだい?」
「その……アルフォース様って、もっと怖い人なのかと思ってました」
「はっはっはっ、よく言われるよ」
そう言って笑う師匠。
王国に仇名す族を一人で壊滅させたり、湖に住む精霊と対話と言う名の戦闘を繰り広げ勝利したり、十日以上続く豪雨に苛立って空を切ったり。
師匠の伝説はすさまじいものばかりだ。
そこから連想される人物像は、豪胆にして英知の結晶。
神々しさすら感じられるようなイメージは、当の本人を見れば薄れるだろう。
「僕はみんなが想像するほど大した人間じゃないよ。ただ、他の人よりちょっとだけ魔術が得意なお兄さんだ」
「ちょっとで聖域者になれませんよ」
「はっはっはっ、なれてしまったのだから仕方がないさ」
飄々としていて、雲のように掴みどころのない人。
いや、舞い落ちる花弁のように、掴もうとしてもヒラリと躱される。
師匠はそんな感じの人だ。
「羨ましいな~ リンテンス君はアルフォース様に魔術を教えてもらってたんだよね」
「まぁね」
「おや? もしかして僕との修行に興味があるのかい?」
シトネの発言に師匠が食いついた。
「え、あ、はい!」
「だったら丁度良い。実は久々に、リンテンスに色々と指導しようと思っていたんだ。どうだい? せっかくだし君も混ざってみるかい?」
「本当ですか!? ぜひお願いします!」
シトネは即答した。
師匠はニコッと笑って言う。
「良い返事だ! じゃあさっそく明日から始めよう」
「お願いします!」
「本気か? シトネ」
「もちろんだよ! こんな機会滅多にないもん」
「まぁそうだけど……」
何となく予想できるが、彼女がその気なら無粋なことは言うまい。
翌日――
「じゃあ始めよう! まずは基礎のおさらいからだ」
「はい!」
と元気いっぱいに始めたシトネだったが……
その一時間後。
「はぁ……はぁ……うぅ、フラフラする」
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫……じゃないかも」
思った通りこうなったか。
普段から準備運動感覚でやっている魔力コントロールの練習。
今となっては慣れたけど、当初は俺もシトネみたいに体力切れを起こしていたな。
一旦休ませてあげたいけど……
「ほーら! いつまで休んでいるんだい? まだまだ序の口だよ」
スパルタな師匠は許してくれない。
俺はそれを知っているから、修行に混ざると言い出した時は反応に困った。
「さぁ張り切っていこうじゃないか!」
「ぅ……吐きそう」
「頑張れシトネ」
彼女もこれで、師匠の怖さを思い知ったことだろう。