闘技場に向って歩く俺とシトネ。
 周囲の視線はあれど、今はもう気にしない。

「ごめんね、リンテンス君」
「何でシトネが謝る? 陰口を言ってたのはあいつらだぞ」
「でも……私が一緒にいた所為もあるし」
「はぁ、それを言うなら俺と一緒にいるシトネのほうが変な目で見られるぞ? 落ちこぼれなんかと一緒に歩いてるってな。嫌なら今からでも離れて歩くか?」
「嫌じゃないよ。リンテンス君が強くて優しい人だって、私は知っているから」

 そう言って、シトネは俺を見上げる。
 身長差の所為か、上目遣いでうっとりしているようにも見えて、思わずドキっとしてしまう。

「まぁ何であれ、俺たちのやることは変わらない」
「うん!」

 試験は三段階に分かれる。
 まず一つ、最初に行われる筆記試験。
 これは魔術に関する基礎や歴史をどれだけ理解し、記憶しているかを試される。
 続いて午前中から正午にかけて、実技試験が行われる。
 特別な装置によって魔力量を測定したり、魔術師としての適性やセンスを数値化される。
 この二つの試験はそこまで難しくない。
 大会で言えば予選と言っても良い。
 大変なのは午後に行われる実戦試験だ。

「リンテンス君!」
「シトネ、実技は終わったのか?」
「うん! そっちも?」
「見ての通りだ」

 お互いに二つの試験を終え、今は昼休憩の時間。
 実技試験と実践試験の間には、一時間の休憩が設けられている。
 その間に昼食をとり、午後に備えるというわけだ。

「シトネはどうだった?」
「う~ん、手ごたえはあったと思う。リンテンス君は?」
「俺は大丈夫だよ。実技はまぁあれだが、筆記は満点なんじゃないかな?」
「本当? すごいね!」
「たぶんだけどな」

 基礎は死ぬほど叩き込まれたし、歴史についても全部暗記している。
 これくらい出来て普通だと、師匠に煽られながら勉強した日々が懐かしいよ。

「残すは一つ……か」
「うん。午後の実戦試験だね」
「ああ。例年通りなら、全員を森に放って三分の一に残るまでサバイバルか」
「だと思うよ。いっちばん大変な試験って聞くよね」

 実戦試験の内容は毎年変わらない。
 闘技場の奥にある森へ入り、受験者全員での大乱闘。
 特性のブレスレッドを装着していて、それが破壊されたら脱落。
 三分の一に残るまで続け、最終的に何人を倒せたのか、どれだけ生き残れたかが評価される。
 ブレスレッド破壊という明確なターゲットはあるものの、毎年何人かは大けがをする危険な試験だ。

「頑張らなきゃ」
「ああ。それでさシトネ、俺から提案があるんだけど」
「ん?」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「予定時刻となりました。ただいまより最終試験を開始します」

 パンと森中に響き渡る音を合図に、受験者は一斉に森へ入る。
 いきなり乱戦にならないよう、スタート地点は十か所に分けられていた。
 さらに開始二分間は非戦闘時間として、戦うことは反則となる。

「ここの木って全部大きんだね」
「たぶん普通の木じゃないな」

 見た目は今朝いた森と同じだが、スケールが三倍違う。
 一本の長さが桁違いで、太さと葉の量も倍以上だ。
 詳しいことはわからないけど、魔術的な要素を盛り込んで育てられた木々なのだろう。

 さて、そんなことを言っている間に非戦闘時間は終わった。

「リンテンス君」
「ああ、途端にこれか」
 
 やれやれ。
 わかっていたことだが、清々しいほどクズだな。

「クククッ、また会ったな~ 落ちこぼれの元神童君。相変わらず二人仲良さそうだね」
「そっちは随分人が増えたな」

 木々の陰からゾロゾロと人が出てくる。
 ざっと確認しただけでも二十はいるか。
 俺たちをぐるっと取り囲み、逃げ場をなくしている。
 こういう状況になるのは、最初から予想できた。
 大勢で徒党を組んで挑むのは、実戦試験ではよくあることらしいからな。
 それでもシトネは苦い顔をして言う。
 
「卑怯者め」
「おいおい人聞きの悪いこと言うなよ。これはあくまで戦略だ。撃破数以前に三分の一に残ってないと話にならないからね。まず人数を集めるのは常識さ。そこの能無しじゃ考えが及ばなかったみたいだけど」

 ゲラゲラと笑うその他大勢。
 気品も何も感じられない下品な笑い方だ。

「まぁ卑怯かどうかは良いだろ。こっちも二人だからな」
「うっ……確かに」

 最初から知っていたから、俺もシトネに協力しようと提案した。
 他の受験者たちも、それぞれ徒党を組んでいる頃だろう。
 ルールにはのっていないし違反とはならない。
 しかしまぁ……

「二十か」
「ククッ、怖気づいたか? 今なら泣いて謝れば許してやっても――」
「少なすぎるだろ」
「……何だと?」

 男の顔が険しくなる。
 俺は大げさに両手を広げてジェスチャーしながら言う。

「少なすぎるって言ったんだよ。二十なんていないのと一緒だ」
「てめぇ……状況が理解できてないのか?」
「こっちのセリフだ。俺を倒したいなら、最低でも受験者の半数は連れて来ないと駄目だな」
「っ――余裕ぶっこけるのも今の内だぞ!」

 方陣術式が次々に展開される。
 狙いは当然、俺。
 ほぼすべての方向から一斉に発射されれば、逃げ場もない。
 
「リンテンス君……」
「大丈夫。俺の傍を離れないで」

 俺は右腕を高くあげ、人差し指を突き出す。
 さぁ開戦の狼煙をあげようか。
 四年半の修行の末に編み出した新術式のお披露目だ。
 師匠以外に見せるのは、これが初めてだが、とくと見せてやろう。

「終わりだ落ちこぼれが!」

 色源雷術(しきげんらいじゅつ)――

赤雷(せきらい)

 人差し指から四方に散る赤い稲妻。
 方陣術式を抉り破壊し、術者もろとも弾き飛ばす。
 地面には衝撃で大きな穴が点々と空き、敵意を向けていた二十人のうち十四名が、力なく地面に倒れ込む。

「ば、馬鹿な……」
「あれ? 全員やっつけたと思ったが、加減しすぎたか?」

 唖然とする男に、俺は不敵に笑う。