そして、その繰り返しの果てに、残り1分となったときだった。ふたつのチームの点数は僅差で、私たちのチームが1点だけ負けている状態になった。
「あと1点! 集中だよー」
「最後まであきらめないでー」
もちろん北見さんたちが盛り立て、逆転を決めようと最後の力を振り絞る。相手チームに3年の主力選手が出ていないのなんて関係ない。ただの練習試合だとしても、勝つ喜びを共有したい気持ちが、語気を強めていた。
 もう、時間がなかった。あと数秒で試合終了の笛がなるというとき。
「荘原さん! スリー!」
 根津さんから鋭角のパスがきて、私はボールを受け取った。ちょうど、スリーポイントシュートのラインにいた私は、その瞬間ドクンと心臓が跳ねる。そして、一瞬のはずなのに、ほぼ全員の応援の声が耳に入った気がした。
「シュート決めて!」
「お願い! 入れ!」
「逆転!」
 それらの言葉が耳に届くと同時に、記憶の奥からも懐かしい声がよみがえる。6年生まで一緒のバスケクラブチームだった、茉莉(まつり)ちゃんの声だ。
『あーあ、澪佳ちゃんのせいで、また負けた』
「…………」
 その声で、時間と空間が固まる。頭が真っ白になり、体温も奪われたような気がした。まったく……動けない。
「荘原さん!」
「……え?」
 ピーッと、笛の音が響いたことで、私は我に返る。手には、べっとりと糊でくっつけられたかのようにボールがおさまったままだった。
「あ……」
 私の斜め後ろから、そんな声が聞こえた。うちの1年生の声だ。
「はい! 1試合目終了。S高の勝ちです。集まって挨拶!」
 藍川先生が咥えていた笛を取り、試合をした計10人を集める。私は、頭が真っ白になったままだった。指からボールがするりと抜けて、ポンポンと2、3度バウンドして転がっていく。
「あ……」
 その途端、急に胸が苦しくなり、私はその場にうずくまった。息がうまく吐けない。吸うだけを短く繰り返し、息苦しさに涙目になる。
「え? 嘘? 大丈夫? 荘原さん」
「荘原マネ? どうしたの?」
「先輩? 大丈夫ですか?」
 チームの仲間の声が近付いてくる。そして、それが過去の記憶と混濁していく。
『澪佳ちゃん、大丈夫?』
『またー?』
『もしかして、嘘なんじゃない?』
『もう少しで勝てたのに』