しばらく押し黙っていた私は、「あの……」と言い淀んでから、また口を開きなおす。
「先輩と一緒です。短時間ならいいけど、試合とかってなると別っていうか。激しく動き続けたり、たくさん走ったりできないんです。発作が出るっていうか……過呼吸になることがあるので」
「発作? 持病持ちっていうこと?」
「……いえ、小学校のときに手術をして、もう完治はしてるんですけど」
先輩は普通に疑問を投げかけているだけなのだろうけれど、問い詰められているようで後ろめたい気持ちになる。わずかにかいていた汗が冷え、背筋が冷たい。
「よくわからない。どういう意味?」
「……私もわかりません。発作が出るたびに病院に行くんですけど、お医者さんもわからないって。健康体だし、なんの問題もないはずって毎回言われます」
「精神的なヤツ? 自分で心当たりとかあるの?」
質問が矢継ぎ早に飛んできて、ひるみそうになる。
「えっと……フラッシュバックのひとつっていうか、発作が出たときの息苦しさを思い出しちゃって、逆に発作を誘発させているのかもしれません。それが怖いし、みんなにも迷惑かけちゃうので、クラスマッチとか体育祭の団体競技も見学させてもらってます」
「へぇ……」
こういうふうにちゃんと説明したのは初めてだったから、少し声が上擦ってしまった。先生や友達には、“体が弱くて発作が出るから”と、おおまかにしか言っていなかったし、触れてはいけない話題のように思われているのか、深く追究してくる人もいなかった。
「てかさ、この前、あんたが犬の散歩してるとこ見たんだけど」
「え?」
「河川敷のあの長い一本道、けっこう走ってなかった?」
「…………」
見られていたんだということに驚き、そして言い当てられていることに動揺する。たしかにこの前の散歩のとき、モコに引っ張られ、早くはないものの、けっこうな距離を走った。そして、それはその日に限った話ではない。
私は、無意識にジャージのポケットに手を入れ、ハリネズミのストラップを探していた。部活中はいつも、バッグからジャージのポケットに移しているからだ。けれど、今日はバッグの中に入れたままで、手元にない。そのことで、いっそう胸の奥がザワザワと落ち着かなくなる。
「あぁ……ハハ、あのときは大丈夫で……」
「大丈夫なときと大丈夫じゃないときがあるってこと?」
「……たぶん」
「先輩と一緒です。短時間ならいいけど、試合とかってなると別っていうか。激しく動き続けたり、たくさん走ったりできないんです。発作が出るっていうか……過呼吸になることがあるので」
「発作? 持病持ちっていうこと?」
「……いえ、小学校のときに手術をして、もう完治はしてるんですけど」
先輩は普通に疑問を投げかけているだけなのだろうけれど、問い詰められているようで後ろめたい気持ちになる。わずかにかいていた汗が冷え、背筋が冷たい。
「よくわからない。どういう意味?」
「……私もわかりません。発作が出るたびに病院に行くんですけど、お医者さんもわからないって。健康体だし、なんの問題もないはずって毎回言われます」
「精神的なヤツ? 自分で心当たりとかあるの?」
質問が矢継ぎ早に飛んできて、ひるみそうになる。
「えっと……フラッシュバックのひとつっていうか、発作が出たときの息苦しさを思い出しちゃって、逆に発作を誘発させているのかもしれません。それが怖いし、みんなにも迷惑かけちゃうので、クラスマッチとか体育祭の団体競技も見学させてもらってます」
「へぇ……」
こういうふうにちゃんと説明したのは初めてだったから、少し声が上擦ってしまった。先生や友達には、“体が弱くて発作が出るから”と、おおまかにしか言っていなかったし、触れてはいけない話題のように思われているのか、深く追究してくる人もいなかった。
「てかさ、この前、あんたが犬の散歩してるとこ見たんだけど」
「え?」
「河川敷のあの長い一本道、けっこう走ってなかった?」
「…………」
見られていたんだということに驚き、そして言い当てられていることに動揺する。たしかにこの前の散歩のとき、モコに引っ張られ、早くはないものの、けっこうな距離を走った。そして、それはその日に限った話ではない。
私は、無意識にジャージのポケットに手を入れ、ハリネズミのストラップを探していた。部活中はいつも、バッグからジャージのポケットに移しているからだ。けれど、今日はバッグの中に入れたままで、手元にない。そのことで、いっそう胸の奥がザワザワと落ち着かなくなる。
「あぁ……ハハ、あのときは大丈夫で……」
「大丈夫なときと大丈夫じゃないときがあるってこと?」
「……たぶん」