「今日からここに宿泊されるお客さまはこれで全員です」


松野さんはそこまで言うと、いったん大柄な男性へ視線を向けた。


大柄な男性はうつむいていて、こちらの話を聞いているのかどうかも怪しい。


男性は松野さんからの視線にも気がつかないようだ。


松野さんは気を取り直すように笑顔を浮かべた。


「これから数日間同じ場所に宿泊するのです。どうですか、みなさまで自己紹介などしてみては」


松野さんの提案に大柄な男性が一瞬しかめっ面をしたように見えた。


しかし次の瞬間にはその表情は穏やかになっていて、あたしは首をかしげた。


「いいですね」


そう言ったのは同年代くらいの女性だ。


かわいらしい見た目と同じ、かわいらしい声をしていて、一瞬で場の空気がなごんだのがわかった。


女性の一言に松野さんもホッとした表情を見せる。


「じゃあまずは、お願いできますか?」


松野さんが視線を向けたのは弥生だった。


弥生は一瞬緊張したように頬を硬直させたが、ゆっくりとほほ笑んで頷いた。