この部屋は鍵がかかっていたのだ。


スペアキーはないから久遠さんが自分で鍵をかけて、そして自殺したに決まっていた。


「弥生が気になることってなに?」


「あたしは……ほら、これ」


そう言って指をさしたのはテーブルに向かうようにして置かれている椅子だった。


ごく普通の椅子で、これはあたしたちの部屋にも弘子の部屋にも、2脚ずつあった。


「普通首つりをする時って椅子を使わない? でもここに2脚ともあるってことは、久遠さんは椅子を使わずに首を吊ったってことだよね?」


「そうなるね。ベッドに立って吊ったんだろうね」


そう考えると別に怪しい部分はないように見える。


天井を見上げてみると首を吊れるような太い木は使われていない。


だから久遠さんはベッド横のカーテンレールにロープを結んだのだ。


「なにか悩みでもあったんだろうね」


あたしたちは部屋を出て雪の間へと戻ってきていた。


弥生は呟くように言う。


「そうだろうね」


久遠さんはもともと自殺するためにこのペンションを訪れた。


そう考えると、久遠さんの妙な行動も納得できる気がした。


最後に美味しいご飯を食べて、それから死んだのだ。


あたしは雪の間にあるカーテンレールをジッと見つめた。


木製の、しっかりしたカーテンレールだ。