「いざとなれば2階の窓から出られるし、食糧はまだ十分あります。そこは安心してください」


松野さんが早口に言った。


その説明に幾分か安堵する。


しかしこのまま雪が降り続ければ2階から外へ出ても、山を降りることは難しそうだ。


小沼さんが焦っている理由がわかって、あたしはもう1度氷の間をノックした。


「久遠さん起きてください! 雪がすごいんですよ!」


声をかけるが、やはり返事はない。


「松野さん、スペアキーはないんですか?」


「それが、僕は持っていなくて……」


松野さんは申し訳なさそうに言う。


「仕方ない。ちょっと待っていてください」


小沼さんはそう言うと1人でどこかへ行ってしまった。


雪で下半分が埋もれた景色を確認すると、空はまだ暗いことがわかった。


雪雲がこのペンションの上で停滞しているのだ。