5、
昼寝の時間が終わり、子供たちが目をこすりながら一人二人とプレイルームに戻ってきた。
しばらくすると、園長が、最後まで寝ていた子供を連れて部屋に入ってきて言った。
「じゃあ、アベル先生、あと30分ほど子供の相手をお願いしていいかしら?」
「分かりました」
すでに子供たち3人を背中に乗せて”竜騎士ごっこ”中だったアベルは、「みんな一度離れてもらっていいかな」と言って子供たちをなんとか引きはがし、庭に出た。
「おい、ダーレー。あと30分だけ子供たちと遊んでやってくれ……。 ん? どうした?」
アベルの姿を見たダーレーが落ち着かない様子で近づいてきて、しきりに背中に乗るように促している。
出発を急かすような仕草なので、そんなに子供の相手が嫌だったのか、とアベルは思ったが、ダーレー雰囲気から察するにもっと別のことを訴えているようだ。
「!」
ハッとしたアベルは部屋に戻り、子供たちを見渡した。
(…あの子がいない!)
お昼前に「先生の子供になるから、ドラゴンの乗り方を教えて」とせがんできたアップリケの子供がいないのだ。アベルは急いで教員室に駆け込んだ。
「園長、ドラゴンのアップリケが付いた服を着ている子の名前は?」
「え? リュウ君だけど、どうしたの?」
「その子が、昼寝の後から姿が見えないんだが」
「え!?」
アベルと園長、エマや他の先生たちも一緒に園内を探したが、どこにもリュウ君の姿はない。
「まさか。外に出たんじゃ…」
「みんなは、もう一度園内を探してください。外は私が探します」と言って、アベルは庭に飛び出した。
「ダーレー!」
アベルが背中に飛び乗ると、ダーレーは大きく羽ばたき、一瞬で空に舞った。
「ダーレー、ドラゴンのアップリケが付いた服を着ている子供を覚えているか?」
ダーレーは振り向いて頷いた。
「結構な時間が経っているから、もう園の近くにはいないかもしれない。もっと高いところから探そう」
ダーレーはもう一度大きく羽ばたき、さらに高く舞い上がった。
住宅街が一望できる高度まで上がったところで、ダーレーは旋回を始めた。アベルは街に走るすべての道一本一本を脳内に焼き付けていく。
偵察行動を主任務にする竜騎士は、一瞥しただけで脳に景色を焼き付けて状況把握することが出来るのだ。
「ここからは見えない。ダーレー、もう少し大きく旋回してくれ」
さらに高く大きく旋回を続けるダーレーを、保育園の園庭から子供たちが心配そうに見上げていたが、その時、ダーレーがある方向に一直線で矢のように飛んでいった。
リュウ君は、公園のベンチに座って泣いていた。
「リュウ君!」
リュウ君が見上げると、翼を広げたダーレーが頭上10mほどのところで止まり、その背からアベルが飛び降りてきた。
「勝手に外に出たらダメだろう!」
「わーん!」と言ってアベルの足にしがみついてきたリュウ君の肩を優しく抱き、顔を覗き込んで言った。
「勝手に外に出て、みんな心配したぞ。 一体どうしたんだ?」
リュウ君は、涙を拭いながら俯いて黙っている。
「怒ったりしないから、正直に言ってごらん」
「…あのね…お昼寝してたらオネショをしちゃって、それでもう竜騎士になれないと思って、それで…」
「そんなことで飛び出したかい?」
その時、アベルは子供の頃の記憶を思い出した。
===
「お父さん、ごめんなさい」と、干された布団の前で、まだ子供のアベルが涙ぐみながら言った。
「僕、失敗ばかりで、これじゃ竜騎士になれないかな?」
「大丈夫だよ。お父さんもお爺さんも、ドラゴンに乗る練習のときには何度も失敗したんだ」
「本当?」
「ドラゴンに乗るためには、何度失敗しても諦めちゃダメなんだ。それに竜騎士になってからも、難しいクエストに挑戦したり、激しい戦場で戦わなくちゃちゃならない。だから、竜騎士にとって一番大事なものは強い心を持ち続けることなんだよ。いつかアベルも竜騎士になったら、そのことを子供たちに教えなくてはならないよ。」
「うん。分かった!」
===
アベルは、リュウ君の目を見つめて言った。
「リュウ君、オネショしても保育園から逃げたりしちゃだめだ。 これからもたくさん失敗をするかもしれないけど、諦めずに頑張れば竜騎士になれるから」
「本当? アベル先生、嘘じゃない?」
「本当さ、約束するよ。さあ、みんなが心配しているから一緒に戻ろう」
「うん!」
「ダーレー!」
アベルは、リュウ君を抱えてダーレーに飛び乗った。
ダーレーは二人を乗せてあっとういうまに街を見下ろす高さまで飛び上がると、みんなが待つキラボシ保育園に向かって、力強く翼を羽ばたかせた。
昼寝の時間が終わり、子供たちが目をこすりながら一人二人とプレイルームに戻ってきた。
しばらくすると、園長が、最後まで寝ていた子供を連れて部屋に入ってきて言った。
「じゃあ、アベル先生、あと30分ほど子供の相手をお願いしていいかしら?」
「分かりました」
すでに子供たち3人を背中に乗せて”竜騎士ごっこ”中だったアベルは、「みんな一度離れてもらっていいかな」と言って子供たちをなんとか引きはがし、庭に出た。
「おい、ダーレー。あと30分だけ子供たちと遊んでやってくれ……。 ん? どうした?」
アベルの姿を見たダーレーが落ち着かない様子で近づいてきて、しきりに背中に乗るように促している。
出発を急かすような仕草なので、そんなに子供の相手が嫌だったのか、とアベルは思ったが、ダーレー雰囲気から察するにもっと別のことを訴えているようだ。
「!」
ハッとしたアベルは部屋に戻り、子供たちを見渡した。
(…あの子がいない!)
お昼前に「先生の子供になるから、ドラゴンの乗り方を教えて」とせがんできたアップリケの子供がいないのだ。アベルは急いで教員室に駆け込んだ。
「園長、ドラゴンのアップリケが付いた服を着ている子の名前は?」
「え? リュウ君だけど、どうしたの?」
「その子が、昼寝の後から姿が見えないんだが」
「え!?」
アベルと園長、エマや他の先生たちも一緒に園内を探したが、どこにもリュウ君の姿はない。
「まさか。外に出たんじゃ…」
「みんなは、もう一度園内を探してください。外は私が探します」と言って、アベルは庭に飛び出した。
「ダーレー!」
アベルが背中に飛び乗ると、ダーレーは大きく羽ばたき、一瞬で空に舞った。
「ダーレー、ドラゴンのアップリケが付いた服を着ている子供を覚えているか?」
ダーレーは振り向いて頷いた。
「結構な時間が経っているから、もう園の近くにはいないかもしれない。もっと高いところから探そう」
ダーレーはもう一度大きく羽ばたき、さらに高く舞い上がった。
住宅街が一望できる高度まで上がったところで、ダーレーは旋回を始めた。アベルは街に走るすべての道一本一本を脳内に焼き付けていく。
偵察行動を主任務にする竜騎士は、一瞥しただけで脳に景色を焼き付けて状況把握することが出来るのだ。
「ここからは見えない。ダーレー、もう少し大きく旋回してくれ」
さらに高く大きく旋回を続けるダーレーを、保育園の園庭から子供たちが心配そうに見上げていたが、その時、ダーレーがある方向に一直線で矢のように飛んでいった。
リュウ君は、公園のベンチに座って泣いていた。
「リュウ君!」
リュウ君が見上げると、翼を広げたダーレーが頭上10mほどのところで止まり、その背からアベルが飛び降りてきた。
「勝手に外に出たらダメだろう!」
「わーん!」と言ってアベルの足にしがみついてきたリュウ君の肩を優しく抱き、顔を覗き込んで言った。
「勝手に外に出て、みんな心配したぞ。 一体どうしたんだ?」
リュウ君は、涙を拭いながら俯いて黙っている。
「怒ったりしないから、正直に言ってごらん」
「…あのね…お昼寝してたらオネショをしちゃって、それでもう竜騎士になれないと思って、それで…」
「そんなことで飛び出したかい?」
その時、アベルは子供の頃の記憶を思い出した。
===
「お父さん、ごめんなさい」と、干された布団の前で、まだ子供のアベルが涙ぐみながら言った。
「僕、失敗ばかりで、これじゃ竜騎士になれないかな?」
「大丈夫だよ。お父さんもお爺さんも、ドラゴンに乗る練習のときには何度も失敗したんだ」
「本当?」
「ドラゴンに乗るためには、何度失敗しても諦めちゃダメなんだ。それに竜騎士になってからも、難しいクエストに挑戦したり、激しい戦場で戦わなくちゃちゃならない。だから、竜騎士にとって一番大事なものは強い心を持ち続けることなんだよ。いつかアベルも竜騎士になったら、そのことを子供たちに教えなくてはならないよ。」
「うん。分かった!」
===
アベルは、リュウ君の目を見つめて言った。
「リュウ君、オネショしても保育園から逃げたりしちゃだめだ。 これからもたくさん失敗をするかもしれないけど、諦めずに頑張れば竜騎士になれるから」
「本当? アベル先生、嘘じゃない?」
「本当さ、約束するよ。さあ、みんなが心配しているから一緒に戻ろう」
「うん!」
「ダーレー!」
アベルは、リュウ君を抱えてダーレーに飛び乗った。
ダーレーは二人を乗せてあっとういうまに街を見下ろす高さまで飛び上がると、みんなが待つキラボシ保育園に向かって、力強く翼を羽ばたかせた。