「こっからはワシが説明する」

店主が突然割って入ってきた。雪穂は戸惑ったような表情で店主を見る。

「おじさん?…私が自分で話さなくていいの…?」

「ええ」

店主は彼女を慮っているのだろうか、そう言って彼女を遮った。

「雪穂の実家は地元で長く酒蔵を営んでおる。結婚相手の男は蔵で酒造りの見習いをしちょった。だが見習いはキツイ。元々真面目な男じゃないけん、仕事もサボるようになっての…。親父さんにどやされて、反発して出て行きよった…」

日本酒造りの見習い。それが一体どんな仕事なのか。俺には想像もつかない。

「それだけ…厳しいんですね…」

「そげだ。雪穂は一人娘で跡取りだけん。婿も養子に入ってな。頭が悪い男だったけん、事務仕事はできん。それで自分は現場がええ、言うて。現場の仕事だろうが事務方だろうが、後継者は必要だ。とにかく蔵に入る。そいでなけりゃ雪穂との結婚を許してもらえんかったんだわ」

老舗の酒蔵ゆえの跡取り問題。
それはさぞ責任重大だっただろう。

「でも…悪いのは彼です。彼が出て行ったのなら雪穂さんが家を出る必要はなかったんじゃないですか?」

「それが田舎の厄介なところでの…。ちっちゃい町じゃ、雪穂の話はあっというまに広まるんだ。しかも尾ひれがついて…」

「そんな…」

「周囲の好奇の目に晒されて…雪穂はいたたまれんようになって…逃げるように出て来たんだわ…」

自分が悪くなくても出て行かなければならないなんて。
理不尽過ぎる。